1-3. 一問目は「2A+30=50 A=?」。

 一問目は「2A+30=50 A=?」。

 これは悩むレベルの問題じゃない。すぐに名も知らぬクラスメイトが手を挙げた。学園の自由な校風を象徴したみたいな長い髪が、ふわりと揺れる。

「一問目の答え。Aは10ですね」

「対馬、正解だ。さあ、あと一問。残り時間は四分四七秒だ」

 教室にシイナ先生の声が響いた。

 俺はちらっと黒板を見て、次の問題を確認する。

 二問目は「(1-C)×(2-E)×(3-A)=?」。

 ペンの回転が止まった。解けない数式ではないけれど、一問目みたいに数字で答えは表せない。

 クラスのみんなも、なにかが引っかかったらしい。さっき五秒もかけずに手を挙げた長髪も、親指の爪を嚙みながら考え込んでいる。

「残り四分」

 先生のカウントダウンに背中を押された別のクラスメイトが手を挙げる。

「二問目の答えですけど、-ACE+2AC+3CE-2A-6C-3E+6……だと思います」

「安田。おまえは、とても素直な生徒だ」

 シイナ先生は、安田と呼んだ生徒の横に行くと、彼の頭を指先で突いた。

「おまえのような生徒は、本来であれば歓迎されるべきだが、この問題においては違う。不正解だ」

 解答権が一回、減った。でも、これではっきりしたことがある。

 この問題は、普通の計算問題じゃない。

「どうやら次の日曜日は、みんなで楽しく過ごせそうだな」

 俺の横を通り過ぎながら、シイナ先生は言った。頭の片隅に計算式以外のなにかが引っかかる。

 次の日曜日。次の―

「ダメ、ダメ、ダメ、ダメ」

 口からぽろっと漏れてしまった。あわてて周囲を見回す。よかった。誰にも聞かれてない。

 俺はひとつ息をついた。そうだった。今度の日曜日は、知る人ぞ知る最強の地下アイドル『ワン・オア・エイト』のライブの日だ。転校続きで遠征もできなかった俺が、ようやく手に入れた貴重な時間。このままでは、その大切な時間がこの女教師に奪われてしまう!

「残り三分を切ったぞ。誰も手を挙げないのか?」

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