1-4. シイナ先生の目線に、みんなが下を向く。

 シイナ先生の目線に、みんなが下を向く。誰も答えにたどり着けていないことは明らかだ。

 ……しかたない。保険をかけておくか。

 俺は、いつもの積極的な消極策に取りかかる。まず、ライブを逃すわけにはいかないので答えは考える。でも、無闇に答えて、今のいい感じに目立たないポジションを失うことは避けたい。だから、許される限りヒーローの登場を待つ。たいていはヒーローが現れて、なんとかしてくれる。

「残り二分三〇秒」

 ペンを回す指先に力をこめて、積極的に答えを探る。シイナ先生は最初に「おまえたちなら両方に答えられる」と断言した。なんで、そんなことをルール説明の中でわざわざ言ったんだ?

「残り二分。よく考えろよ」

 シイナ先生はチョークを持つと、黒板に書かれた1-Cのところをぐるぐると円で囲んだ。そんなに強調しなくたって、みんな考えて――

 いや、まさか。そういうことか!

 俺の頭の中で計算が終わる。ほぼ同時に安田が手を挙げた。来たか、ヒーロー。

「……消火器ではないでしょうか」ちょっと待て、安田! その答え、どこから出てきた。

「おまえ、その答え、スマホで調べただろ? 浅いなあ。不正解!」

 俺は安田を呪った。解答権は残りあと一回。たちまち最後の責任は取りたくないよ空気が教室を支配する。

 ヒーロー見参。ヒーロー見参。俺は祈る代わりにペンを回した。

「残り一分。誰でもいいから手を挙げたらどうだ?」

 勝者の余裕を口元に漂わせながら、シイナ先生はゆっくりと教室を巡回する。

 ワン・オア・エイトの推しメン、みくりんの顔が脳裏に浮かんだ。灰色な毎日を支えてくれる緑の風。みくりんに会うのをあきらめるか。それとも、クラスメイトの関心を集める覚悟で答えるか。

 俺の葛藤が乗り移ったシャープペンシルの回転が指先で加速した。

「一〇秒前!」

 ヒーロー見参。ヒーロー見参。いい加減、誰か答えろよ。いや、答えてください。

「五秒前!」

 様子をうかがうな、安田! ヒーローは絶対におまえじゃねえええええ!

「―難波。おまえ、どうかしたのか?」

「え?」

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