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お前らは現実とゲームの区別がつかない

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現実を舞台にポイントを競うゲームにハマっていく少年たち。「こんなことになるなら、友だちなんて作らなければよかった……」
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#ミステリー

4-18. 息を整えていた俺の耳に、不意に「難波一」という言葉が飛びこんできた。

 息を整えていた俺の耳に、不意に「難波一」という言葉が飛びこんできた。あわてて、まわりを見回す。いつもと同じような帰宅時の風景。いろいろと考えすぎて、空耳でも聞こえたのか。いや、そんなことはない。たしかに聞こえた。誰がこんな場所で俺の名前を口にしたんだ?

 ホームの上に知っている顔はひとつもない。いくら俺が人付き合いを避けていたとはいえ、さすがにクラスメイトの顔ぐらいは覚えている。当然、他のクラ

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4-17.「なにか、あったのか?」

「なにか、あったのか?」

 廊下ですれ違ったシイナ先生に、思い切ってユウシのことをたずねてみたところ、先生にも欠席の連絡はなかったみたいで、逆につっこまれてしまった。俺はあいまいな笑顔を浮かべながら首を振った。

 そして昼休み。ふだんならパタパタと騒々しい足音を響かせて教室に飛びこんでくるトシも、黙々と机やイスを動かし始めるヒロムも、いつのまにか教室にいるジュンペーも姿を見せなかった。

「あ

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4-16. シャワーを浴び終えると、Tシャツと短パンに着替えて、自分の部屋に戻った。

 シャワーを浴び終えると、Tシャツと短パンに着替えて、自分の部屋に戻った。カーテンが開けたままになっている窓の外は真っ暗で、窓に叩きつける雨音だけがノイズのように耳に響いた。机の上に置いたスマホがなにかを受信したのか、ぽうっと淡い光を放っている。

 その光を避けるようにベッドにもぐり込んだ。いつの間に俺は、こんなふうになってしまったのだろう。ちょっと前まで、ユウシもトシもヒロムもジュンペーも、他

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4-15.「もう俺を巻き込まないでくれ」

「もう俺を巻き込まないでくれ」

 自分でもひどく冷めた言い方だと思った。ほんの少しだけユウシは表情をくもらせた。

 俺はユウシに背を向けると足早に出口へ向かった。なにを話してもユウシを傷つけるような言葉しか出てこない気がした。扉を開けると、決まりの悪そうな顔をした三人と目が合った。

「……イチくん」「ど、どうしたのだね?」「………………」

「みんな、ごめん」

 とまどい続ける三人を振り切

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4-14. いったいどこがひと安心なんだ。

 いったいどこがひと安心なんだ。俺は小さく息をつく。ユウシが体の向きを変えて俺の顔を見た。

「どうかしたのかい?」

「わかってるだろ」右足を半歩引いて、ユウシと向かい合う。おまえがわかっていないはずがない。

「……さっき配信されたミッションのことだよね。わかってるさ」

 俺は拳に力を込める。

「どんな方法でもいいから、学園の非常ベルを五つ同時に鳴らす。それが今日のミッションだ」

 ユウ

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4-13. 翌日は、午前の授業が終わったら、すぐに学校を抜け出すつもりだった。

 翌日は、午前の授業が終わったら、すぐに学校を抜け出すつもりだった。一昨日までのように、みんなとアルミの話で盛り上がれるとは。とても思えなかった。

 でも授業が終わると同時に、トシが教室に飛びこんできたので抜け出す機会を失ってしまった。

「ユウシ、昨日のミッションのスコアが入ってないのだよ。どうなっているのだね?」

「そんなはずはないよ。深夜だったけれど、ちゃんと解答はしたはずだよ」

「提

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4-12. 時計の針は一一時を回っていたが、予想どおりユウシはすぐに返事をよこした。

 時計の針は一一時を回っていたが、予想どおりユウシはすぐに返事をよこした。

『それで相談したいことってなんだい、イチ』

 グループメッセージを避け、個別にメッセージを送った俺に、ユウシも疑問を隠せない。

『まさか、恋愛系じゃないよね? そういった話は僕よりも――』『そうじゃないよ』

 そう言って、さっき見つけたアルミリークスのパスワードを伝えると、ユウシからの返信が途絶えた。はたしてユウシ

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4-11.色の選択をしたといっても

 赤色の選択をしたといっても、いきなり犯罪行為に結びつくようなミッションが出されるわけではありません。この段階に至ってもパペットマスターは、難易度と方向性を少しずつ変えることで、プレイヤーにこれぐらいなら大丈夫と思わせるように仕向けています。僕の場合で言えば、授業時間中に学校の非常ベルを鳴らすというミッションが最初だったのではないかと思います。

 パペットマスターの正体や目的については、いまだに

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4-10. はじめまして。僕の名前は友達仮です。

 はじめまして。僕の名前は友達仮です。もちろん本名ではありません。

 僕は六か月ほど前に友だちに教えられてアルティメット・ミッションを始めました。プレイヤーのみなさんならよくご存知の現実世界を舞台にしたARGと呼ばれるゲームです。

 ですが、そのために僕はいくつかの犯罪行為に巻き込まれています。

 このブログには僕が巻き込まれた犯罪行為の断片や経緯、そして僕の周辺で起きている変な動きについて

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4-9. ベッドから降りて、机の上に転がっていたシャープペンシルを取った。

 ベッドから降りて、机の上に転がっていたシャープペンシルを取った。

 どこか見落としているところがあるはずだ。

 シャープペンシルを一度、回す。ツイートされた文章は全員が調べている。可能性はゼロではないけれど、文章から直接すくい上げられそうなものであれば、ユウシが気づいているはずだ。

 シャープペンシルをもう一度、回す。ツイートに添付された写真も全員が調べている。特に場所に関する写真は、ヒロ

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4-8.『世界レベルでも見てもパスワードをまじめに管理している者など少ないのだよ』

『世界レベルでも見てもパスワードをまじめに管理している者など少ないのだよ。123456とか、abc123とか、一秒で突破できるパスワードは意外に多いのだ』

『batmanや、supermanみたいな人気キャラクターの名前や、好きな野球チームやサッカーチームの名前、選手の名前も、自分が覚えやすいからって理由でよく使われているね』

『あとはdragonとか、shadowとか、wizardもあるのだ

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4-7.俺はシャープペンシルをくるんと回した。

 俺はシャープペンシルをくるんと回した。しかたない。こいつを終わらせて帰るか。

 ひとり取り残された教室で黙々と終わらせたプリントを職員室のシイナ先生の机に置いて学園を出たときには午後六時半を過ぎていた。部活を終えて生徒が退出したあとの校庭はひっそりとしており、俺が校門を出たときには、警備のおじさんが半分閉めた門の前でヒマそうに立っていた。陽はまだ落ちていなかったけれど、鉛色の分厚い雲に覆われた

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4-6.シイナ先生は何度も「うんうん」と小さくうなずくと、目にうっすらと涙を浮かべた。

 シイナ先生は何度も「うんうん」と小さくうなずくと、目にうっすらと涙を浮かべた。

「さっきから気になるんですけど、先生は俺になにを期待しているんですか?」

「期待? 期待なら最初から微塵もしていないぞ。なぜなら、無駄にプレッシャーをかけないのが、私の教育方針だからだ。放置プレイ、大いに歓迎だ」

 聞いてみた俺がバカだった。だが、教育者が放置プレイというのはどうなんだ。

「先生の教育方針はわ

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4-5.シイナ先生は素早くプリントを取り上げると、裏に返して再び机の上に置く。

 シイナ先生は素早くプリントを取り上げると、裏に返して再び机の上に置く。俺はシャープペンシルをかまえたままの間抜けな姿勢で放置された。なんなんですか、もう! 全力でつっこみたかったが、さらに話がややこしくなりそうだったので、黙って言葉をのむ。

 先生は裏返したプリントを左手で押さえながら、右手の人さし指を立てる。

「冗談はさておき。おまえを取り巻く環境は、この一か月弱で大きく変わったはずだ。も

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