4-12. 時計の針は一一時を回っていたが、予想どおりユウシはすぐに返事をよこした。
時計の針は一一時を回っていたが、予想どおりユウシはすぐに返事をよこした。
『それで相談したいことってなんだい、イチ』
グループメッセージを避け、個別にメッセージを送った俺に、ユウシも疑問を隠せない。
『まさか、恋愛系じゃないよね? そういった話は僕よりも――』『そうじゃないよ』
そう言って、さっき見つけたアルミリークスのパスワードを伝えると、ユウシからの返信が途絶えた。はたしてユウシは、ブログに書かれていることをどんなふうに受け止めるだろうか。あらためてアルミリークスのページを開き、もう一度、読み返す。
『とても興味深いね』
パスワードを教えてから、五分もしないうちにユウシからの返信が届いた。
『なんだ、それ?』
『うわさ話で聞いたことはあるけれど、ここまで整理された情報は見たことがない』
『おまえ、怖くないの?』
ブログの記事は、現実がいつのまにかゲームに侵食されていて、プレイヤーは娯楽のための登場人物に過ぎない、といっているんだぞ。そのうえ、逃げ道だってない可能性がある。
『怖くないわけはないさ。イチほどではないけれど、不安に襲われてはいるよ』
ユウシのメッセージからは、どこまでも冷静に分析している雰囲気しか伝わってこない。
『でも、その不安は、このブログの記事が本物である、という前提に立っている』
『……パペットマスターのしかけたニセ記事だと思ってるのか?』
『その確率は高いと思う。それに、もし本物だったとしても大きな問題にはならないんじゃないかな。なぜなら、僕たちにはミッションを選択する自由がある。つまり、ハイリスクだと自分たちが判断したミッションは避ければいい。それだけのことだよ』
それだけのこと? じゃあ、なんでブログの持ち主は避けられなかったんだ、と言いたかった。でも言えなかった。この話は、ブログが本物かニセ物かという、証拠のない水掛け論なのだ。
『じゃあ、どうするんだ?』
何回も下書きを書いては消して、ようやくそれだけの文字を送った。
『もう深夜だしね。みんなには明日、知らせよう。それから、見つけてくれたパスワードは、僕からアルミに解答しておくよ。それでいいよね?』
『ああ』
歯切れの悪い、あいまいな返事しかできなかった。
『おやすみ。また明日、学校で』
俺は今夜だけで何回も読んだアルミリークスの記事を思い返す。いつのまにかゲームに取り込まれた生活。ミッションを陰で支える働き蜂。より刺激を求める視聴者。スコアと再生数で評価されるプレイヤー。すべてがパズルのピースのように組み合わさっている。
ベッドの上に投げ出されていたスマホが軽く二度、振動した。ユウシが解答を終えたのだろう。正直、今日のミッションの結果など、どうでもよかった。
どこまでがゲームで、どこからが現実なのか―あいまいで、ひどく不安定な境界線の上に俺たちは立っている。窓を叩く雨の音が突然、強くなった。
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