4-9. ベッドから降りて、机の上に転がっていたシャープペンシルを取った。
ベッドから降りて、机の上に転がっていたシャープペンシルを取った。
どこか見落としているところがあるはずだ。
シャープペンシルを一度、回す。ツイートされた文章は全員が調べている。可能性はゼロではないけれど、文章から直接すくい上げられそうなものであれば、ユウシが気づいているはずだ。
シャープペンシルをもう一度、回す。ツイートに添付された写真も全員が調べている。特に場所に関する写真は、ヒロムとジュンペーが足を運び、アルミとの関連も含めて調べているはずだ。
……文章と写真以外で、みんなが調べきれていない場所。
たとえば、フォロワーの中にあやしいキャラクターがいるとか、その逆にあやしいキャラクターをフォローしているとか、お気に入りにした投稿の中に手がかりがあるとか。
少し考えてから、俺は首を横に振った。今回のミッションにかぎれば、パペットマスターはこのアカウントの持ち主を現実に存在する人物として扱っている。だからパスワードの手がかりも、いかにもゲームといったかたちではなく、ごく普通のかたちでしかけられているはずだ。
現実的に考えれば、死の間際にダイイングメッセージを残す被害者がまずいないように、普通の人はパスワードをツイッターのフォロワーなどから考案したり、記録したりはしない。
もっとシンプルで、ありがちなもの。ありがち過ぎて、見落としているもの。ユウシは『自分が覚えやすい人気キャラクターの名前や、好きな野球チームやサッカーチームの名前が多い』と言っていた。友達仮の好きなもの。友達仮が覚えやすいもの。
画面をスクロールさせていた手が、ふと止まる。
ブルーグレーの髪。パズルのピースみたいな髪留め。紅白の巫女衣装。ヘッダ画像に鎮座する見慣れたあのウサギに目を奪われて気づかなかったけれど、このアイコンはなんだ?
本人のプロフィールにも、投稿にも、どこにもアイコンに関係していそうな情報はない。だからこそ、全体的に痛い自己主張が目立つこのアカウントの中で、二色の巫女のアイコンは異彩を放っていた。まるで、アイコンだけは本当の自分の趣味なんです、とキャラクターが言っているように。
俺はブラウザを立ち上げると、コピーした友達仮のアイコンを画像検索してみる。思ったよりも早く答えは見つかった―ウィキぺたん。まさかウィキペディアまで擬人化されているとは思わなかった。
すぐにメモ帳アプリを開き、ウィキぺたんという名前から思いつきそうなパスワードを書いていった。
wikipe-tan、wikipetan、kasuga~commonswiki、20060108、20061002、miko……。
英字と数字の組み合わせまで含めれば、最終的なパスワード候補は二〇通りを超える。つまり、ここから先の照合は、すべて力技ということ。俺はブラウザを立ち上げると、カギのかかったタンブラーのページを開く。あとはメモ帳とブラウザを交互に切り替えて、パスワード候補をタンブラーのページにコピペしていく。単純だけれど、大切なお仕事。
機械のように淡々とコピペをくりかえすこと一六回。これまでは無機質に「パスワードが違います」としか表示されなかった画面がいきなり切り替わると、長方形の枠内にさまざまな画像や文章が浮かぶ、ちょっと見た目の変わったブログが現れた。タイトルはアルミリークス。どんな秘密を漏らすんだ? 俺は「はじめに読め」と書かれた長方形をタップする。読み込み時間が少し続いて切り替わった画面には、ブログを作ったキャラクターの自己紹介と、その目的がまとめられていた。これまでのミッションで見たどのゲーム内資料よりも作り込まれていることは、ひと目でわかる。
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