4-8.『世界レベルでも見てもパスワードをまじめに管理している者など少ないのだよ』

『世界レベルでも見てもパスワードをまじめに管理している者など少ないのだよ。123456とか、abc123とか、一秒で突破できるパスワードは意外に多いのだ』

『batmanや、supermanみたいな人気キャラクターの名前や、好きな野球チームやサッカーチームの名前、選手の名前も、自分が覚えやすいからって理由でよく使われているね』

『あとはdragonとか、shadowとか、wizardもあるのだ。中二病パスワードは世界共通なのだよ』

 トシの話では、こういったよくあるパスワードリストというものが世の中にはあって、総当たり攻撃ではまずそのリストに記載されているものから調べるらしい。そして、その次に多いパスワードが個人に紐づいた英数字になりうるもの……だそうだ。

『誕生日がほぼ特定できたので、ここから組み合わせを考えるのだよ。たとえばh100924とか、19980924とか、980924とか、libra0924などだね』

『住んでいる地域もわかっているからね。その地域にある公立の小中学校もリスト化できる。意外に多いんだよね。卒業した学校の愛称をパスワードに組み込んでいる人って』

 もう、どこからつっこんでいいのかわからない程度には危ないメッセージが飛び交っていた。とてもじゃないが、そこらのファストフード店で話せる内容ではない。

 ユウシとトシは、それからも新しい情報を見つけてはリストにパスワード候補を追加していった。だが、それでも解析には至らなかったらしい。部活の終了時間となる午後五時三〇分に『解析は続けておくので、なにかわかったら連絡をするのだよ』というトシのメッセージが残されていた。

 ヒロムとジュンペーの現地調査は、さらに一時間半あとの午後七時に切り上げることにしたらしい。俺がちょうど自宅近くの駅に降り立ったとき、『手がかりになりそうなもんはなかった』とヒロムからのメッセージが届いた。

『お疲れなのだよ』『お疲れさまなのです』『また明日。学校で』たちまち他の三人からもメッセージが届く。俺も「お疲れ」とひとこと打って送信する。頭の片隅でこれまでの情報を整理し始めていた。

 家に戻ると、夕食をとり、シャワーを浴びた。アルミに取り組んでいるからといって、寝食を忘れてレベルアップに勤しむオンラインゲーマーのような生活はしていなかった。別にゲームに冷めているというわけではなく、アルミの展開がわりと生活密着型だったからだ。二四時間起きていない登場人物。朝に起きて、昼に活動をし、夜に寝るという生活リズムに合わせて出題されるミッション。

 だから、アルミは自然に日常の中に溶け込んでいた。まあ、宿題は忘れるんだけれど。

 ベッドに寝転がると、充電していたスマホを手に取る。

 午後七時以降、誰からもメッセージは来ていなかった。めぼしい進展はなかったのだろう。

 このまま眠ってしまおうかと思ったけど、どうにも頭の中のもやもやが晴れない。あのキャラクター「友達仮」からのツイートはさほど多くはなかった。せいぜいが三か月分、ツイート数にして三八一ツイート。つまり、すくい上げることができる情報は、たかが知れている。ユウシもトシもヒロムもジュンペーも、かなり踏み込んで調べていたはずだ。つまり――

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