4-17.「なにか、あったのか?」

「なにか、あったのか?」

 廊下ですれ違ったシイナ先生に、思い切ってユウシのことをたずねてみたところ、先生にも欠席の連絡はなかったみたいで、逆につっこまれてしまった。俺はあいまいな笑顔を浮かべながら首を振った。

 そして昼休み。ふだんならパタパタと騒々しい足音を響かせて教室に飛びこんでくるトシも、黙々と机やイスを動かし始めるヒロムも、いつのまにか教室にいるジュンペーも姿を見せなかった。

「あいつらケンカ別れでもしたの?」

 教室の対角線側で、こちらをチラチラと見ながら、誰かが言った。ここ数週間の活躍で俺たちのチームは、学園内でも知る人ぞ知るチームになっている。そんなトップチームに漂う不穏な空気ほど、ひまつぶしに最適な話題はない。俺はカバンから弁当箱を取り出すと、クラスメイトの視線を振り切るように中庭に行った。

 昨日の大雨が最後の抵抗だったのか、中庭には痛いほどの光線が降り注いでいた。校舎の窓ガラスがはねかえす反射光が目に染みる。俺は貴重な木陰を見つけると、生温かくなったベンチに腰を下ろして、ひざの上に弁当を広げた。誰も来ない中庭を眺めながら、黙々と弁当を口に運ぶ。

 覚悟を決めて学校に来たまでは良かった。でも、証拠となるサイトが消えてしまった今、俺とユウシが対立した理由も、俺が心配していることも、三人にうまく伝えられるとは思えなかった。あのあとみんなは、どんな話し合いをしたのだろう。そして、どんな答えを出したのだろう。たしかめたくても、唯一の手がかりであるスマホは自宅に置いたままだった。

 結局、昼休みも、誰かと偶然に会うことはなかった。

 放課後になって足を伸ばした部室の扉には、しっかりとカギがかかっていた。廊下側の壁に背中を押しつけて、しばらく誰か来ないか待ってみる。

 俺にとって、ここで過ごした時間はなんだったのだろうか。

 みんなにとって、ここで過ごした時間はなんだったのだろうか。

 部室の扉を強引に開けたら、中に閉じ込められた思い出は風化してしまうだろうか。

 そんなことを考えて、ようやく俺は気づいた。どんな称賛や勝利よりも失いたくなかったのは、思い出すだけで幸せな気持ちになれる、一緒に時間を過ごした仲間たちだ。

 なんて単純で、なんて簡単な答え。

 俺は何度も後ろを振り返りながら部室を離れると、早足で校門へ向かった。

 トシでも、ヒロムでも、ジュンペーでもいい。とにかく三人に連絡をとって、ちゃんと説明をしなくちゃいけない。アルミのことにしたって、俺やユウシの思いだけで勝手に止めたり、進めたりしちゃいけないんだ。証拠のあるなしなんて関係ない。俺たちはチームなんだから。

 校門を出た瞬間から、自然に走り出していた。商店街を駆け抜け、駅の改札を通り、自分の家に向かう路線のホームに降りる。ホームでは、囲町学園の生徒とよその学校の生徒を合わせた一五人ぐらいが、スマホをいじったり、友だちと話したりしながら電車を待っていた。

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