4-7.俺はシャープペンシルをくるんと回した。
俺はシャープペンシルをくるんと回した。しかたない。こいつを終わらせて帰るか。
ひとり取り残された教室で黙々と終わらせたプリントを職員室のシイナ先生の机に置いて学園を出たときには午後六時半を過ぎていた。部活を終えて生徒が退出したあとの校庭はひっそりとしており、俺が校門を出たときには、警備のおじさんが半分閉めた門の前でヒマそうに立っていた。陽はまだ落ちていなかったけれど、鉛色の分厚い雲に覆われた空は、今にも雨が降り出しそうな気配だった。
パソコン部の面々からもすっかり取り残されてしまった俺は、自宅までの道すがらにみんなが送ってくれていたグループメッセージを読む。
『イチも、ついに補講グループの仲間入りなのだな。歓迎するのだよ』違うわ。
『トシくんのような補講の上級者になると、補講の途中で教室を抜け出す技を身につけられるらしいのです。それまでがんばるのです』これからも補講を受け続けること前提かよ。
ひとつひとつのメッセージを既読にしながら読み進めたが、やはり今回のミッションには、みんな手を焼いているようだ。メッセージに冗談のたぐいはあっても、具体的な手がかりに結びつきそうな話題がない。今回の場合で言えば、手がかりがそのまま答えになる可能性が高いのだけれど……。
『ツイッターの投稿に出てきた場所を全部リストアップした』
『このアカウントのキャラは東東京に住んでる設定なのですね。念のために現地を回ってくるのです』
どうやらヒロムとジュンペーは場所に絞って調査を続けてくれたみたいだ。一時期、ネット上で話題になった力士シールみたいなものが見つかるかもしれないということだろう。
『総当たり攻撃の方は特に進展なしだ。このままPCには解読を続けさせるけど、この時間までに解読できないってことは時間がかかるかもね』
一方でユウシとトシはPCに解読を任せつつ、パスワードにつながりそうな情報を探していた。
『えーと「去年の九月の誕生日では……」という投稿がある。誕生日は九月らしいね』
『星座占いの結果は、天秤座で投稿しているのだよ。つまり二四日から三〇日までのどれかなのだ』
『プロフィール欄にはたしか「ラノベ好きの高校生」とあったよね』
『そうなると年齢は一六歳から一八歳のいずれかだなー。もうちょい年齢が絞り込めないかなー』
『待って。「目をつけていた一年生が先輩と……」という投稿がある。これは高二なんじゃないか』
こいつらにかかると、自分がつぶやいているなんてことのない投稿が、いかに個人情報の固まりかということを思い知らされる。たしかに今は名前も顔も性別もわからない。でも、足立区のどこかに住み、駒込あたりの高校に通う平成一〇年九月二四日から三〇日に生まれた高校二年生だということは、一時間もログをあさればわかってしまう。そりゃ学校でも警告するわけだ。効果薄いけど。
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