4-11.色の選択をしたといっても
赤色の選択をしたといっても、いきなり犯罪行為に結びつくようなミッションが出されるわけではありません。この段階に至ってもパペットマスターは、難易度と方向性を少しずつ変えることで、プレイヤーにこれぐらいなら大丈夫と思わせるように仕向けています。僕の場合で言えば、授業時間中に学校の非常ベルを鳴らすというミッションが最初だったのではないかと思います。
パペットマスターの正体や目的については、いまだにわかっていません。ですが、ミッションを見たがる視聴者がいるということ、時には悪ふざけに近いミッションがあることから、テレビゲームのネット配信のようなかたちでミッションを放送して利益を得ている可能性はありそうです。
また、これは証拠があるわけではありませんが、僕がミッション中にドローンを飛ばして撮影した映像と、よく似た映像が大手メディアで使われたこともありました。おそらく、こういったこともパペットマスターの仕事の一部ではないかと思います。
ミッションのライブ配信を体験したプレイヤーであれば、どこからかカメラを回している第三者の存在を知っていることと思います。僕は、この第三者を働き蜂と呼んでいますが、彼らがプレイヤーなのか、運営側の人間なのかはわかっていません。
あっという間に喉元まで沼に呑み込まれた俺の中に、どろりと冷たいかたまりが流れ込んでくる。頭の中で、これはゲームなんだ、と何度も言い聞かせた。まったく、たかだかスマホのゲームに、どれだけ壮大な設定だよ。こんな話、誰に聞かせたって信用されるわけないだろ。
アルミのルールは、かなり厳格に守られています。僕がこのブログに記録を残そうと考えたのも、あるミッションで警察に補導されてアルミのことを話してから、自分の身に危険を感じることが、たびたび起きたからです。最初は、すれ違いざまに働き蜂から告げられた警告でした。今となっては警告の段階で止めなかったことを後悔するばかりです。
気づくと四〇分以上、ブログを読んでいた。硬直していた指からスマホを引きはがして枕元に放り投げ、ベッドに倒れ込む。もし、ブログがパペットマスターのしかけだとしたら、いったいどんなつもりで俺たちに提示したのだろう。そして、もしブログが本物だとしたら―。
天井を見つめたまま、いろいろな可能性を考える。
どちらにしても、誰かの意図があることはたしかなのだ。そして、最悪の場合は、誰かが傷つくことだって考えられる。判断をするのに、それ以上の理由はいらないはずだ。
極端すぎる話かもしれない。よくできたしかけに釣られただけの笑い話かもしれない。でも、気がかりなことを抱えたままでいるよりは絶対にいい。
そんなふうに考えた自分に、思わず苦笑いをする。だから、ひとりでいる方が気楽なんだ。
おもむろに身体を起こすと、スマホを取ってメッセンジャーを立ち上げた。
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