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面倒くさいくらいの方が面白い

1月末の月曜日。
友達の佳(よし)が働いている美容院に行った。
佳とはこの美容院で、美容師と客という関係から始まった。少し強面で入れ墨の入った巨体ながら、いつもニコニコしていて話好き、共通の趣味も多く、必然のように仲良くなった。
休みの日に飲みに行っては人間関係や政治、仕事論に漫画など、多岐にわたる話題を肴に酒を飲んでいる。

髪を切ってもらいながら、仕事や遊びの中で出会った人との距離感の取り方や人間関係ってどうなれば面白いのかという話をしていた時、佳が言った。
「結局のところさ、面倒くさいくらいの人の方が面白いんだよな」
美容院で何を話し込んでいるんだかって感じだが、私は鏡越しに佳を指差して「ほんと、それ」と言いながら頷いていた。

「面倒くさいくらいの人の方が面白い」と言われて、真っ先に思い浮かんだのは行天だった。行天は高校の同級生で今も親友だ。
行天と知り合ったのは高校1年、15,16歳くらいの時。私は現在30歳なので、人生の半分を行天と過ごしてきた計算になる。
ただ、いまだに行天のことがよくわからない。
「あいつ変わっているよね〜」とかじゃなくて、普通に冷静にわからないのである。


私と行天は20代前半〜中盤にかけてよく喧嘩をしていた。
いまだに納得できない話を一つ紹介する。

私が茨城県に赴任していた24,5歳の頃、初めて付き合った同性パートナーと別れ、パートナーが私部屋から出て行った。傷心して何にも手がつかず、思い出が詰まった部屋からとにかく引っ越しをしなくてはならないと感じ、新しい転居先を決めた。
ただ、一人で引っ越しをすると心が潰れてしまいそうな気がして、行天に助けを求めた。快く了承をしてくれて、前日の夜から来てもらい、愚痴を聞いてもらうことも含めて一緒に引っ越し作業をすることになった。


引っ越しは土曜日のため、行天がくるのは金曜日の夜。何時にどこにくるかというやりとりをしていたが一向に決まらず、当日の夜9時を過ぎた頃に「(私が住んでいた水戸から1時間くらいかかる)つくばに22時くらいに着くかな。先輩に送ってもらっている」という。
変わった方法で来るんだな〜と思っていたが、酔っ払っているのか、LINEではあまりうまくやりとりができず、23時を過ぎても近くにいるらしいがどこに迎えに行けばいいのかうまく提示をしてくれなかった。
最初は「いいよいいよ、来てくれるだけでありがたい」とLINEを送っていた私だが、午前0時を過ぎたくらいでムカついて「もういい」と送った。

そうすると行天も何故か怒っているのである。
「お前は社会人になって忙しくなってから変わった」
そこからは何故か、互いのLINEでのやりとりが活発になるのである。
「約束守れないお前がおかしいだろ。そういうとこ見損なった」
「お前もあれだけ寛大だったり、人思いだったのになぜそうなったんだよ」

そこから、これまで溜まっていたことなのか、思いついたことなのか、人格を批難する言葉の攻防が始まるのである。冷静に考えるとどっちも落ち着けって感じである。今回の待ち合わせに人格は関係ないし、喧嘩のLINEをそんなポンポンできるなら、早く会って仲良くしろよと思う。

しかし、最終的にはどちらも突き放す。
「もうお前のことなんか知らん」
「そんなやつだとは思わなかった」
翌日、昼過ぎに起き、「ウゼェ〜」と半笑いしながら行天への恨みを募らせ黙々と引っ越し作業をするのであった。

でもちょっと、心当たりもあるのだ。
行天が指摘するように、私は寛大であり人思いなところはあると思う。なぜなら人と離れるという雰囲気や行為がとても苦手だから、それを回避しようと躍起になることがかなりある。恋人でも友達でも、こちらが我慢をすれば済むことは基本的に我慢をするようなタイプだ。それが忙しさと比例してできなくなっているのを感じていた。
それを行天が「寛大で人を思うやつだったのに」と釘を刺したことはひどく心に残っていた。

行天と喧嘩をすると私は大体、美香と桃香に泣きつくのである。
「行天とこんなことがあってさ」
「また?何やってんの?」
事の顛末を説明すると言われるのだ。
「あんたら本当、何やってんの。ウケんだけど。早く仲直りしたら?」
そこで大体、私の方が溜飲がおり行天に謝っているのである。
ぎこちなく仲直りして、1回会えば元通りになる。
自分から謝ろうと思った理由も意味不明だし、行天がすんなりと許しているのも意味不明である。しかもいまだにその行為となぜ仲直りできたのかがよく分からない。

行天は基本的に、自分の感情を表現するのがあまりうまくない。
モノの良し悪しのプラス面ははっきりということがあるが、マイナス面は黙ったり濁したりすることが多い。また他人に対する好き嫌いなどの評価についても水を向けなければあまり口にしない。
例えば美しいものがあるとき「これめっちゃかっこいいな」「イケてるな」とかは言うが、自分の好みではないものだと「まあまあ」「こういう感じか」と表現する。
また、人間関係についてもある程度のギャグやよく話題になる人は除いて、「面白いよね」「センスいいよね」くらいの短い単語で済ませることが多く、どこまでの熱量で相手のことを考えたり、ハマっているのかというのが非常に読みづらい。
相当ハマったりしないとテンションが上がっていると感じることは少なく、ただすごく低いとかでもなく、大人といえば大人だが、わかりづらいのだ。

ファッションもスポーツもキャンプなどの余暇活動も好きで、人と話すこともこの上なく好きな行天だが、独特の表現や語らない美学が輝くことが多い。
一方、私は非常に多くのことをシェアするし話しまくる。自分の思っていることをはっきりと人に伝え、決して人を見捨てないが信条である。行天と私は、はっきりと凹凸がわかるような対をなす性格をしているのである。

ようやく15年付き合ってきてなんとな〜〜くわかってきたのは、行天は自分と同じ熱量を持ってモノやコトに熱中している人と話す時は感情表現がストレートになったり、人間関係で自分にとってかなり大切にしている価値観についてだったりするとしっかりと表現することが多いということだ。
ただし、私と行天はことごとく趣味や考え方が異なっているので、基本的に議論が白熱すると言い合いみたいになる。「わからないわ〜」とかいいながら相手の話を聞き込んで笑っている。

恋愛関係だったらギブ&テイクをある程度求めることができる。
ましてや仕事の関係だったらギブ&テイクさえあれば成り立つことも多い。
だけど友達関係だったらどうだろうか?
ギブ&テイクが成り立たないことも多く、どう関係性を保っていけばいいのかと悩むことがしばしばある。

行天はとにかく仕事が好きで、仕事の仲間と切磋琢磨するのを楽しんでいる。
そして彼は周りを見なくするためのスイッチを入れることがあって、そのスイッチを今入れているから、周囲に対して普通にLINEを返さなかったり、SNSの更新内容がどこまでも旧知の人に向いていない投稿だったりする。それをとやかく言うつもりはないし、そういうところが好きだったりもする。大丈夫かな〜とは思うけど。

ただ、私、そして美香、桃香には少ないながら返事が返ってくるのだ。
4人のLINEには2ヶ月も3ヶ月も反応がなくても、個人的に「遊ぼう」と連絡すると「○日までは忙しいから待って」って帰ってきたり、「そろそろ飲もうぜ」って送ると「今日なら」とか。4人で遊ぶのになぜか4人のLINEグループは見ずに、私が個人的にLINEして指定した場所にきて普通にしているのだ。

返信を見て、行天から「ごめん」とか「会いたいと思っていた」みたいなわかりやすい言葉が返ってくることはないけど、きっと俺らと会って話すのは楽しいのだろうなと思う。色々と押し測らないと分からず、面倒くせえやつだなと何度も思う。4人で遊ぶって言ってんだからLINE見ろよな。

1月、実は行天にしばらく連絡しないでおこうと心に決めていた。
元旦に連絡を無視されていて、「こいつとうとう無視するようになったな」と思って少しムカついたからだ。
そしてそれを美香に報告したら、「環、またやってるの、そういうの。私はみんなに会いたいよ」と笑われた。美香の切実なストレートな表現が愛おしかった。
あーあ、きっと俺は行天に「会おうぜ」とか送って、行天は俺がこれを送るまでにヤキモキしたり考えたり、美香が言ってくれた嬉しいことなんかをなんら想像することなく「OK」って返してくるんだろうな、と思った。


そして案の定、私は耐えきれなくなって2/2に「そろそろ遊ぼうやーコロナ次第だけど」って送ったら10分もしないうちに「遊ぼう」「ちと来週まで忙しくて」「日程ちょいと待ってて」と返ってくるのである。
そしてきっとこの後も日程提示はないから、私から行天に「○日は?」って送って、「おけ」とか返ってくるんだろうなと思う。


友達関係って難しい。いや、行天との関係って難しいし、かなり面倒だ。
相手に強く求めることもできないし、あと純粋にしたくもないからである。
流れるようにしかならなく、ちょっとでも恣意的なものがあれば破綻する。
恋愛ならある程度、見返りを要求しても「私を思ってくれているから言ってくれたんだ」とか「好きだから束縛したくなる」みたいに解釈されるのに、行天とはそうはいかないしそうしたくないから難しい。

でも、一つだけわかることがある。
行天のことはわからないし、面倒なんだけど、それが今のところずっと面白いのである。多様だな、変なやつがいるもんだなって笑えるのだ。
行天のことはずっとわからないけど、行天と接している時に楽しんでいる自分のことはずっと大切にしていこうと思う。
行天は今日もどっかでタバコでも吸ってんだろうな。また連絡して会いに行ってやるか。

<環プロフィール> Twitterアカウント:@slowheights_oli
▽東京生まれ東京育ち。都立高校、私大を経て新聞社に入社。その後シェアハウスの運営会社に転職。
▽9月生まれの乙女座。しいたけ占いはチェック済。
▽身長170㌢、体重60㌔という標準オブ標準の体型。小学校で野球、中学高校大学でバレーボール。友人らに試合を見に来てもらうことが苦手だった。「獲物を捕らえるみたいな顔しているし、一人だけ動きが機敏すぎて本当に怖い」(美香談)という自覚があったから。
▽太は、私が尖って友達ができなかった大学時代に初めて心の底から仲良くなれた友達。一緒に人の気持ちを揺さぶる活動がしたいと思っている。
▽好きな作家は辻村深月


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