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「売れてる」かどうかなんてどうでも良い僕たちの関係性

通っていた学校も、住んでいる場所も、全くバラバラ。
それでもTwitterの一本のDMが距離を飛び越えて、もうすぐ10年の仲になる年下の友人4人組がいる。

ダウニーズ(仮) というバンドのメンバーである。
僕は東京に、ダウニーズの面々は名古屋や岐阜あたりに住んでいる。
ちなみに、ダウニーズはもう解散してしまったバンドだ。
一言で言うと、全く売れなかった。

大学3年生になったばかりの二十歳の頃、友だちとライブハウスで超手探りでイベントを主催し始めた。
バンドの集め方もよくわからなかったので、「出てくれる人いませんかー?」とTwitterでゆるく呼びかけてバンドを集めていた。
その投稿に反応したのが、ダウニーズだった。
ギター担当が、通っていた愛知の大学で講義を受けているときに、Twitterでたまたま見つけて、DMしてきたらしい。

僕は友だちと東京の大学の学食で飯を食っていた時に、そのメッセージを見た。
「岐阜で活動してます」的な文言をみて、ああこれはないなあと思った。
地方からの遠征バンドは、通常はライブハウスでのノルマ(チケットを一定の枚数捌けなかったら、バンドが足りない分を自己負担するというルール)が免除されることになっている。
だから、できるだけお客さんを集めくて、集められなくても赤字は避けたいイベンターの自分たちにとっては、遠征バンドをブッキングするのは少しリスクがある。
交通費も出せないしなあ、と思いながら、送られてきたURLから音源を再生してみた。

その音源は、とても良かった。
Twitterから音源を送ってイベントに出たいと言ってくれるバンドはたくさんいたけど、ピンとこない方が結構多かった。
だから悩んだ。
できれば出てほしい。
けど、条件がキツイなあ。俺らも金ないし。
ただメッセージから伝わってきた前のめり感に甘えてみた。

「遠征ですけどノルマはお願いしたいし、交通費も一円も出せません。それでも良いですか?」
返事はYESだった。

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ダウニーズが出演した、僕にとって初めてライブハウスで主催したイベントは、大盛況に終わった。
会場にパンパンにお客さんが入った。
ダウニーズは、全国各地のいろんな場所で遠征ライブをやっていたけれど、そのライブが一番のお客さんの入りだったらしい。
4,5人しかお客さんがいないのが普通で、ひどい時は演者しかライブハウスにいないこともあったようだ。
だから、どうやら印象に残る1日になったらしい。
打ち上げで朝まで飲んだこともあって、僕たちは仲が良くなった。

それ以来、ダウニーズが東京でライブする機会があれば足を運んだ。
岐阜まで僕が遊びに行ってベース担当の実家に泊まったこともあったし、一緒に京都へ旅行したこともあった。

お互い学生でなくなってからも、頻繁ではないけれど、ちょくちょく連絡を取り合って遊んだ。
就職してから、僕が偶然にも名古屋方面に転勤していたことも、縁が続いた理由の一つである。

思うように人生が前に進まずに色々と悩んでいた時期に、救ってもらったこともあった。


たった一回、イベントを一緒にやっただけの繋がりで、なぜ僕たちはここまで仲が良くなったんだろう。

そのイベントがお互いにとって、他の参加者以上に思い入れのある特別な日だった、ということはあるかもしれない。
彼らにとっては、最もお客さんが入った東京でのライブであり、僕にとっては初めて主催したイベントだった。
他のバンドは、結構クールだった記憶もある。
当時イベントに出てもらったバンドで、今でも連絡を取っているバンドは、ダウニーズ以外にいない。そのことを彼らに昔伝えた時は、とても驚いていた。

お互い全然違う場所で育ったから、その違いが面白いというのもある。
餃子の食べ方の違いとか、そういうくだらない話で居酒屋で盛り上がったことはたくさんあった。
新鮮で楽しかったのだ。

ただそういう理由以上に、僕がダウニーズと繋がり続けている訳はあるかなと考えると、これだなということに辿り着いた。

彼らは、悪口や人を貶めるようなことを一切言わないのだ。
ダウニーズの音楽が好きだっていうのは大前提だけれど、それが大きいかもしれない。

音楽のディープな場所は、結構ギスギスしている。

当時僕が出入りしていた東京のライブハウスでは、学生と社会人の狭間でもがきながら、真剣に上を目指している同世代のバンドがたくさんいた。
バンドマンを取り巻く大人たちも、必死な人が多かった。
だからかもしれないけれど、いろんな立場からプライドのぶつかり合いが起こる、みたいなことは非常に多かった。
言葉の端々がトゲトゲしているのだ。

あのバンドはクソだ。
あんな歌を作って媚びてるのはダサい。
こんな箱(ライブハウス)じゃなくてもっと良い場所がある。

本人たちは無意識だったかもしれないけど、それに傷付いている人はたくさんいたように見えた。
気楽なイベンター身分だった僕も、結構酷いことを言われたことがある。

そんな中、地方から出てきたダウニーズは違った。
彼らもメジャーデビューを目指してオーディションに参加することもあって、上を目指していたのは一緒だった。
だけど彼らは、他人のことを、ふざけてからかうことはあっても、決して軽んじたりバカにしたりするようなことはなかった。
他のバンドにもスタッフにもお客さんにも、誰に対しても腰が低かった。

そして、情に熱かった。
自分たちが出なくても、僕らがやっていたイベントの告知を頼んでなくともしてくれたし、約束を破るようなこともなかった。
ライブハウスで相手に塩対応をされても真摯に向き合っている姿を目にすることもあって、そんな不器用な彼らを、僕は気付けばとても信頼していたし、大好きになっていた。

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この前の土曜日、僕はスーツを着て、新幹線に乗って名古屋に向かった。
ダウニーズのベース担当が、結婚をすることになったのだ。
僕が呼ばれても良いのかなという気持ちもちょっとあったけど、晴れ舞台が見たくて出席することにしていた。

2年ぶりに会ったダウニーズの面々は、みんな変わらなかった。
相変わらず優しくて式場のスタッフさんにもペコペコしていたし、一人で来ている人を見つけると声を掛けていた。
式場の中で、孤独を感じるような人は一人もいないように見えた。

ベースも、その花嫁さんも、笑顔が柔らかくて優しくて、列席している人たちもみんなそういう雰囲気だった。
その証拠?かはわからないけれど、今まで結婚式に行った中で、感動して涙している列席者がとても多かった。
ダウニーズのメンバーも、一人残らず涙していた。
これまで行ったたくさんの結婚式の中でも、ずっと印象に残る式になったと思う。
それくらい素晴らしい空間だった。

披露宴を終えた後、僕たちは名古屋駅前にある、酒もつまみもまずい、安いだけが取り柄の居酒屋に行った。
ダウニーズが活動していた時に、よく対バンしていたバンドのメンバーも一緒だ。

学生の頃みたいにバカみたいな話をたくさんしていた時にふと、隣に座ったボーカルが僕に聞いてきた。

「前言ってたけれどさ。
 太さんって、俺ら以外のバンドと今は付き合いがないのってなんでなの?
 あれ言われて俺らはすごく嬉しかったんだけど、なんでだろうって思って」
笑いながら聞いてくる。

「うーん、なんでだろうなあ」
「ぶっちゃけさ、俺ら以外のバンド、結構売れてるじゃないですか。
 そっちと仲良くしている方が自慢になるし、良くないですか?」

そうなのだ。
本当にたまたまだけど、ボーカルが言った通り、僕が主催していたイベントに出演していたバンドは、結構売れていた。
メジャーデビューしてwikipediaができたり、国民的女優とCMで共演したり。
3,000人規模のワンマンライブをやったり、コンビニのBGMで流れるようになったり。
イベントに出てくれたのは売れる前のことだったから、正直少しだけ誇らしく思っている。
僕はちょっと考えて、ごまかすように言った。

「なんだろ。売れてる人に群がってる人ってダサいし、なんかムカつくじゃん。それに、なんだかんだダウニーズの音楽が好きなんだよね」

あー、その感覚分かる。太さんっぽいなあ。
でもそう言ってもらえるの、本当に嬉しい。やって良かったよ、バンド。
ボーカルが笑いながら言った。

その話はそれで終わって、飲み会の席にいた一人が近々上京してYouTuberになるという話をはじめて、それが話題の中心に変わった。
ネットで知り合ったおっさんから、1,000万円あげるから東京でYouTuberにならないか?という怪し過ぎる誘い話に、乗っかってみることにしたという話だった。

僕はそれは危険だなあと思いつつも右から左に話を聞いていたら、ダウニーズのメンバーたちが、本気で心配しながら根掘り葉掘り話を聞きはじめた。
「いや、それ大丈夫?」
「契約書はどうなってるの?チェックしようか?」

うるせえなあ、大丈夫だよ。
俺が騙されるわけないだろと、上京予定のYouTuberは話を終わらせようとしている。

「俺らは心配やから、言ってるんよ。
 それが本当だったら良い話だし、応援したいからこそ言ってるんだよ。
 やからさ、もうちょっと詳しく話を聞かせてよ」

とても真剣な顔でまっすぐにYouTuberを見つめながら、ギターが言った。

ああ、こういうところだなあ。
僕がこのバンドが好きで、縁が途切れない理由は。

バンドが売れようが、売れまいが。
お金持ちになろうが、なるまいが。
人生が順調に進んでも、進まなくても。
おっさんになっても、おじいさんになっても、僕はダウニーズと付き合ってたいなあ。
ずっと、繋がっていたい。

店員が適当に作ったであろう、アルコールの割合が高過ぎるレモンサワーを流し込みながら、僕はそんなことを思った。


リユニオン / RADWIMPS


<太・プロフィール> Twitterアカウント:@YFTheater
▽東京生まれ東京育ち。
▽小学校から高校まで公立育ち、サッカーをしながら平凡に過ごす。
▽文学好きの両親の影響で小説を読み漁り、大学時代はライブハウスや映画館で多くの時間を過ごす。
▽新卒で地方勤務、ベンチャー企業への転職失敗を経て、今は広告制作会社勤務。
▽週末に横浜F・マリノスの試合を観に行くことが生きがい。

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