淡島うる

訓練として文章を書く。北海道に暮らす。京都に帰る。

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マガジン

  • タイ飲食紀

    2023/8にタイのサメット島、そしてパタヤを訪れた際の、飲食中心の記録。生ぬるい風を浴びながらビールを飲みたいという気持ちで始まった、女二人旅。

  • 人生ビンゴ2023

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タイ飲食紀・初日 何はともあれビールを開けて

「エスニック」とかいう乱暴すぎる把握の仕方で、そのようなものを好んでいる気になっていた。 母は、「甘酢っぱ辛そうなタイ料理はそんなに好みじゃないから、今までタイに行ったことがない」と言っていた。甘酢っぱ辛い、生春巻きとか確かにそういう味かあと思っていたが、あれは今思えば、まぎれもなくベトナム料理だ。 タイ旅行に行く約束を友人としたのは、コロナ禍の直前だった。生ぬるい風が吹くのんびりしたどこかの木陰で、薄いビールを飲んで眠りたかった。だからタイを選んだ。それは実際心ゆくまで叶

    • 手癖 (新作短歌七首)

      手癖 きみはまた命知らずの恋をする 命知らずとばかり恋する 濡れ髪にこだわりもなく揉む油 誰でも死んでしまえば静か 業もシンプルに 鰯の手開きは慣れればとてもはやくできます 来てみてもなくなっちゃった店ばかり、っていう感傷ってあんがい若い? おわりって音の甘くてためらったまま言う舌の柔いまま言う はつなつの免訴ふたつの煙草火を蛍に喩えつつ目を逸らす オーケーチャイメイチャイ ひたむきに暮らし、そのことを讃えあえたら

      • 京都について その2:私たちはつねに泳ぎ去る

        すっかり弱った体で祖父は、春には京都に行く、そのためにリハビリを頑張るんだと繰り返した。それがこの前の年末年始の頃のこと。 この京都好きが、しかし妻となる京女と出会う前から京都好きだったのかは、今はもう確かめることができない。 遡ること七十年ほど前、祖父と祖母はそれぞれ、北海道と京都の商業高校生だった。 当時あったという、各地の商業高校をつなぐ文通のネットワークを通じて、祖父は京都のとある女子生徒とペンフレンドになった。やりとりを重ねる数年間の間に、札幌の高校から東京の大学

        • 京都について その1:わたしたちはつねに泳ぎ去る

          八年間の京都での暮らしを終え、早くも一ヶ月半が経った。 私の言う京都とは、単なる一都市の名以上の意味を持ってしまっている。 だいたい、十八歳から二十五歳を終えるまでのまるまるを、故郷を遠く離れて一人暮らしをした街なんて、その思い出がよっぽどひどいものでもないかぎり、特別な場所になるに決まっている。 そもそも京都だ。そこで学生生活を過ごした者のいくらかは足を取られて脱出できなくなり、なんとか離れた者でもその多くは、生涯に渡り、取り憑かれたように懐かしむという地。 帰郷を決断

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        タイ飲食紀・初日 何はともあれビールを開けて

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          また来るね、パラレル・アップルパイ・ワールド 津軽飲食紀・最終日

          道産子の母と娘の弘前旅行、食べ物を中心に。一日目・二日目はこちらから。 太宰ゆかりの宿、大鰐温泉・ヤマニ仙遊館にて迎えた旅行最終日の朝。朝食会場となっている広間は、かつては太宰が一家で湯治に来た際に使った部屋なのだという。 今シーズンはひどく雪が少なく、大鰐スキー場のオープンもままならないという話を前日に伺ったばかりだが、思い出したように綿雪が降りしきる朝になった。 凍み豆腐やおから、酢の物など、素朴な小鉢がいくつも並ぶ。お味噌汁には大鰐もやし。降る雪を受けてどこか嬉しそ

          また来るね、パラレル・アップルパイ・ワールド 津軽飲食紀・最終日

          海峡の向こうの台所を覗く 津軽飲食紀・二日目・後編 

          母と娘の弘前旅行、食べ物を中心に。一日目・二日目はこちらから。 『人間失格』をバイブルとして、津軽に太宰の足跡を辿る人は少なくないだろう。太宰が最初の自殺未遂の後、母親との時間を過ごしたことで知られるヤマニ仙遊館も、その名所のひとつかもしれない。「自殺未遂後の滞在」という字面が強烈だが、幼少期から家族そろって湯治に来ていた温かな思い出の地であることは、その著作『津軽』に明らかだ。 明治五年創業のこの宿は、太宰以外にも多くの歴史人を迎え、その色香の残る空間にくつろぐことがで

          海峡の向こうの台所を覗く 津軽飲食紀・二日目・後編 

          雪国のラーメンには油膜が要る 津軽飲食紀・二日目・前編

          母と娘の弘前旅行、食べ物を中心に。一日目はこちらから。 温泉旅の醍醐味は朝風呂である。りんごがもりもり浮いているりんご風呂、朝はりんごが新しいのか、触った感じが昨夜よりフレッシュだ。 そして夕食に引き続き、満足感のある朝食バイキング。やはりりんごがたっぷり。漬けマグロが取り放題で、ばくだん丼を楽しめる。ホタテのフライも嬉しい。お正月メニューもある。 9時半にはシャトルバスに乗り込み、弘前市内へ戻った。 アップルランド、お風呂も食事も素晴らしかったことはもちろん、接客が大

          雪国のラーメンには油膜が要る 津軽飲食紀・二日目・前編

          りんごの国でりんごに浸かる 津軽飲食紀・一日目

          年始の休みに、母と弘前へ行ってきた。北海道の唯一の隣県である青森、新幹線もできて一層交通の便もよくなった。 青森市へはもう何度も訪れ、前回は八戸を旅した。そして、この度初めての弘前。アップルパイをたくさん食べて、温泉でゆっくりしようという計画。 自宅から、車、在来線、新幹線を乗り継いでいく。今年はひどく雪が少ない。それは青森も同じようで、やけに地面の地肌が見えている。 弘前駅について、まずは駅近くの市場、「虹のマート」へ。25店舗ほどが入った、こじんまりとした、でも賑やか

          りんごの国でりんごに浸かる 津軽飲食紀・一日目

          北海道飲食草紙 #001 幻のかまぼこ「たつかま」を作ろう

          ありがたいことに、ここ数年の暮れは料理上手のいとこのおせちを頂きながらの酒宴というのが定番で、今年はその準備のお手伝いをほんの少しだけさせてもらった。 私めにできることなど……ともじもじしていたところ、唯一貢献できたのが、北海道でまことしやかに知られる肴、「たつかま」作りだった。 たち、とは、鱈の精巣、つまり白子のことである。 先日、京都で白子を頂いたとき、「こちらでは雲子といいますけど、北海道ではたち、ですよね!」とわざわざ言及していただいて、語源でも聞かれたらどう答えよ

          北海道飲食草紙 #001 幻のかまぼこ「たつかま」を作ろう

          中動的ディレッタンティズム:年始のノート

          2023年の元旦に絞り出した言葉は、今思えばそんなに的外れでもなかったかもしれない。 「好きなことを続けていれば落とし所が見えてくる」という、かつて人からもらった言葉をそのまま抱きかかえ、「自分は継続ができない人間だから」と唱えては劣等感を覚え続けてきた。何者かになりたい私にとって、熱中できるものも、覚悟も、継続力もないことは大きな問題だった。 2023年は、ある意味でそれが極まり、転換した年になった。つまり、「続けられない」という状態は続いているのではないか、という屁理

          中動的ディレッタンティズム:年始のノート

          タイ飲食紀・最終日&帰国日 グッバイข้าวขาหมู、フォーエバーข้าวขาหมู 

          タイで飲み食べしたものをひたすら綴る記録。初日はこちら。 タイ・パタヤ滞在、いよいよ最終章。虎を抱き、屋台飯を食らう。そして、空港で涙ながらに別れを告げたのは……ข้าวขาหมู。 買ってあったザクロを朝ごはんとして軽くつまんだあと、パタヤを代表する観光スポットでもあるターミナル21へ。空港を模したショッピングモールで、各フロアが東京やパリ、ローマを始めとする海外の都市をイメージして作られています。 いつも通り、まずは腹ごしらえ。常に腹ごしらえ。私はカオカームー(3度

          タイ飲食紀・最終日&帰国日 グッバイข้าวขาหมู、フォーエバーข้าวขาหมู 

          クリスマスディナー2023を省みて

          北海道の猟師さんから届いたジビエと、主に京都の野菜を使ったクリスマスのご飯。改善点が多いので今後に生かすための覚書と、狭いキッチン、限られた調理道具でおままごとを楽しんでいたよ、という思い出を兼ねて。 アミューズ 紅くるり大根の甘酢漬、鯖のリエット 〇紅くるり大根の甘酢漬け 大原の直売所にて、いとこに勧められて始めて買った大根。かわいいし、ビーツのような土臭さはなく使いやすい。甘酢は白ご飯ドットコムのレシピを参照。家にてんさい糖しかなくてそれを使ったけれど、白砂糖の方が良

          クリスマスディナー2023を省みて

          タイ飲食紀・七日目 人間充電スポット:クイッティアオ屋台

          タイで飲み食べしたものをひたすら綴る記録。初日はこちら。 パタヤ滞在2日目、昼間はホテルで仕事をしながら屋台飯を食らい、夜はホテルのルーフトップバーを楽しみました。 写真と疑問が多い日。 いよいよ長くなってまいりました。滞在日数は8泊9日なのでもう終盤ですが、ここで半日だけリモートワークをはさみます。午前中は私がホテルで仕事、友人が買い物へ出かけるという別行動になりました。 私の朝食は、昨日買っていたフルーツ。先に外出した友人は、ホテルを出たところの屋台で麺を食べて、「

          タイ飲食紀・七日目 人間充電スポット:クイッティアオ屋台

          2023年、人生ビンゴを振り返る。

          いよいよ年の瀬。今年初めて取り組んだ人生ビンゴを振り返ります。次のビンゴを見据えた自分用のため、長くなります。 感想生活を刺激され、大変有益な取り組みになりました。理由は下記の通り。 今後についての考えが固まっていない状態でも、とにかく取り組むべき項目を上げることで、活動が促進される。 ある時点での自分の目標を基準として、それに対するモチベーションの増減も含めて、自分の変化を相対的に認識できる。 周囲で同じようにビンゴに取り組んでいる人がいるので続けやすいが、目標達成

          2023年、人生ビンゴを振り返る。

          タイ飲食紀・六日目・後編 パタヤの洗礼、パッタイの救済

          タイで飲み食べしたものをひたすら綴る記録。初日はこちら。 パタヤ到着初日の後編。パート分けミスったので短め。あと、パタヤではわかりやすい出来事が少なかったので、ちょっと記憶が曖昧です。 フードコートでの腹ごしらえを済ませ、いよいよ買い物フロアへ。 広く、あらゆる物が売っています。食品はもちろん、日用品を豊富に取り揃えたドラッグストアでもあり、カバンや家具や家電もあり、コストコを小さくしたイメージ。観光地なだけあって、お土産らしいお土産も結構あります。でもあんまり写真撮らな

          タイ飲食紀・六日目・後編 パタヤの洗礼、パッタイの救済

          タイ飲食紀・六日目・前編 豚足をねぶり、米を飲み、ニンニクを齧れ

          タイで飲み食べしたものをひたすら綴る記録。初日はこちら。 島脱出。パタヤへ移動して、飲食の幅が一気に広がります。長くなったので前後編にわけました。朝ごはん、移動、そして昼食まで。 2泊した安リゾートを出て、午前中のスピードボートで大陸へ帰ります。出発まで時間があるので、港の手前のレストランで朝ごはん。 私はカオトムという雑炊?の、エビ入りを注文。こちらは、バンコクで食べたおかゆ・ジョークの仲間。ジョークほど長時間煮込まずにサラッと仕上げるとカオトムになるらしい。イメージと

          タイ飲食紀・六日目・前編 豚足をねぶり、米を飲み、ニンニクを齧れ