タイ飲食紀・初日 何はともあれビールを開けて
「エスニック」とかいう乱暴すぎる把握の仕方で、そのようなものを好んでいる気になっていた。
母は、「甘酢っぱ辛そうなタイ料理はそんなに好みじゃないから、今までタイに行ったことがない」と言っていた。甘酢っぱ辛い、生春巻きとか確かにそういう味かあと思っていたが、あれは今思えば、まぎれもなくベトナム料理だ。
タイ旅行に行く約束を友人としたのは、コロナ禍の直前だった。生ぬるい風が吹くのんびりしたどこかの木陰で、薄いビールを飲んで眠りたかった。だからタイを選んだ。それは実際心ゆくまで叶ったのだけれど、それよりも私の心を癒したのは、友人と共にむさぼったご飯の旨さだった。うまくいえないけれど、とにかく、わかりやすく旨いのだ。美味しいというか、旨い。
カオマンガイやグリーンカレーのように、日本でも知られた料理もあるけれど、今回私がハマったのはちょっと違うものだった。たった数日いただけの人間の印象でしかないけど、もしタイ旅行に際して食事に不安をいだいている人がいるなら、パクチーだらけとか、ナンプラー臭いとか、甘すぎるとか、逆に辛すぎるとか、そういう構えはそこまでいらないと思う。そういうものを選んだり、自分でそうやって味付けすることはできるけれど、あらゆる料理がそんな味というわけではない。むしろ、醤油味、そして鶏出汁の味が好きな日本人ならハマる料理が絶対にある。スーパーに行けば枕のような大きさの袋で売っている味の素の貢献も少なからずあるだろうが、それを含めて、疲れて丸くなった背中をバシバシ叩いてくるような、生きている実感をくれるような、でっかい旨さがタイのご飯にはある。
死にたくなったらタイに行く、というのが帰国して一ヶ月の私の口癖だが、正確には、死にたくなったらタイに行って屋台の飯を食ってから考え直す、と言うべきだ。私はきっと死なずに済む。
というわけで、タイがどんなに楽しく旨かったか記録しておきたい。料理だけでなく、できるだけ、口にしたもの全てを書きたいと思っているから、とても長くなる予感がする。実質旅行紀としての飲食紀として、面白がってもらえる所があれば嬉しい。
初日、23:00くらいに、友人とともにスワンナプーム国際空港へ降り立った。機内食は普通に美味しかったけれど味は忘れたので割愛。右側に見える緑が、タイ料理によく現れるゴツい菜っ葉、カイラン菜との出会いだったことだけを記録しておく。
そういえば、この時点で私たちは既に我慢できずにビールを注文しています。なんてったって、タイでビールを飲んでだらだらすることを夢見て、ようやく実現した渡航ですからね!
無事にスワンナプーム国際空港に到着。まず口にしたのは、空港で買ったマンゴースムージー。ふつうに美味しい、の域は超えなかったけど、日本で飲むとなると何倍の値段がするだろうとは考えた。在タイ中は水分補給と南国フルーツお試しを兼ねて、よくスムージーを飲んだ。
Glabという、Uberのような配車アプリで呼び出したタクシーで、バンコク中心部のゲストハウスまでショートカット。部屋に荷物を置いてから、カオサン通りに繰り出す。とりあえずその辺のおっさんに捕まって買った瓶ビールを片手に、大麻屋、焼きサソリ屋、服屋、そして乱立する爆音クラブの合間を縫うように歩いていく。客引きと観光客でまともに歩けないが、道沿いのクラブのほとんどはガラガラだ。唯一満員のように見えた店は、内装全体に極彩色の電飾があしらわれ、観ているだけで目眩がするようだった。
あまりの爆音ダンスミュージックに聴覚を損なったところでセブンイレブンに寄って、追加のビールと、Lay'sのチップス、コーゲーという豆スナックを買って宿へ戻った。
タイのコンビニは、Lay'sと、このコーゲーの品揃えがめちゃくちゃいい。どちらも、無計画にすら思えるほどバラエティに富んでいる。Lay's好き、ポリッピー好きとしてはとてもありがたかった。今思えばバラマキみやげとしてコーゲーを沢山買ってくればよかったかもなあ。
今更だけど、タイでは生水の飲用は厳禁で、旅行者は歯磨きのときもミネラルウォーターを使った方がいい。それと、飲食店や屋台の氷も気をつけた方がいいらしい。ちなみに私の場合は、屋台の氷水に浸かった瓶ビールに口をつけて飲んだのと(飲み口をアルコールティッシュで拭いたかも)、(なんとなく大丈夫そうな見た目の)屋台のスムージーに入った氷は大丈夫だった。あまり参考にならないが……。
(二日目に続く)
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