「 言葉は道具である 」と気づいたとき。
出かける前、私が読んだこちらの本の中でスティーブ・ソレイシィ先生がおっしゃっていた言葉です。
今思えばフランス・イギリスに行く前、私はこの言葉の意味を半分も理解できていなかったように思います。
ノンネイティブだからと開き直ってガタガタの英語を使うことには抵抗があるし、そんな自分を誰かに見せたくない、失敗したくないというプライドも少なからずありました。
なにより英語が話せる夫の隣で、自分は話せないという恥ずかしさもあります。変なことを言って後で何か直されたり、失礼なことがあってもいけないなあという気持ちもありました。
すべて言い訳なのですが……
そんな私のプライドをいい意味でぶち壊す出会いがフランスでたくさんありました。そのうちのひとつを今日は書こうと思います。
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私に刺激をくれたのは、とある日本人の方でした。
お邪魔していた展示会の出展者として来られている方で、その方が講演もされると聞いたので、どこまで聞き取れるかわからないけれど、参加させてもらうことにしたのです。
講演が始まった途端繰り出されるジョークの数々。
「 日本人 」というアイデンティティを最大限にいかしつつ繰り広げられる講演は圧巻で、話をしていた約30分の間、来ていた多くの聴講者たちの笑いを誘い、興味を引いていました。
その結果、その方のいる出展ブースにはたくさんの人が押し寄せていて、展示会で行われる講演会としては大成功を収めていました。
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私はその光景を目の当たりにして、
「こういうコミュニケーションでもいいんだ!」
と衝撃を受けました。
その方の英語の発音は(人のことは言えないのですが)ジャパニーズイングリッシュ。そんなに難しい英語を使うこともなく、専門用語以外は割と聞き取ることができました。
しかし「英語を自分らしく使いこなす」ということをしっかりとされているので、聞いている人に内容や思いがしっかりと伝わっています。
「 伝えたいという情熱 」と「 興味を引くウィット 」を織り交ぜる様は圧巻で、開いた口が塞がらないと言うのはこのこと、と思うほどでした。
そこには英語をカッコよく使うというような、外ヅラを意識するような部分は微塵も感じられません。それよりも「 伝えたいことを伝えたいから英語を使う 」というシンプルで強い意志を感じました。
その方は自分が使える言語のうち、その場で理解できる人の多いであろう言葉として英語を選んだだけで、いい意味で「 英語 」にこだわりがないようにも見えました。
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その方の講演を聞いていて、私にはその方が「 言葉は道具である 」ということを体現されているように思えました。
実際、英語という道具を駆使して伝えたい思いが届いて、それを聞いていたたくさんのお客さんがブースを訪れていたわけです。
それがその方の狙いであり、英語という道具でそれを実現しただけでした。
おそらくその方は、日本語でも同じくらいの反響を得られる、すごいプレゼン力の持ち主なのだと思います。
プレゼンテーションにおいて大事なことは、伝えたいことを端的にまとめ、興味を引くよう整えること。そしてなにより、これを伝えたいという「 意志 」が大切です。
どれだけ立派な道具を持っていても、「○○がしたい!」という思いがなければ、道具は本来の効果を発揮しません。
そしてうまい発音や正しい文法にこだわって何も言えないよりも、まずはその道具を使ってみることが大事で、単語ひとつでもいいから発して意思表示をしていくことが、どれだけ意味のあることなのかに気づかされました。
ずっと英語というツールに苦手意識を持って右往左往している自分が、「 英語を使う 」という意味でかなり手前のところにつまずいていることに気づいて、自分はまだまだすぎる……と情けなくなりました。
なにもせず、できもしないくせに、失敗することばかり恐れて。
たいした練習もしていないくせに何か奇跡が起きて、いい発音でおしゃれな会話ができる日を待っていたのだと。
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英語は「 ツール 」。つまり意思を伝えるための道具でしかありません。
しかも言語という道具は文房具などのように買い替えれば美しくなるものではありません。自分で磨き上げていくしか、使えるようにも美しくもならないのです。
そして英語が道具である以上、ただ美しいよりもちゃんと自分で扱えて、自分がしたいことが実現できることが大事なのです。
そんなどこでも聞けそうな当たり前の言葉が、その方のしていることを見て、すっと腹落ちするような感覚がありました。
そういうことだったんだ。
海外生活の序盤に知ることができてよかった。
これは英語に限らず、言語を学ぶ上で必要なことだと強く感じました。
今勉強しているドイツ語でも活かせそうな気がします。
道具にこだわりすぎず、まずは少しでも使えるようになる。
私はこの方との出会い、そして講演会を聞かせてもらえたことを、心から感謝したのでした。
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