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「かみかさ」

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小説「かみかさ」 傘を美容院に忘れてしまうところから始まる、恋愛未満小説。
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#梅雨入り

「かみかさ」第13話

「かみかさ」第13話

雨が止んでいる事に、いのりは気づかず、傘を持たずに帰り始めた。

髪を丁寧に触られた感触。寒気がした。
「無理。本当にもう無理。」

しばらくして、水たまりに足を入れてしまった。
さっきまで雨降ってたんだ。
「あぁ。」
「傘、忘れた。」
溜め息を二度ついた。
とぽとぽと、引き返し美容院に向かった。

水たまりが教える
雨と傘

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「かみかさ」第11話

「かみかさ」第11話

本当に傘が送られてきた。
饒舌だったし、その場限りの話かもと思っていた。
おじさんの話は、本当だったのだ。

高級傘を家族分4本も。
母は晴雨兼用の黒の傘。縁取り10cm程に黒の上品なレースが重なっている。
父には焦茶で合皮の持ち手の傘。
弟には濃紺の傘。
私のは縦糸に抹茶色、横糸に山吹色の傘。布製なのに決して重くない、16本針の一番上等な傘。

それは花束でも届けられたように梱包されて贈られてき

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「かみかさ」第10話

「かみかさ」第10話

再び部屋に入ると話は賑やかに変わっていた。

たぶん初めて会うおじさんに傘職人さんがいた。
「あの傘の持ち主だ。」と思った。
老舗の傘職人で、一時は低迷していたが、高級ブランドからの注文が入るようになって、経営は持ち直した。高級ブランドからの発注であっても、すべて手縫いでしっかりした作りだった。おじさんは誇りに思っていた。

「あの傘立てにあったの見ました。鶯茶色と京紫の傘がおじさんとおばさんので

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「かみかさ」第3話

「かみかさ」第3話

いのりは、傘を取りに美容院に戻った。
しかし傘は傘立てごと店内にしまわれていた。
それはガラス越しに見つける事ができた。

「大事な傘・・・忘れてしまうなんて。」
髪を触られるの苦手で、今日、男性美容師さんだったから、動揺していたのだろうか。
大事な傘まで忘れてしまって、更に動揺していた。しっとりと濡れた抹茶色の傘をみていた。

傘を取りに営業時間に来るしても、電話をするにしても、もともと億劫な美

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「かみかさ」第1話

「かみかさ」第1話

[あらすじ]
いのりと燈郎が、憧れる美容室の店長の皆川ひかりが、体調不良によりお休みとなる。
髪を触られるのが苦手ないのりが、代わりに燈郎にカットしてもらった。いのりは動揺し美容院に傘を忘れてしまう事から始まる話。

その傘は遠い親戚の傘職人おじさんからもらった大事な傘。

二人は、すれ違がう事によって惹かれていってしまう。
燈郎はいのりの髪に傘をさしかける事ができるのか。

私は詩人なので、1話

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