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本棚の森 〜書評集〜

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動物本、動物園本を中心とした書籍のレビューをまとめました。
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#推薦図書

【読書メモ】松本清張「或る『小倉日記』伝」

【読書メモ】松本清張「或る『小倉日記』伝」

 松本清張が直木賞ではなく芥川賞を受賞していたことを知った時は驚いた。文学をジャンルで区切るのはナンセンスだが、『砂の器』や『ゼロの焦点』といった推理小説の分野で著名な作家、という前情報があったからだ。

 しかし、芥川賞受賞作の「或る『小倉日記』伝」を読み、これはまぎれもなく「にんげん」を描いた作品だ、と感じ入った。

 「或る『小倉日記』伝」の主人公、田上耕作は生まれつき身体に障碍を抱えながら

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【ブックリスト】霊長類は……お好きですか?サルを知り、ヒトについて考える6冊

【ブックリスト】霊長類は……お好きですか?サルを知り、ヒトについて考える6冊

■「霊長類は……お好きですか?」

動物園や水族館に意識的に足を運ぶようになってから、特に心惹かれてきたのはサルの仲間でした。

オランウータンやチンパンジー、フクロテナガザルといった類人にはじまり、日本モンキーセンター(愛知県犬山市)を繰り返し訪問する中で、関心はヒトを含む霊長類全般へと拡大していきました。
いつしか私の本棚の多くのスペースはサル関係で占められるよう

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あの日見たオランウータンの名を、豊島与志雄は知らない

あの日見たオランウータンの名を、豊島与志雄は知らない

"言葉を持つことだ。オランウータン、自分自身の言葉を持つことだ、そう私は繰返したのである"

豊島与志雄(1890〜1955)という作家がいる。

大正〜戦後にかけて活躍し、芥川龍之介や太宰治とも親交を結んだ。太宰が玉川上水で自死した時は葬儀委員長も務めている。ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』や、ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』といった大長編

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【書評】雑木林の思想――河合雅雄『学問の冒険』を読んで

【書評】雑木林の思想――河合雅雄『学問の冒険』を読んで

独創と逍遥と。霊長類から見えてくる、「われわれとは何か」 2019年11月。SAGA(アフリカ・アジアに生きる大型類人猿を支援する集い)第22回大会観覧のために愛知県犬山市の日本モンキーセンターを訪問した折、センターの飼育スタッフの方から、印象的なお話を伺いました。

飼育されているサルたちの生き生きとした姿が注目を集める日本モンキーセンターの公式twitterアカウント(@j_monk

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【ブックリスト】「個」を入口に動物園を楽しみたい人に贈る4冊

【ブックリスト】「個」を入口に動物園を楽しみたい人に贈る4冊

0.個体とナラティブ動物園の動物を、「かけがえのない個」と見て物語(ナラティブ)を紡ぐこと。ハード面での変化と並行して、ソフトの面でも動物園は変化している。

園の発信の方向も私たち観客の関心も「『個』のライフヒストリー」に向かいつつある状況は、コミュニティの輪の中にいない人にはひょっとしたらなかなかイメージしにくいことなのかも知れない。しかし、着実に輪は広がっている。

本稿では動

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【ブックリスト】「動物園のこれまでとこれから」の論点を押さえたい人に贈る4冊

【ブックリスト】「動物園のこれまでとこれから」の論点を押さえたい人に贈る4冊

0.動物園史はいいぞ

「動物園史」と聞いて、ほとんどの人は「なんじゃそりゃ」と戸惑うだろう。動物園は、「今、ここ」に生きているいのちたちに会える場。過去ではなく現在に関心が集まる場だ。しかし、動物園にも歴史はある。

いま、動物園は過渡期にある、と言われる。ポジティブな意味でも、ネガティブな意味でも。

かつての動物園に比べ現在の動物園は何が変わったのか、そしてこれからどう変

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