のり子

お腹が空いてない時とお腹が空いてる時の中間の時間が一番しんどいかも知れない

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  • 小説

    シリーズものでない小説はここです。

  • よみかけ。

    読みかけの本について、本と過ごす生活、日々のよしなし事と読書。 ——的な感じで書くエッセイです。 ルールは、「読みかけの本しか扱わない」「文字数、投稿頻度に規定なし」と決めました。

  • 文字ラジオ

    グルーブ感と感覚だけで書く即興の文章です。一応日記としての役割が果たせたらいいな。のり子。

  • 世界詩箱

    詩置き場です。

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最近の記事

堀川くんの憂鬱

「一旦、タバコを吸うのをやめようか」 私は、彼の口に引っ掛かったまだ火のついたばかりの四角いタバコを摘み上げた。 すこし残った煙だろうか。彼は残尿のようなそれを吐いて、ため息をついた。 「どうしたんだい。またしょげてるね」 「そりゃ、やる気もなくなりますよ」 「やる気かい」 「ええ」 彼は呆れたように首を揺らした。 私は話を聞こうと彼の隣に座った。これまでも何度かあったシチュエーションである。彼はこの近くに住んでいて、私は仕事終わりに通るのだ。遠くにビルが見え

    • 曽根崎心中EDM

      2/11 近松門左衛門『曽根崎心中』を読んだ。 驚いた。あまりの衝撃にバイト先の食事会に遅れた。上司に叱られ席につき、会話をする間も私の頭に流れるのは曽根崎心中の音色である。 『曽根崎心中』は空疎であった。 私が驚いたのはその部分である。中身のない、空っぽの話なのだ。 何かの原型みたい。 と最初に抱いた感想はそれで、考えれば考えるほど、これは物語でなく、物語の枠の部分、形しかない。原型そのものである。 主人公徳兵衛の働く先も何をしているわけでもなく「職場」でしかなく、それ

      • 天台のメンタリティ

        ずいぶん長い間、天台宗がぼんやりとしていた。 自分なりにたくさんの本を読んで、さまざまな仏教に関して、知識に色がつき、周辺にある宗派や思想の順序立ち位置を把握しても、天台宗だけは輪郭を持たずぽっかりと空いていた。 それは私の歩いてきた書籍の道のりによるのでなく、おそらく天台宗側に理由がありそうである。今思い返してみても、天台だけは何故か、真言密教や浄土真宗が西洋哲学の言葉で説明されなおしていたり、近代以後思想の解釈をしなおしたりして、それを積極的に押し出し書籍化しているのに

        • シャーロックに関する事件

          やっぱりシャーロック・ホームズが好きだ。 ロンドンの寒空、背の高い男女がコートの襟を立てて行き交いする。 金具や木の軋み音、硬い蹄の音を立てて馬車が通る。 ホームズの部屋の散らかり、本や壁にかかった写真、何種類も揃えられたタバコ、床に転がる灰、使い古されたパイプと革のソファ。 奇怪な死体、辻褄の合わない証言、正体不明謎の人物、暗号。 いつでも素材は一流だ。考えうる限りの名産物がここに揃う。 郵便はよく分からないものを送り、家主はよく分からない人を泊める。民族の傷が疼く。謎の

        堀川くんの憂鬱

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          教養の壁

          石川淳『江戸文学掌起』の「横井也有」の章からの孫引きである。 横井也有の鶉衣に大田南畝が書いた序文である。 これを読んで……というより、これをまず読めるかどうかである。 なんとなく、噂になってる凄い本があって、その本の動向(——当時は今と印刷事情が違うので、版本で出回る数百冊、あるいは手書きで写して手にいれる他ないから本の動向は大切なのだろう)とその本の内容の素晴らしい事について書いてそう……ということは見て取れるのだが、それで合ってるのかも分からない。 教養がない上に、

          教養の壁

          壁の裂け目 短編小説

          ある年のゴールデンウィーク。 高校を卒業し、大学を待つ身である時岡は部屋で寝転んで漫画を読んでいた。 なんてことない休日。 何をする予定もない日だった。 突然の出来事。 部屋が揺れ、地響きのよう音が体に響いた。 地震かと思った。時岡は漫画を置き、安全な場所を目で探した。と同時に、部屋はまた無音に戻った。 窓の外を見るとさっきの揺れは何もなかったみたいに、人も鳥も何食わぬ顔でいる。 「あっ、えっ、何だったんだ」 今の揺れは勘違いか。スマホを見ても、自信があったと言う情報はな

          壁の裂け目 短編小説

          読書会曼荼羅なるもの(多読の真髄)

          随分まえに「読書界曼荼羅」なる単語がわたしのなかでほつと生まれた。定義らしい定義をこれまで書いたことはなかったが、あるにはあるのでそれを載せておきたい。 形式としては、女子博士の記事に出そうと思って随分前に書いた文章の転載である。 その文章を、解説・感想と共に見ていこうという趣旨である。 「博物学的読書のすゝめ」  私がここで行うのは新概念の共有であるが、これがその実「新」ではさらさらないのであって、単なる名付けにすぎない。つまり新行為の提出ではない。以前から一部で盛

          読書会曼荼羅なるもの(多読の真髄)

          適当読書指南

          さてわたしのり子が、ここ二ヶ月続けていること。 『よみかけ』なるエッセイシリーズ。 本シリーズは、夏休み後半のわたしの読書離れにより、リハビリ期間をもうけるはこびとなった。 今回は第二回「適当に本を読み散らかす」の段である。 自慢じゃないがわたしは適当に本を読むことにかけては、誰にも負けない。 わたしは、読み散らかすことに特化したいくつかの技法と心得をもっている。 それは元来わたしの億劫病に由来するものだ。気合いを入れると、どうしてもそれが長く続かないのである。しかし逆

          適当読書指南

          尾崎翠・梶井基次郎 対 消費社会 

          思わぬ再発見があったりして、文学の細部がもつ奥の深さを思い知る。 最近、金を使うという快楽があることを知った。 もう一ヶ月以上も前の話である。 バイトを終え帰り際にコンビニに目が引き寄せられた。 わたしは疲れていたのだ。単なる疲労というよりは、背中に毒の溜まったような疲労。こういう時わたしは頭がピリピリする。小さな頭痛なのだろうか。 気がついた時には夜の中に浮かぶ眩い店に入っていて、商品と光に包まれていた。お腹が空いた。家に帰ると晩御飯がすでにあることを知っていながら

          尾崎翠・梶井基次郎 対 消費社会 

          休肝日的なやつなのか、はたして

          休肝日とかいう面白い言葉。 まず語感がいい。口なじみがある。加えて、この一語にその日以外の生活が明らかに見えるのもいい。 どうやら現在わたしは休肝日的なものを過ごしているらしい。 アルコールではなく、エクリチュールにまつわる休みである。 ホロライブにハマって以来、読書時間はガクッと減ったが、学校が始まり読書離れはいよいよ進んだ。 こういう日々が数週間と続くと不思議な変化が起きる。 本を開くと同時に眠たくなるのだ。わたしにとって珍しい反応だが、これがここ数日「久しぶりに読む

          休肝日的なやつなのか、はたして

          生活にとっての幸せ、人生にとっての幸せ

          今日もまた本の話をしてしまう。 毎度変化も、芸も、工夫もない手前味噌な話題作りである。 次くらいはもう少し飛躍した事件なり思索なりを語ってみたいと、いつも考えるのだが。 さて、わたしは人生が好きである。 なぜなら、理解できないからだ。 なぜ私が平安時代でも空飛ぶ車の未来でもなく、令和の時代を生きているのか。 なぜアメリカでも月でもなく、日本に生まれたのか。 なぜ目が見えてるのかとか、くしゃみをするのかとか、わさびが食べられないのかとか。 巨大な問題から些細な問題まで。

          生活にとっての幸せ、人生にとっての幸せ

          本屋慕情

          貧すれば鈍する。 わたしはこの夏、この言葉を知った。ある二種の出来事から。 お菓子と本。これらが教えてくれたのである。 1、お菓子を食べた。 わたしは日頃お菓子を食べない。ジュースも飲まない。コンビニに入るのは月に一度買うタバコを手にいれる時くらいだ。 この非美食性質はわたしのそもそもの嗜好というより、経験がつくったものだろう。わたしもサヴァランになれるならなりたかった。しかしその道を捨てることで、別のものを得ようとしたのだ。 心臓がヒリヒリするくらいお金に困った時

          本屋慕情

          水槽と口紅、脱出不可空間と構造

          静かな晴れ空。 後味のしない一日になるはずだった。まるで水か、空気でも食べるみたいに。 僕は昨日と同じように深海の夢から自分の体を引きずり上げるため冷たい時計を掴む。顔を洗って、朝食にはヨーグルトに巨大な袋からかきだしたブルーベリーをのせて食べる。服を着る。 窓からは朝の柔らかい光が、沈むようにさしこんでいる。 僕は窓から大通りを見下ろした。まだ朝早く、まばらに人が通る。新聞屋、警察官、ジャージを着てランニングする老人。 その中に、優雅に青いベレー帽が歩く。僕の目はふとその

          水槽と口紅、脱出不可空間と構造

          休むと衰えるが珍しいことなのでそれもまた良し

          本を読んでない。 たしか昨日に限っては一行も、一文字も読んでいない。 そんな日は、一体何年ぶりのことだろうか。 文字を読まないで終えてしまう日。 最近こういう日が続いている。 したがって文章を書くのも久しぶりだ。 作文が下手になった。 少し前まで出来ていた、自動でつらつら文章が繋がる感じを失い、一言ずつ一単語ずつ、立ち止まりながら、考え選びながら書いている。勘が鈍るというのは面白い現象だ。そして下手な文章しか書けない。 記憶にある限り、私の人生の中でこんな日常はない

          休むと衰えるが珍しいことなのでそれもまた良し

          のり子'sリュック 夏の選抜

          明日、家を出る。 行き先は和歌山県。祖父母の家だ。 五日間滞在することに決めている。 居心地のいいあの和室。 静かな田舎町の片隅で、思うぞんぶん紙を弄んでやろうというわけだ。 で、まいど頭を抱える問題が、 「ではどの本を持って行くか?」 これである。 毎年、毎季節、意味のない不安症で必要以上の本をリュックに詰め、無駄に重たい思いをして、実際読むのはそのうち三、四冊程度。 私の和歌山帰郷に成功例はない。 今年はその反省を活かし、選定に関し今まで以上にシビアになろうと決意

          のり子'sリュック 夏の選抜

          堕落者の末路

          アニマル浜口が飛び出した。 私のスマホの中。 「気合いだ!気合いだ!気合いだ!気合いだ!」 わざわざ今頃こんなものをオススメしなくてもいいんだぞYouTubeさん。 しかし、この「気合い」という言葉に、私は胸を突かれる。 そうだ……私は意気地無しだ。私は半端者だ。堕落者だ。 のり子に「気合い」はいちばん縁のない言葉である。 また、この性根の腐敗を解消するためには、いちばん必要な言葉でもあるのだろう。 『薔薇の名前』 ウンベルト・エーコのデビュー作であり、現代小説の中

          堕落者の末路