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効果的&持続可能なオウンドメディアをつくる「9つ」のカギ〜戦略・企画・論理・表現・編集チームづくりまで

 消費者の情報収集がオンライン中心になり、ソーシャルネットワーキングサービス (SNS) で情報が拡散する現在、オウンドメディアで自社の独自コンテンツを発信していくことは、会社が成し遂げたいことを果たすための一つの有効な手段となっている。成し遂げたいこととは、例えば、自社商品のマーケットを拡大すること、自社の方針に共感してくれる人材を確保することなどだ。

 しかし、やみくもになんとなく始めるオウンドメディアは迷走する。それは目的やターゲット、評価指標(KPI)、そして企画決定の基準が欠けているからだ。ターゲットのニーズに応えるオリジナルのコンテンツを発信し続けるには、これらの要素が必要不可欠。今回は、僕がオウンドメディアを立ち上げる際にかならず考えること運営し続けるにあたり大切にしていること「9つ」紹介したい。

1. なぜオウンドメディアをやるのか?

 なぜ、オウンドメディアをやるのか――メディア立ち上げの際にはもちろん、明確な目的がなければならない。これはコンテンツの力を使って、会社は何を成し遂げたいのかを明確にすることに他ならない。裏を返せば、「何かが足りないからメディア、コンテンツに頼る」ということ。この「何が足りないか?」をきちんと把握していることが大切だ。

 目的は企業の規模、位置づけを考えたうえでさらに絞られる。例えば、「自社商品の市場を拡大するためのオウンドメディア」を立ち上げるとしよう。これが、その市場のシェア1~2位といった大手だったら、全体の市場を大きくするのが目的でいい。市場全体が大きくなれば、シェアNo.1の会社は自動的に儲かるはずだ。

 しかし、これが後発ベンチャーのチャレンジャーとなると、市場全体を大きくすることにあまり意味はない。むしろ、市場は拡大せずとも、既存市場の中で自社のシェアを拡大することを目指さなければならない。つまり、市場での差別化、競合優位性のアピールが大手よりも重要になってくるだろう。

2. 情報の「粒の大きさ」を見極める

 企業あるいは事業の規模に応じた目的がはっきりと定まると、「コンテンツの粒度」を決めなければならない。

 例えば、オウンドメディアの情報発信で自社の採用を促進したいとしよう。大手企業だったら、「新しい働き方を発信するメディア」というような粒度の大きい設定で、世の中に柔軟な働き方を広げることで(つまり全体の市場を拡大することで)、自社の人材募集に応募してくれる人を増やせるかもしれない。

 しかし、「粒度が大きい」ということは「誰でも発信できてしまう情報」であり、チャレンジャーがこれをやってしまうと、それは完全に市場全体の中に埋もれてしまう。「独自の自社アピール」を目指すためには、「起業家を目指す人を鍛えるための働き方」とか「女性でも活躍できる働き方」とか、ある程度ターゲットを絞ったコンテンツの粒の大きさでなければならない。

 ただし、この情報の粒が小さすぎると、ニッチすぎてビジネスにならないという恐れもある。粒の大きさを適当なものに決めるのは、編集者の腕の見せ所だろう。情報の粒の大きさと、狙いたいマーケットが合致し、「こういうテーマはここでしか扱っていない」または「こういうテーマならこのメディアが一番詳しい」ということになれば、読者はそこを目指して集まってくるはずだ。

3. KPIで情報発信の場を守る

 もう一つ、オウンドメディアで情報を発信し続けるためには、「KPI(主要業績評価指標)」も必要だ。編集者やライターの中にはコンテンツの質を数値で測るのがあまり好きではない人が多いかもしれないが、KPIが結局は自分たちの発信の場を守ってくれることを忘れてはならない。

 コンテンツを何人が読み、何人が商品紹介ページに行き、何人が買ってくれたか・・・ 企業の目的によって指標は変わってくるが、何らかのKPIがなければ迷走してしまう。目的感がないままにしばらくメディアをやってみても、振り返りようもなく、コンテンツが読まれないケースが多い。そうなると後から適当なPV(ページビュー)の目標を決めたり、そのPVに達するために記事数だけやみくもに増やそうとしたり・・・ という事態に陥りかねない。まずはKPIで情報発信の場を守り、コンテンツを発信し続けることが大切だ。

4. 編集長がターゲット読者

 それでは具体的に「読まれる企画」を生むにはどんな工夫が必要だろうか? 僕は経験上、編集チームの中にメディアの読者ターゲットを1人入れる必要があると思っている。もちろんベストなのは、その人が編集長であることだ。

 編集長が読者ターゲット、つまり「ペルソナ」であれば、企画はブレないし、編集者やライターも迷わない。PVなどでは測れない定性的なコンテンツの価値を、その人自身が感じて発信することになるからだ。そして、その人は読者でもあるので、社内でも予算を取ってきて、メディアの運営を継続しようと、熱意をもって努力したりする。

 例えば、僕が手掛けているTAMの採用を促進するためのオウンドメディアの場合は、「高度なフリーランス人材」を採用するための情報発信を心がけているが、自分が一番の読者だと思ってやっている。会社の理念や経営課題、今の時代感を捉えると、ターゲットとするペルソナは、自立したフリーランス人材にすべきだと考えたからだ。

5. 編集チームの中に「ペルソナの半歩先を行く人」を

 ペルソナが決まった後、今度は編集チームの編成である。オリジナルなコンテンツをつくるため、ぜひとも編集チームの中に入れたいのは、「ペルソナの半歩先を行く人」だ。こういう人は編集部の中に多ければ多いほどいいが、少なくとも1人は入れたい。

 「ペルソナの半歩先を行く人」は、読者の悩みを理解していて、その悩みをどう解決すればいいのか、どう語ればいいのかを経験者として分かっている。そして、ペルソナに「悩みを解決した後の理想像」も見せることができる。こういうコンテンツはリアルである上に、オリジナルになる。一番かっこいい企画の仕方だと言えるのではないだろうか。

 仮に「ペルソナの半歩先を行く人」が編集チームの中にいない場合は、外部にいるそういう人を知っていることが大事。その人がSNSなどで発信していることを見ていれば、読者の理想像が分かるし、さらにその人が次にやりたいと思っていることが分かれば、読者に「半歩先」のさらに先、「一歩先、二歩先」にある理想像を示すこともできるだろう。

6. 人物紹介によるレバレッジ効果を得る

 コンテンツのオリジナリティを求める中で、読者の興味対象となるような面白いインタビュー対象者は、編集長や編集者が一人ひとり探しているだけでは、「1対1」と限定的になってしまう。そこで、そういう人を知っている人を介した「情報源のレバレッジ効果」も図りたい。

 「この人は読者の興味対象となるような人物をたくさん知っている」という人にアクセスすることで、情報源は「1対1対n」というように広がりを持つ。情報の収集が効率的になるうえ、何よりその情報がリアルで信頼できるものであるということが大きい。

7. その企画は読者のどんな悩みを解決するか?

 コンテンツのアイデアを企画に落とし込む際、「誰に」「どんなこと」を聞くか、を考える人は多いだろう。僕はそこに毎回、「読者の悩み」を追加する。追加する、というより、正しくは、読者の悩みから企画を始めるのだが。

 読者の悩み、とはつまり、この企画は読者のどんな悩みを解決するのか、ということだ。これがなければ、コンテンツの中身はただの事実の羅列他のメディアでも読める記事にすらなってしまいかねない。

 悩みのない人など、いない。だから、情報の粒度が的確で、編集チームにペルソナがいれば、ネタ切れなんてことは起こらない。編集チームにペルソナの半歩先を行く人がいれば、その悩みに刺さるメッセージまでも導き出してくれるだろう。

8. コンテンツを最後まで読ませる工夫

 ターゲットに合った粒の大きさの情報をリアルな情報源から収集した後は、コンテンツを最後まで読ませる工夫をする。

 まずは記事の冒頭で読者の悩みを解像度高く示した後、この記事でどう解決されるのかを説明することが大事だ。この部分がしっかりしていれば、後の構成は論理的で、いたってシンプルになるだろう。

 では、実際に読者が集中力を保ったまま読み進めるようにするためには、「抑揚」「緩急」を意識する。

 僕は記事を編集するとき、最初から最後まで「読者の感情の抑揚グラフ」のようなものを頭の中に思い描いている。その折れ線グラフが、短期間で上下し(心が揺さぶられ)要所で跳ね上がる(メッセージが伝わる瞬間)ように工夫を施す。

 例えば、読者を啓蒙するような結論のインタビュー記事を編集する場合、

① 冒頭でまず読者が抱える悩みを浮き彫りにし(読者が自分ゴト化し、グラフが一度盛り上がる)

② 続く人物紹介のところではどうしても一時テンションの低い部分を通る(が、ここでも3段落に1回ぐらいは太字にしたいような強いメッセージを入れ、読者の注意を引きつける)

③ その人物に読者に寄り添う姿勢を見せてもらう(読者は安心、共感し、グラフがやや上昇)

④ そこで斬新な観点を提示し、啓蒙を開始(読者は戸惑い、グラフが急上昇)

⑤ その観点を補足する事例、その人物がその観点に出会ったきっかけ、そのとき感じた戸惑い、その観点を体得するに至った経緯を語り(グラフは一度下がり、再びやや上昇)

⑥ 最後に、その観点を会得することで拓ける未来の可能性を提示(読者は感動し、グラフが急上昇)――といった具合に。

 そして、文章にメリハリとリズムを付けるため、「緩急」を意識する。

 例えば、これは学生時代の演劇の経験で学んだことだが、「同じセリフでもただ早口でしゃべり合うだけで、その場のテンションが上がる」という効果がある。文章では、例えば短文の会話を小刻みに入れてみたり、わざと体言止めを入れてみたりといったことで、リズムやテンションを変えることができる

 インタビュー記事の場合は特に「口語」を意識して、「~だと思います」というところを時々「~じゃないかなあ」「~かもしれないと思って」などと変えて、インタビューの現場の臨場感を再現する工夫が必要だと思う。

9. コンテンツを振り返って評価する

 最後に、コンテンツを配信した後は「コンテンツ評価シート」をつくって記事を振り返る。

 例えば「タイトルは思わずクリックしたくなるか」「記事の冒頭で引き込まれるか」「記事を最後まで読み通したくなるか」「記事を読んだ後、シェアしたくなるか」などの項目を設け、評価する。また、知り合いに記事を読んでもらって、定性的な評価をもらうことも有効だ。SNSのコメントを観察するだけでは不十分なことが多い。

 僕の場合は、編集チームで評価シートを使って毎月振り返り会をする。そこではコンテンツの反省だけでなく、次の企画のヒントを得たり、読者の傾向を分析して、「僕らのメディアはこういう読者が多いから、こういうコンテンツが読まれるね」というような、メディアの方針についてチームですり合わせ解像度を高めていけることにも意義がある。コンテンツを拡散して終わりではなく、きちんと振り返りをすることが重要だ。

 以上、オウンドメディアの戦略を述べてきたが、特に最初の段階で「目的」「テーマの粒度」「KPI」「編集チームにペルソナを含むこと」・・・のどれか一つでも欠けると、誰も熱意を込めていないビジネスライクなメディアやチームになるか、逆に自分たちの発信したいことばかりが強くて、ビジネスとして価値にならないメディアができてしまう。これらの要素をしっかり設定したうえで初めて、効果的で持続可能なオウンドメディアが可能になると、僕は考えている。

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
執筆協力:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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