キャリアは積むな、ぶっ壊せ~海を越えたスターバックス大作戦~
「ちょっと、1回日本かえるわ」
2019年4月、私は韓国から日本に帰国した。
そこから約3年間、旦那と一度も会わなかった。
2018年の11月、私は韓国へと渡った。
約4年間交際した韓国人の彼氏と結婚に向けて準備をするために同棲を開始することとなった。
しかし、年末くらいから中国で得体のしれない感染症が発生しているとのニュースが流れ始めた。
それから、あれよあれよという間に韓国でもその類のウィルスによる大規模集団感染が発生し、すぐに韓国内でも感染者が急増した。
なんだかよく分からない状況になったので、当時まだ感染爆発が起こっていなかった日本に一時帰国する事となった。
日本に帰ってこれたのは良いものの、夏になっても韓国、そして世界規模でのコロナウィルスの脅威が治まることはなく、ついに韓国政府は全面的に韓国内への入国を規制すると発表した。私は日本で無期限の足止めを食らってしまったのだ。
人生の予定が大きく狂う。
結婚して韓国に住んで仕事探して……私の人生の計画表が真っ白になってしまった。
計画表は真っ白で、お先は真っ暗だ。
しかし、絶望ばかりしていられない。実家には住んでいるがやはり金が要る。30歳過ぎて親からおこづかいを貰うなんてまっぴらごめんだ。
金を作るには仕事が要る。
求人サイトに登録し、正社員で営業の仕事探しを始め、私は前職が商社の営業だったので、営業職で数々の会社を当たってみる。
しかし就職活動は上手くいかない。コロナ下の不景気のせいもあるのだろうか、エージェントの担当者の方に聞くと募集企業の1人の募集枠に対し何十人も応募を申し込んでいる状態とのことだった。
絶望感が増していく。大卒で社会経験もあるのに。
私の社会人生活は一体何だったんだろう。
そしてこのまま貯金を切り崩しながら生活していくのだろうか。
絶望の底に居た時、ふとある思いが浮かんだ。
「今正社員で仕事を得たとしても、韓国の履歴書に書けるだろうか?」
今から就職活動をして、私は世界に名をはせる大企業で働けるだろうか。
世界に通用するような資格やスキルを身につける事ができるだろうか。
韓国で履歴書を見てもらった時に、人事担当者に
「あ~! この企業で働いてきたのあなた! しかもこんな資格も持ってるのね!」
と私の未来に期待してもらえるだろうか。
日本で正社員になる代わりに、韓国に行っても通用する場所で働こう。
こう思いついた時から「正社員で会社を探す」という目標から「韓国に行って履歴書に書ける仕事をする」に変わった。
じゃあ何があるのか……。
韓国にもあって、日本にもあるもの。どこにでもあって誰でも知っているもの。
あった。1つだけある。
スタバだ。
スタバは日本にも韓国にも腐る程ある!!!
そう思い立った私は、
早速スターバックスコーヒーのホームページにもぐりこみ、
人事採用ページをクリックし、応募フォームへと進む。
めっちゃ記入項目が多い。さすがスターバックス。
ええ人材を探すのに本気やな。
どうにかこうにか書き終えて応募ボタンをクリックした。
あとは人事担当者の連絡を待つだけだ。
しかしこの待つ時間が私を不安へと駆り立てる。
なぜならスターバックスは大学生がしたいバイトランキングに必ずランクインしているほど人気な職場だからだ。
入社までの競争率が高い事で有名だ。
たとえ社会経験があるとは言え、この競争に勝てるのだろうか。
しかも現場で働いているパートナーさんを見てみると、とてもキラキラしている。
仕事も私生活も充実していて、お休みの日にはおしゃれなランチして、カフェとか行くんやろな。無印良品で揃えた家具に囲まれて、『UNION』とかのオシャレインテリアの雑誌見ながら、コーヒー飲んでるんやろな。寝る前にはハーブティー飲んで、いい匂いのするベッドで寝るんやろな。
高校の時の体操服をパジャマにしてる私とは
正反対の人達が働いているのに、
私なんかが交われるわけが無い。
連絡なんか来るわけない。
想像の中の誰かと比較して勝手に落ち込む。
しかし応募した次の日に、応募した店舗のマネージャーから連絡があり2日後に面接を受ける事になった。
私は余すことなく前職の経験を話した。
「4年間毎年新入社員に向け営業の指導をしたこと」
「自分で新しい営業内容を企画して実行したこと」
「お客様を失望させて学んだこと」
そして
「ここで経験をどう生かせるのか、そしてどんな風に成長したいか」
という事も話した。
マネージャーは真っすぐ私の目を見て聞いてくれた。
この面接の結果、スターバックスコーヒーで働くことになった。
そして2年ほど勤務し、韓国の渡航緩和が規制された頃、
私はスターバックスコーヒーを退社した。
未曾有の日本帰国から約3年後、私は韓国のスターバックスに居た。
目の前には店舗マネージャーがファイルを広げて座っている。
「なんでスターバックスで働きたいと思ったんですか?」
私は韓国のスターバックスコーヒーにて入社の面接を受けている。
「日本と韓国のスターバックスは違うところがありますか?」
「勤務中にストレスを感じた場合、どう対応しますか?」
「お客様に喜んでもらえるサービスをするためにどんなことをしますか?」
様々な質問が飛び交う。
日本での面接と同じで、真っすぐ、じっくり、
私の意見に耳を傾けてくれる。
マネージャーは最後にこう言ってくれた。
「実は日本に旅行した時にスターバックスに立ち寄ったんですが、
パートナーさんが気軽に話しかけてくれたり、コップにメッセージを書いてくれたり素敵なサービスをしてくれました。
履歴書に日本のスターバックスで勤務経験有と書いてあって、日本での記憶が蘇ってきて……それで面接にお呼びしました。
あなたが実際に日本でそういうおもてなしをしていたことも分かりました。是非その経験を活かして欲しいと思います」
この情熱的な面接の末、私は見事合格した。
キャリアは積むものではなくぶっ壊すものなのかもしれない。
「大卒なのに」
「前職のキャリアを生かしたい」
という過去の功績をいったんゼロにするのはかなり勇気がいる。
しかし一番重要なのは、
様々な出来事を通して得た「経験」というエキスをしっかり抽出して、
水のように柔軟に他業種でも応用していくことではないだろうか。
そうするともっと自由に職探しが出来るかもしれない。
実は、残念なことにスターバックスコーヒーから合格をもらったもの、
私は別のカフェで勤務することになってしまった。
同じタイミングで別のカフェでも面接をしていたのだ。
スターバックスより先に合格通知をもらったカフェで勤務する事になってしまった。
なんてこった、惜しいことをした。
しかし大事なのは、日本で立てた「スターバックス作戦」は
有効であると証明されたということだ。
いつかスターバックスで働こう。
そして
「アイススターバックスラテ~シャッチュガ(ショット追加)~」
と、どでかい日本アクセントの声を韓国で轟かせてみせる。
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