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「ファミリア」全23話

23
ケイト・クーパーは左頬に火傷痕のある十二歳の少女だ。母のジェシカ、飼い犬のチク・タクと共にフィラデルフィアのアパートで暮らしている。ある日見かけた車の衝突事故で、お気に入りのスト…
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#死神

「ファミリア」第一話

「ファミリア」第一話

プロローグ 澄み切った十月の青空の下、わたしたちはサウスフィラデルフィアにあるとある教会の墓地に立っている。

 墓石に彫られた名前はジェシカ・クーパー。
 大好きなお母さんの名前だ。

 教会の鐘の音が晴れやかに響くと、それに驚いた鳥たちが一斉に青空の中へと飛び立っていく。
「ワン! ワン!」
 威嚇めいた鳴き声を上げて一匹の小さな犬が飛び出すと、わたしの隣で車椅子に座るマギーおばさんが笑いなが

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「ファミリア」第二話

「ファミリア」第二話

第一部Cate Cooper

(1)

 けたたましい音でアナログな目覚まし時計が朝を知らせると、まず驚いてベッドから飛び起きるのは、わたしの弟分で小型の雑種犬「チク・タク」
 普段、滅多に吠えることのない彼が、唯一小さな牙を剥き出して吠えるのは、この同じくチク・タク鳴る彼のジリリリいう激しいアラームに対してだけだった。
 チク・タクなんてすごくおかしな名前だけど、由来は別に、彼が時計のアラーム

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「ファミリア」第十六話

「ファミリア」第十六話

Jim
(4)

 それは私が気に入っていた絵描きの、その中でも私が最も好きだったフラミンゴのイラストだった。――それに気づいたとき、私は彼女に言い知れぬ親近感を覚え、自分に課せられた掟のことなどすっかり忘れ去った。絵描きについて彼女が知っていることをすべて聞きたいと思わず口をついた。
「その絵描きのことで何か知ってることがあるなら、私に教えてくれないか?」
 彼女は目を丸くし、ひどく戸惑う様子を

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「ファミリア」第十七話

「ファミリア」第十七話

Jim
(5)

 ロベルトと父親が色鮮やかなテントの露店に並び始めたとき、私は一つの事柄に気が付いた。それは、私と同じ同僚たちの存在だった。
 皆、それぞれターゲットから少し距離を置いていたが、見る限り、このテントに向かって、少なくとも三人の同僚の存在を私は確認していた。
 こういった場合に想定できるのは、このテントをきっかけに起こる突発的な大きな事故か、もしくはこのテントに向かって起こる突発的

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「ファミリア」第十八話

「ファミリア」第十八話

Jim
(6)

「ロベルト!!」
 すっかり変わり果てた息子をきつくその腕に抱きしめる父親の姿を私は直視することができず、目を背けたままその場に立っていた。
 ルカの魂を冥界に送ったアニーが戻ってくると、「ジム! まだ此処にいたの?」とすっかり呆れた様子で言った。
「すまない、彼をなかなか説得できなくて……」
「ジム。説得など無用よ。一体どうしたと言うの? あなたらしくもない」
 アニーの反応は

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「ファミリア」第十九話

「ファミリア」第十九話

Jim
(7)

 ジョーは、命の尽きた妻に向かって愛を告げ続ける。
「なあ? 君たちにとって、『愛』とは一体何だ?」
 横に立つサマンサに私が訊ねると、彼女は「人間みたいなことを考えるのね」と笑いながら答えた。
「愛って、それ以上先がなく、そして、最果てもない。そんな絶対的なものだとわたしは思うわ。神のようにね」
 そして、ジョーの背中側へ進み出ると、彼を包み込むような仕草をして言った。
「ジョ

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「ファミリア」第二十話

「ファミリア」第二十話

Jim
(8)

「いや、肉体の死は決定事項だ。たとえ彼女がドニーから逃げおおせても、また別の事柄で、彼女は命を失っただろう」
 私は彼女の質問に答え、そして彼女の返答を待つ。
 彼女は本当に優しい人間だ。今、この瞬間もケイトの頭の中では様々な憶測が飛び交い、私の問いに答えるべく最も相応しい答えを探しているのだろう。
 そう考えると、私は彼女の優しさに言葉では言い表せない胸の熱さを感じていた。

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「ファミリア」第二十一話

「ファミリア」第二十一話

Jim
(9)

 再びICUと呼ばれる病室の中、母親の脇に腰掛けたケイトは、彼女の手を握り、呼びかけている。
「お母さん、必ず良くなるよ。だから心配しないで、今はゆっくり体を休めてね」
 自分に残された時間を意識しながらも、どこか彼女は、母親に残されている時間の方が、自分のそれよりも遥かに長いことを喜んでいるようだった。
 そしてケイトは、マギーとの別れのときと同じように、切なさと深い悲しみ、そ

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「ファミリア」第二十二話

「ファミリア」第二十二話

Jim
(10)

「チク・タク! こっちよ!!」
 ケイトは叫び、チク・タクを迎えるため大通りへ飛び出した。
「あれほど言ったのに!」私は慌てて道路を引き返し、叫んだ。「ケイト! 今すぐに戻れ! チク・タクは安全だ! 彼にその予定はないんだ!」
 大通りを進む車が、大きなラッパを鳴らしながらケイトへと迫っている。正面に捉えた弟を死なせないために、ケイトは全神経をチク・タクに集中させていた。
 私

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「ファミリア」第二十三話

「ファミリア」第二十三話

Jim
(11)

 局長室へと向かう途中、アニーが信じられないといった表情で私に訊ねた。
「ジム。一体どうしたというの? あなたのような優秀な死の使いが、まさか掟を破るような馬鹿な真似をするなんて!」
 責めたてるアニーに私は答えた。
「君も『愛』を知ればきっとわかるさ。私も、その『愛』によって突き動かされた者の一人だ」
 この言葉は彼女の心の奥へと届くだろうか? 私がヴァレリーと出会い、彼等を

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