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虹乃ノラン
2024年5月10日 17:56
プロローグ 着信音が聴こえる。……おかしいな、音は消してあったはずなのに……。 おぼろげな意識で手元を探ろうとすると、とつぜん頭がぐらりと揺れた。ドンとぶつかったような感覚で、次の瞬間、右首に突き刺さっている異物がさらに内側へ捻りこまれる。液体が溢れ出し首筋を濡らす。続いて身体が跳ね上がり意識が分散する。お尻が温かいものにじわりと浸されていき、おねしょをした記憶がよみがえる。 何か大変な
2024年5月10日 18:01
第一章 サトザクラ川瀬昇流(1)「あ、川瀬さん、ちょっとちょっと。ちょうどいいときに見つけた」 俺を呼び止めたのは、文京区役所の産業振興課の職員である釜田だった。「振り込み申請書のフォーマットが変わりましてね、役所仕事で申し訳ないけど、もっかい事業者登録証書き直してほしいんですわ。いやこれからセミナーですよね、開始前で慌ただしいときに申し訳ない」「いいですよ、今日銀行印もってないけど大丈
2024年5月10日 18:03
第一章 サトザクラ川瀬昇流(2) しかし同じ田舎で育ち、同じ学校を出て、同じ職業を目指し上京したのに、どうしてこんなにも違ってしまうのかと考えると、俺はかすかに胸が苦しくなる。嫉視反目しようとする封印されたはずの俺のペルソナが、ここぞとばかりに首をもたげた。「ところで川瀬さんは? 何かきっと立派なお仕事をされているんでしょう」 偶然の一致で盛り上がった波柴は質問を投げ掛けた。無邪気に一歩踏