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「鳥かごのハイディ」完結済み 全23話

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ラクロスの双子、エレノアとチャーリーは幸せに暮らしていた。姿はそっくりでも、性格は正反対。せっかちで右利きのエレノアに、不器用で左利きのチャーリー。一歩先を行くエレノアをチャーリ…
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#ラクロス

「鳥かごのハイディ」第一話

「鳥かごのハイディ」第一話

プロローグ
 ハイディー、エレノア。

 八月のグランダッド・ブラフから見る、ミシシッピ川の渓谷と、青々と生い茂る木々の緑。その境界線の向こうには、手を伸ばせば届きそうなほどの真っ白くて大きな雲と、透き通った青空が見えるわ。
 青と緑の境界線を自由に飛び回る野生の鷲が、今のわたしには眩しく見える。このシーズンの、グランダッド・ブラフ・パークって、こんなにも観光客で賑わってたかしら? 
 たった一年

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「鳥かごのハイディ」第十一話

「鳥かごのハイディ」第十一話

Smoke
(2)

 誰かがわたしの名前を呼んでいる。

「チャーリー? チャーリー?」

 名前を呼ばれるたびに、心が苦しくなる。

「チャーリー?」

 ……アガサ?
 我に返った途端、息をするのも忘れていたかのように苦しくて大きく息を吸い込んだ。必要以上に膨らんだ肺が痛み、今度はむせるように咳き込んで萎んでいく。
「チャーリー? 大丈夫? 落ち着いて水を飲んで!」
 アガサがわたしを抱きか

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「鳥かごのハイディ」第十二話

「鳥かごのハイディ」第十二話

Smoke
(3)

 翌日の空は薄暗く、ずっと曇天模様で、小窓の先にある外の光りからは完全に遮断されていた。
 どのみち、この狭い箱にある小さな窓からじゃ大した景色なんて見えないけれど、光りの差し込む量が違うだけで、この鳥かごは独房のように重苦しく感じる。
 いつもの看護師チェックの後に、毎日気分の落差を感じさせないアガサが大きな声でこう言うの。

「ハイディー! チャーリー」
 彼女はいつも元

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「鳥かごのハイディ」第十四話

「鳥かごのハイディ」第十四話

Smoke
(5)

 秒針の音は心地好く、あの頃の記憶を呼び起こしていく。
「チャーリー! 今度教会に行くときは、わたしたちの大切な宝物を、神様に預かってもらいましょ!」
 窓から射す月明りの中、向かいのベッドに眠るエレノアがわたしに囁いた。
「宝物? オルゴールボックスに入れたわたしたちの思い出のこと?」
「そうよ! 他になにかあるの!?」

 そのオルゴールボックスには、たくさんの思い出が詰

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「鳥かごのハイディ」第十六話

「鳥かごのハイディ」第十六話

Border
(2)

「チェック!」

 扉が開く音と共に、看護師長のクレアの声が聞こえた。目を覚ましたわたしは、いまだにこの狭い鳥かごの中にいることを知り、大きなため息をつく。
 いつの間にか真っ暗になっているこの部屋と、窓の向こう。すぐ傍には椅子に腰掛けたままで眠るアガサの姿があった。
「クレア……、今は何時なの?」
 ベッドから訊ねると、クレアは腕時計の文字盤をペンライトで照らし、「午前二

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「鳥かごのハイディ」第十八話

「鳥かごのハイディ」第十八話

第五章String(1)

 青白い蛍光灯がチラチラと足もとを照らす。真っ白な廊下は薄暗く、少しだけ不気味に見える。
「なんでギターまで持ち出す必要があるのよ? まるで家出じゃない!」
 小声で文句を言うアガサに、わたしも小声で答える。
「だってママの大切な形見なんだもの、置いてなんていけないわ。持ち歩かないと不安よ」
 ギターケースを抱えて、アガサの後ろを泥棒のようにコソコソと気配を消しながら廊

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「鳥かごのハイディ」第十九話

「鳥かごのハイディ」第十九話

String
(2)

 大通り沿いにある、小さなダイナーに移動したわたしたちは、店の公衆電話から連絡をして、パパが迎えにきてくれるのを待った。早朝でしかも突然だったから、始めは電話の相手がわたしだってことを信じてくれなかったパパも、アガサに代わった途端、ようやく現実だと気づいてくれた。
 近くにあった標識の番地を告げると、パパは、動かずに待っててくれと何度も繰り返し、名残惜しそうに電話を切った。

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「鳥かごのハイディ」第二十話

「鳥かごのハイディ」第二十話

String
(3)

 チャーリーがそれを望まないこともわかっていた。それでもママのベッドで泣き暮らすチャーリーを見ていたら、このまま家族の想い出の詰まったラクロスにいたら、いつまでたっても哀しみは癒えることはないだろうと思わせた。
 だからわたしは、喪失の痛みからチャーリーを遠ざけるためにミルウォーキーの高校へと追い出したんだ。将来のことを考えれば、たとえ恨まれることになったとしても、学校に通

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「鳥かごのハイディ」第二十一話

「鳥かごのハイディ」第二十一話

Towing

 朝日が街を照らし、そこに暮らす人たちが疎らに出歩き始める頃、後からレッカー車に乗ってやって来たパパの同僚が、パパと同じランディのピックアップトラックを工場へと運ぶ段取りをしている。
「なんか混みいってたみたいだな。邪魔しちまって悪かったよ」
「いえ、それより本当にごめんなさい。わたしのせいで車どころか、旅の予定まで台無しにしてしまって」
 知らせを受けてお店を出た道路の脇で、レッ

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