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「ホテルエデン」完結 全19話

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愛猫の「楓」を亡くし、泣き暮らす千里は暗闇のなか目覚めた。そこには黒髪の少女アケルと仮面の総支配人ケルビムがいた。そこはホテルエデンの東館。なぜそこにいるかもわからぬまま、ケルビ…
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#食堂

「ホテルエデン」第一話

「ホテルエデン」第一話

プロローグ
 白い光に目が眩む。この光は外からやってくるものなのか、内からやってくるものなのか……。破裂するほどの痛みに発する声は他人のものようにぼんやりと響く。
「まだですよ! まだいきまないで!」
 助産婦の手に汗が光り、私の顔を布のようなもので拭いている。
 そうだここは処置室……。白い処置室……。
 何度も訪れる無意識の狭間に、意識を失いかけるほどの激痛が私を呼び覚ます。
 今、ひとつの新

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「ホテルエデン」第六話

「ホテルエデン」第六話

美しい変化
(5)

 支配人が足を止め、木の枝に蔦が絡まるフェンスのような形状のものに手をかけた。
「それはなに?」

 ――ガチャリ……。

 大きな金属音が響いた。
「エレベーターでございます」
 仮面の男は得意気に答えると、フェンスをガラガラと引いた。
「さぁさ、足元にお気をつけて」
 アケルがさっそく中へ入って中央を陣取る。私も後に続いた。エレベーターの中は、ピーチュピーチュと鳥の囀りで

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「ホテルエデン」第九話

「ホテルエデン」第九話

美しい変化
(8)

 でき上がった料理を三人で食堂まで運ぶ。
「チクワ!」
 アケルが切り株の椅子の上で飛び跳ねる。待ちきれないのだろう。
「それじゃあ食べようか?」
「食べる!」
 サラダに煮物、焼き物に炒め物。まさに竹輪祭り。こんなに素敵で幻想的な大広間の中央テーブルでアケルと竹輪料理を食べ始めていることがとてもおかしくて、内心くすりと笑ってしまう。
「ではわたくし、せめてものお詫びとして音

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「ホテルエデン」第十三話

「ホテルエデン」第十三話

「大切な想い出」
(2)

 コンコン。

 部屋をノックする音とともにケルビムが入ってくる。
「おはようございます! 北館からは外の景色や様子はわかりませんが、本日も快晴でしょう」
 第一声、やはりどことなくおかしな台詞だが、こんなやりとりにもすっかり慣れてしまった。
「……おはよう、ケルビム。あなたっていつでも元気なのね」
 隣では、アケルが口を開けたまま、まだ寝息を立てていた。
「さぁさ! 

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