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【短編】『宝の地図』

宝の地図


 僕は昼休みに校庭でクラスメイトと隠れんぼをしていた。すると大きな木の木陰に小動物が走り去るのを目にし、湧き出てくる好奇心から気づくとその後を追っていた。小動物は僕を案内するかの如く、途中で立ち止っては少し休憩をして裏庭の方まで走って行った。やっとのこと小動物に追いつくとどうやら地面を掘り返している様子で、ふとした途端に地面の中へ去っていってしまった。僕はすぐに位置を特定して栽培部のシャベルを取りに倉庫へ行き、再び裏庭に戻って穴を掘り返し始めた。しかし、掘り進めても一向に小動物は見つからなかった。すると、少し奥に分厚い木の板の端が顔を覗かせているのに気づき、それを拾い上げた。その板は思った他小さく、長年土に埋まっていたせいか少し黄ばんでいた。しばらくの間板を眺めていると、うっすらと「掘るな」という文字が書かれていることに気づき、なにか冒険の匂いを感じとった僕はさらに地面を掘り進めた。すると、奥にまたもや木の板が埋まっているのを発見し、丁寧にその板を引き上げると、表面に絵が描かれていた。中央に時計、右上には本、左下には大盛りのご飯、左上には野球ボール、右下にはお花、その隣は黒ずんでいて何かが描かれているかわからなかった。誰が何のためにこの絵を土に埋めたのか気になったが、何度その絵を見ても見当がつかなかった。僕は、その板を下駄箱に仕舞い、再び隠れんぼをしに校庭へと戻った。

 時が過ぎたある休日の朝、毎週のように見ているアニメ放送が始まると、島に着いた主人公が森の中へと迷い込み土の中から宝の地図の入った小瓶を見つけた。そして、僕はふとこの回はどこかで見たことがあると記憶を遡ったが、その回は最新の放送回なのである。野球の練習があったため、途中でアニメを中断して帰ってから録画を見ることにしグラウンドへと向かった。僕は車の中でどこか不思議な気持ちになりながら朝見たアニメのことを考えていると、ふと何日も前に拾った板のことを思い出し、ピンときたのだ。あの絵は実は宝の地図だったのかもしれない。生憎、休日で学校は閉まっているため、次の登校日に朝早く起きて学校へ向かうことにした。

 早朝、下駄箱から板を取り出して、再び絵を確認すると、すぐに学校の校舎の地図であることがわかった。中央にある時計は時計台を示しており、右上の本は図書室である。左下に描かれている大盛りのご飯は食堂で、左上の野球ボールは校庭、その下のお花は植物園であった。そして、それらを結ぶ線が道だとわかった。しかし、宝が埋まっている場所がどこにも見当たらず、とうとう業を煮やしてしまった。僕は諦めきれず、授業中本で頭を隠しながら考えた。そして、ふと休日に見たアニメの結末を思い出した。宝のありかは最初に主人公が降り立った島の入り口に隠されていたのだ。となると、小動物を見つけた大きな木のところに宝が隠されているはずだと推測し板を見返すと、なんと右の黒ずんだあたりに木の根っこの端の部分と、数枚の葉の絵が薄っすらと残っているのだった。

 僕はおおよそ見当がついた。昼休みにシャベルを手にし再び大きな木のところまで行った。日光が照りつける中、僕は宝を見つけたいという一心で土を掘り返した。そして、ついにシャベルが何か硬いものに当たった感触を得たのだ。それは金色で縁取られた花柄の四角い缶箱であった。すぐに箱を開いて中身を確認すると、バービー人形や、ウルトラマンの人形、少し傷の入った野球選手のカード、ハローキティのキーホルダー、ゴジラのミニチュアなどが入っていた。僕は即座に野球選手のカードを手に取った。カードにはイチローの写真が薄く写っており、裏には平仮名で「なおと」と書かれていた。

 宝を発見した僕は、教室に戻って皆に自慢しようと思ったが、友達に奪われるかもしれないという思いから、自分だけの秘密にしようと箱を元の土の中に戻すことにした。ただ、お気に入りのイチローの選手カードだけは家へと持ち帰り、自分の部屋の戸棚に飾った。

 帰宅し、しばらくイチローの選手カードを眺めていると、後ろに父親の姿があった。そして、一言も発することなく後ろからカードを眺めていた。父親は動揺した顔つきで僕に聞いた。

「それどこで拾ったの?」

「学校の校庭で見つけたんだ。宝なんだ。」

「少し見せてくれないか?」

とカードを手に取り裏返した。父親は少し涙をこぼして言った。

「大事に取っておきなさい。」

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