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勇人#2 「お前か、入社式に来なかった奴は!」

毎週日本時間水曜日担当、LA在住の勇人です。

前回の投稿で、インド卒業旅行で死にそうになって入社式に出れなかった話をしましたが、今回は入社してから犯した大失態のお話しです。

入社してから少し経ったあと、突然社長室に呼ばれた。

社長とは、一代で松田産業を小さな商店から東証一部上場、売上1000億企業に築き上げた実質的創業者で、一族の頂点に立つ松田グループ総帥のレジェンド、故松田洋御大である。

社長とはそれまで一度もお会いした事がなく、何事かと思いびびりながら社長室に入って行ったら、めちゃめちゃオーラのある、いかにも創業者らしい雰囲気を醸し出した、威圧感満々の社長が立っていた。そして、部屋に入るや否や、鋭い眼光で睨みつけられ、いきなり

「お前か、入社式に来なかった奴は!」

と、ドスの効いた声で喝を入れられた。
今思えば非常にありがたい話なのですが、当時はちびるかと思いました。

また、よせばいいのに、あまりにも動揺してしまったため、インド旅行や入院の話をして、必死に言い訳をする哀れな私。おそらく社長はその話を事前に知らされていて、私を試してたと思うのです、どう反応するのかを。とてもいじわるな社長…

そのあとの会話はよく覚えてませんが(人間あまりにも激しく動揺すると記憶が飛ぶらしい)、喝を入れられたあとは、普通にやさしく接していただいた事は覚えてます。

このように、入社していきなり社長の洗礼を受けたわけですが、英語が話せた事もあり、何かと社長に気にかけていただきました。よく社長室に呼ばれ、英語の質問をされたり、英文を朗読させられたりしました笑。

そんなこんなである日、社長がタイへ出張する事に。タイの王族と直接会って、ビジネスの話をするといった内容でした。商談は英語でやるから、という理由で私も通訳として同行させてもらうことに。

社長自ら海外へ出張に行くという事は、会社的にも大きな意味合いがありました。そんな出張への同行に対し私は緊張しつつも、とても楽しみでもありました。ちなみに、社員の多くは社長を怖がっていたようですが、私は社長と話すのが好きでした。社長室にたどり着くまでにいろんな部署を通るのですが、みんなから「呼び出されてしまって、かわいそう。。。頑張って!」みたいな目で見られるので、わざと緊張した面持ちで向かうのですが、実際は社長のオーラに触れて話を聞くのが好きだったので、内心はウキウキしてました。あと、社長に仕事の報告をする身分でもなかったので、怒られる事もなく、大抵呼び出されるのは英語に対する質問か、世間話だったので、特に緊張する理由もなかった所以です。

さて、話をタイ出張に戻すと、出張日前日にある問題に気付く。

パスポートが見当たらない。

そんなはずはないと家の中を探しまくったが、出てこず。あまりにもテンパった状態に落ちいってしまったため、頭が自然と現実逃避し、あ、そうだ、会社にあるじゃん!と勝手に都合の良いように信じ込み、夜中に会社に行って机の中を探すことに。しかしやはりない。また現実逃避し、あぁ、家にあるよね、やっぱ!と。家に戻ってももちろんないので、朝、奇跡的に家の机の上に現れることを願って、寝る。次の日の朝、机の上をチラ見するも、もちろんない。残念ながら、パスポートが見つからないというのはタチの悪い夢ではなく、現実の悪夢だった。

さて、どうしようかと思ったときに、とりあえず、「本当は寝坊してて、パスポートを無くしたというのはただの言い訳」と思われたくなかったので、荷物を全部スーツケースに入れ、待ち合わせ場所の新宿駅西口に行く。社長、社長秘書、経営企画室長でもある常務、その他取り巻きが少ししたら現れる。何事もなかったように待っている私。むしろ、早めに着いて待っている、偉い私、みたいな。まずは寝坊してないよアピールに成功。

集合時間はだいたいかなりいつも早めの会社だったのでしばらく時間を潰す。時間が経てば経つほど胃が痛くなる私。とうとう耐えられなくなり、こっそり社長秘書に

「すみません、パスポートないんですけど、言った方がいいですかね?」

と聞く。

秘書、青ざめる。

「。。。言った方が良いよ。。。!」

と。時間がさらに経つ。秘書も落ち着きがなく、私に向かって「そろそろ言った方が良いよ!」と懇願する目で見る。仕方がないので常務にとりあえず伝える。

常務、青ざめる。

で、結局、常務から社長に伝えることに。。。

肝心の社長の反応はというと…

めっちゃ笑ってました。

でも笑っているのは社長のみで、まわりは引き続き青ざめている。社長はエスカレーターから私の方を見て笑っているので、私も一瞬微笑み返すべきか迷ったが、いや、一緒に笑うのは失礼、ここは自分も反省しているアピールしないと!と思い、なぜか社長を睨み返す私。微笑む社長、睨み続ける私。。。

さて、それでも一応皆んな新幹線に乗って空港へ向かうのですが、その間常務が必死にいろんな所に電話をかけまくり、どうにか私を社長とタイまで同行させようとしているみたいでした。不可能を可能にしなきゃ!そんなプレッシャーを社員が感じてしまう、社長の存在感を目の当たりにしました。が、もちろんそんなことはできず、結果的に肩を落として社長がいるグリーン車までそのバッドニュースを伝えに行く常務。しばらくして戻ってきたので

「どうでした?」

と聞いたら、常務曰く、

社長に

「やっぱりダメでした。パスポートがないと出国できないようです。。。」

と伝えたら、

社長が一言

「当たり前だ。総理大臣じゃあるまいし」

と答えたそうです。

さすが社長!かっこよすぎる!言える身分ではありませんが。

まぁ、そんなこんなで結局社長との初出張はパスポート紛失事件で叶わなかったのですが、空港の待ち時間の時に社長が「三石、お前の名誉のために、このことは会社の人には誰にも言うなよ」とだけ言い残し、タイに行かれてしまった。

いやいやいやいや!本社の人は皆んな出張のこと知ってるし!社長と一緒に出張に行ってるはずの自分が、のこのこ次の日会社に現れたら絶対聞かれるって!でも社長の命令は絶対。次の日、何事もなかったように出社するが、人と会わないように非常口の階段を使ったりした。が、よりによって非常階段でばったり専務に会う。普通、そんな事ある?そもそもなんで専務が非常階段使ってるの?という疑問はさておき、

「あれ、どうしたの?社長と出張じゃないの?」

と当然聞かれ、「えぇ、まぁ、ははは」

と言って逃げようとしたのですが、当然そんなので逃げれるわけはなく、「なになに、どうしたの?」と再度聞かれるので、観念して伝える。そして、大笑いされる。

兎にも角にも、社長直々の命令だったので、社長が出張から戻るまではできるだけ社員に会わず、この秘密は私の名誉のために絶対に話すまいと、必死に頑張りました。不可能を可能にする!と意気込んで。社長が戻ったらなんとかごまかせるだろうと、それまでの辛抱だと、がんばりました。

そうこうしてるうちに、社長がようやく出張から戻ってきました。

あぁ、これで社長との約束が果たせる!と安堵していたら、当の社長は戻るなり、その話を面白おかしく、まわりにバラしてました。。。

良い土産話だったらしい。

社長。。。泣

ちなみにパスポートは結局見つからず、役所に紛失届けを出して再申請する事に。

今はどうか分かりませんが、当時はパスポートを紛失すると国に始末書を書かされて、申請書類と一緒に提出する必要がありました。もうパスポートは紛失しません、ごめんなさいと。

役所の窓口で始末書を提出する際によぎった疑問はただ一つ。

「誰が読むんだろう。。。?」

不思議な国、ニッポン。

(Vol 3へ続く)

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