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夏目ジウ 掌編・短編小説集

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これまでnoteに掲載した小説をまとめてみました。
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2023年10月の記事一覧

あなたがいなくても【掌編小説】

あなたがいなくても【掌編小説】

※文字数2,223字

 私にとってあなたは生きる神のようだった。生きる希望そのものとも言えた。思い出だから、いなくなって良かったのだ。もっと言うと最初からいなくてもそんなに影響はなかった。いや、急にいなくなったことを誤魔化す為に、私はあなたの存在を消そうとしていたのかもしれない。

 あなたとの出逢いは突然だった。
 小説投稿サイト「カクモヨムモ」に純文学小説を投稿した私に初めて「イイネ」マーク

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ぼくの白いおかあさん【掌編小説】

ぼくの白いおかあさん【掌編小説】

※2,622字数。
※本作品はフィクションです。

 小学校時代の親友だったタケシ君のママは美しい人だった。たしか23歳とかだったか。不思議と、鮮明に覚えている。目鼻や顔だちがはっきりした沖縄美人で、見た目は中学生くらいに見えた。小柄で、いつも白のエプロンを着ていた。僕にとっては初恋だった。
 母親がいないせいかもしれなかった。あんなキレイなママがいたら毎日楽しいだろうなとか、授業参観で自慢するだ

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離れない理由【短編小説】

離れない理由【短編小説】

※9,980字数

※本作品はフィクションです

 男と女が出逢った瞬間(とき)を忘れるのは、人が、或いは脳が前世を憶えていないのに似ている。これは、最近めっきり物忘れがひどくなった上戸文一朗(うえとぶんいちろう)が妻の時子(ときこ)から呆れ果てられるたびに吐く決まり文句だ。

 認知症でも無いのに、結婚記念日を毎年憶えていない自分は結婚というジャンルには分不相応だったのか? とフト思う文一朗は芸

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さようならタイムカプセル【掌編小説】

さようならタイムカプセル【掌編小説】

※4,496字数。

 卒業式を一週間後に控えた愛ノ川小学校には言い難い雰囲気があった。過疎化が進む愛ノ川市は数年前から一気に人口減少の一途をたどっていた。
 今月3月末をもって、廃校になるのだ。母校を失くすことは喪失感が限りなく深い。
 在校生のうち6年生は5人、5年生は4人、4年生は3人、3年生は2人、2年生は1人。そして、去年の新入生はいなかった。傷心にトドメを刺すように市のお偉いさんが閉鎖

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