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花冷えし夜の空気が指先を刺し、キーボードを打つ手もかじかむ午後11時頃、

「今から帰るよー。」とあなたから帰宅のメッセージが届く。

心なしか楽しそうな様子の声に、遠く離れたあなたを想い、

画面越しに、ほっこりとして頬を緩ませていた。


私は、あの人の声が大好きだった。

優しく穏やかで落ち着いたトーンは、いつどんな時に聞いても

日向で干したおふとんの上で昼寝をしているような、

そんな心地よさがあったからだ。

とても安心感があって、ふんわりとしたシールドで守られているような

そこはかとない雰囲気に、聞けば聴くほど、ますます虜になっていた。


とは言え、実のところ私はと言うと、自分の声は大嫌いで話すのも苦手で、

電話をするなんて言う行為は、

おしゃべり好きなイメージのある女性としては信じがたいかもしれないけれど、

動悸がしてしまうくらいに不安になってしまう行為で、

それが例え同性同士であったとしても、毎回震えながらコールする

そんな感じだった。


そんなわけだから、私はいつもあの人の声が聴きたいと思いつつも、

自分から電話するなんてことは出来なくて、

ほんとにバカバカしくて滑稽な話ではあるんだけど、

自分の中にある両極端の気持ちの板挟みになって、

人差し指をすっと出してコールする…それだけの行為がずっと出来ずにいた。


それなのに今日、始めて自分から電話した。


そうせずにはいられなかったのだ。


実は、さっきあんまり話すこともなく電波が悪くて切れてしまった通話。

今日こそは、ずっと言えなかった「大好き」を言おうと思っていた。

いつもモジモジして言えなくて、あなたに我慢させてしまっているのが

心苦しかったから。


「はぁ。。。今日も言えなかった…。」


いや、言おうと思っていたのに、切れてしまった。

そんな言い訳をしながらも、

でも自分からかける勇気なんて無くて、それから1時間が経過していた。


今日はもう寝落ちしちゃったのかな。。なんて思っていた時に、

もう一度メッセージが届いた。


「少しでも声が聞けて嬉しかった。ありがとう。」


たまらなく恋しくなった。

そんなことは出来ないと分かっていたけれど、

出来るものならあなたの元に今すぐ駆け寄って、抱きしめたいと思った。


震える人差し指を画面の上で構えつつも、

押そうか、やめようか、しばらく葛藤していた。

あなたはきっと喜んでくれる。

そうは分かっていても、私は臆病だった。


どれくらい時間がたっただろうか。。。

思い切って「えいっ」っと押してみた。

数回リングするコール音が、とてつもなく長く感じられて、

一度鳴るたびに、もう何度も切ってしまおうかと思った。


「もしもし…」


いつもの優しい声で鼓膜を刺激するあなたの声に、思わず胸がぎゅっとなって、

言葉に詰まってしまったけれど、

その日始めてずっと言えなかった「大好きだよ。」を言うことが出来た。


ちょっとだけ眠そうな声は、なんだかあなたが隣にいるような気がして、

届かぬ距離に切ない気持ちにもなったけど、

あなだが返してくれた「ぼくも大好きだよ。」という返事に胸が熱くなって、

思わず震えていた指先を包むように、ぐっと拳を握りしめた。


「おやすみ、またね。。。」


私は、ピロンっと通話を切る電子音がなる中、

まだドキドキしたままの心臓を抑え、天を仰ぎながら目をつむると、

耳の奥でリフレインするあなたの声の波にゆったりと浸りながら、

もう一度誰にも聞こえないくらいに小さな声で

「おやすみ、大好きだよ。」と唱えた。


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