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【創作小説】M美、思春期への突入

中学生時代

中学校に進学。

中学生というものは部活に必ず入らなくてはならないらしい。

母がやっていた地域のママさんバレーによくくっついてたので、馴染みのあるバレー部へ私は入部した。
母からは「アンタ、バレーボールってきついのよ。大丈夫?」と心配されたけど、お金もあまりかからないしボールに触るのは昔から好きだったから(犬みたいと姉に言われた事は忘れない)、大丈夫、と返事を返して部活生活がスタートした。

あまり運動は得意ではないけれど、ボールを追いかけるのが楽しくて楽しくて、部活メンバーと大会へ向けて情熱を注いでいた。
勿論体育会系なため、上下関係にとても厳しい世界で。
先輩の言うことは絶対だし、下っ端は雑務がたくさんあってボール拾いなんかも率先してやった。
それについて苦しかったり辛かったというのは感じなくて、陰で文句を言う友達を、まぁまぁ、と宥めることも少なくはなかった。
どちらかというと、主従関係みたいな世界は私にとって奉仕することで、ある種の快感を得られていたので、不満を感じることは1度もなかった。
だって、奉仕すればするだけ感謝されて、喜ばれて、役に立てている事が実感出来るって、気持ちの良いことでしょう?



部活中心の生活を送るようになって、朝練から始まり放課後の部活は夕方遅くまでボールを追いかける日々。
休みの日だって部活や練習試合に明け暮れていて、丸々何も無い日は月に3日あるくらい。

そんなバレー中心の生活では、動くのに邪魔だから肩まであった髪の毛はもっと短く切って、女の子らしさは殆どなかった。
そんな姿に特に抵抗もなく、なんだか女らしさを出すことが恥ずかしくて仕方なかったのだ。
スカートは1度も折ったこと無いし、ブリっ子なんて気持ち悪い。私にはそういうのは似合わないんだって、可愛い子の専売特許なんだって思い込んでいた。



そんな私にも中学2年生に上がり、夏の暑い時期に生まれて初めて彼氏が出来た。


彼氏の名前はK太。
父と同じ背の高さに目を惹かれたのが始まりだった。
とても優しくて、学級委員もやっていて、父とは違う包容力のあるK太。
K太なら、私を受け入れてくれるんじゃないかって、心のどこかで期待をしてて好きになっていった。


そんなK太に告白をしたのは私から。
告白までのやり取りが楽しくて、よくニヤニヤしながらK太に話しかけていたのを覚えてる。
教室で他愛もない話をしていて好きな人の話題になったか何かだったと思う。
私が「あのさ、K太って好きな人とかいるの?」ってベタな質問をなげかけて。
「えぇー、特にいないけど...。」ってK太が言うから、ワクワクドキドキしながらK太に体を寄せて「ふーん....。ね、私の好きな人教えてあげるよ!ヒント出すから、そこから正解してみてよー!」
なんて。
10代特有の茶化しながらのやり取りに、K太は意外にも「ヒントから?なにそれ、いいよ面白そうじゃん」とノリよく答えてくれて。

その日から2週間くらいかな、休み時間の合間にコッソリと「背が高い人」「運動部だよ」「このクラスの人」「優しくて包容力がある」なんて分かるんだか分からないんだかヒントを出し続ける遊びを楽しんでた。
K太も「E佑?それともT也?」なんて当てずっぽうに答えて楽しんでるのが良く分かって、当てて欲しい気持ちとまだ当てないで欲しい気持ちの狭間ですごく面白い時間を過ごした。

そしてある日、私はもう我慢出来なくてK太の耳にコッソリと「イニシャルはS.Kだよ」
なんてこのクラスに1人しかいないK太のイニシャルを伝える。
「え、S.K...?.....は、え、えぇーーー?!」
顔を赤くして動揺しているK太がなんだか可笑しくて可愛くて、クフクフと笑いながら「わかった?出来たら私その人の彼女になりたいんだけど、なれるかな?」なんて意地悪を言ってみたりして。
「なれるかなって......!!ちょっと待ってよー......!!」顔を手で覆って照れてるK太の姿にニヤニヤが止まらなくて楽しくてたまらない。
私は知っているのだ。
このやり取りをする前からK太が私に好意を抱いている事を。

私、負け戦はしないたちなので。

「ねぇねぇ、私の好きな人分かった?」K太の制服を突っついて催促してみると「....俺?」なんて指の間から私を覗きながら答えるK太に「うん、正解!彼女になれるかな?」ってニッコリ笑いかけてみる。
「.......はぁーーーー。もぅ、なんだよ。最初から俺って言ってくれたらいいじゃんか。」ようやく現れた顔を眺めながら「そんなの、つまんないじゃん」って言い放ってやる。
「つまんないって....。あーあーあーーー!!なーんで俺お前の事好きなんだろなー!!」と天井を仰いで喚くK太の制服の袖を握って「じゃぁ、今日から宜しくね」と先程までの威勢を隠し下を向いて小さく伝える。
「...うん。よろしく」というK太の視線をつむじに感じながら、この告白劇は終わった。

実は緊張で鼓動が早鐘みたいに鳴っていた事も、手や背中にじんわりと汗が滲んでいた事も、K太に分からないように誤魔化していたなんて、もう一生伝える事はないんだろな。



..............次回。

高校生へ、そして新しい世界の幕開け。


お楽しみに。



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