見出し画像

藤森かよこ 『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに 愛をこめて書いたので読んでください』 : 戦場に立つ 〈武器持たぬ戦士〉として覚悟せよ

書評:藤森かよこ『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください』(ベストセラーズ)

簡単に言えば、人に秀でた美点を持たない普通の女性が「いかに生くべきか」を語った、女性向けの人生指南書だと言えるだろう。

当然のことながら、こうした本を、自分が「馬鹿ブス貧乏」だと思っていない女性は、ほとんど読まないだろうし、まして男性が読むことはないだろうが、一一私はその男性読者である。

男性が読まないことを想定した本に、どのようなことが書かれているのか。また、男性読者を想定していないからこそ、男性が読んで参考になることも忌憚なく書かれているのではないか。
言うなれば、「己を知る」ための読書も必要だが、しかし「敵を知る」ための読書も有益であり、そこまで押さえれば「百戦危うからず」なのではないかと考えて、まあ、興味本位ではあれ読んでみたのである(べつに女性を敵視しているわけではないのだが、異質な存在だとは思っているのだ)。

結論から言えば、本書は、ほぼ真っ当かつ常識的な、普通の女性のための人生指南書である。当然、男性の役にも立つ内容だ。本書の肝は、やはり「幻想を持たずに、地に足をつけて生きて行け」ということだからだ。

こうしたタイトルの本を読む女性は、当然のことながら、自分を「馬鹿ブス貧乏」の部類だと「謙虚な自己認識」を持っており、それゆえに堅実な生き方が必要だと思えばこそ、ほとんどの場合は、本書の大胆なタイトルに共感を持って、本書を手にしたはずである。

しかし、人間というものは「私(俺)って所詮は、馬鹿ブス貧乏なんだよね」と思っていても、その奥には「そのことを自覚できている私は非凡だ」と思いがちである。と言うか、そう思うのが当たり前で、そんなふうに思えない人は、人生に絶望して、生きてはいられないだろう。
だから、「自分を馬鹿だと自覚している私は、本質的には賢い」という自負を持っていてもかまない。それは当然のことだからなのだけれど、しかし、そうした「当然の自負」ゆえに、自己認識が甘くなってしまい、その隙を他者に乗ぜられてしまうこともまたあるのだ。

だから本書は、単に「私(俺)って所詮は、馬鹿ブス貧乏なんだよね」でも「そのことを自覚できている私は非凡だ」で終わってしまうのではなく、「馬鹿ブス貧乏」だと真に自覚しているのであれば、問題はそんな「自覚」などではなく、その自覚に沿って「具体的にどう生きるのか、どう行動するか」であり、それを示したのが本書だ、ということになるわけなのだ。

画像1

したがって、本書は徹底的に具体的であり、あれをやりなさいこれをやりなさい、これはやらなくていい、あれはやっちゃダメと、うるさいくらいに助言してくれるが、それをうるさがる必要はない。
そうした個々の助言を、実際に採用するか否かは、結局は読者個々が決めればいいことなので、あくまでも本書の有意義性は、うるさいくらいに「あなたは馬鹿ブス貧乏なんだから、それを忘れて観念的になっちゃダメだ。現実離れした夢を見てちゃダメだ」と言ってくれる点にあるのである。

だが、一部の読者は、いくら著者が、自分も「馬鹿ブス貧乏」だからこそ、同類に「愛を込めて」助言するのだと言っても、「所詮はあなたも大学で先生やってた人で、私らとは違う。だからこそ、なんだかんだ言って、私たちを見下して、上から目線で説教してるだけだ」などと批判しているのだけれども、問題は、著者の「真意」ではない。
著者が、本当は「馬鹿ブス貧乏」ではなく「賢くて美人で金持ち」であったとしても、本音では読者を見下していたとしても、読者に対して「あなたは馬鹿ブス貧乏なんだから、それを忘れるな」なんてことを言ってくれる本など滅多にないのだから、そこを有り難く利用すればいいだけの話なのだ。

利口ぶって著者を批判したところで、その読者が「馬鹿ブス貧乏」である事実は寸毫も変わらないし、面白みのカケラも無い、被害者意識だけを盾にしたレビューなど書いても、誰もその人を高く評価してなどくれないということを、そうした人は自覚すべきなのである。

もっとも、そうした人は、そう自覚する能力もないほど馬鹿であり、そうした馬鹿は、本書著者だけではなく、誰によっても「救い難い」のではあろうが、馬鹿に説教をするのも、それはそれで愛ゆえなのだ。

初出:2021年6月10日「Amazonレビュー」
  (2021年10月15日、管理者により削除)
再録:2021年6月18日「アレクセイの花園」
  (2022年8月1日、閉鎖により閲覧不能)

 ○ ○ ○











 ○ ○ ○



 ○ ○ ○



 ○ ○ ○



この記事が参加している募集

読書感想文