ゆくりかみこの傲慢グルメ
1食目
捻じ伏せたくてよ!~ごめんあそばせ~
カツカツカツッ!
ヒールの音を鳴らして歩く私(わたくし)。
カツカツ歩くのって出来る女って感じじゃなくて?
そう、私できる女《揄久利 噛子》ゆくり かみこ
結婚なんて意識の欠片もしていない独身よ。むしろ結婚してるからなんだっていうの?独身の何が負けだって言うのかしら?独身のおかげで私は好きなブランドおシャネルも買い放題だし、そもそも、、
おっと、自己紹介は終わりよ。着いたわ!
勝手に心の中で自己紹介を済ませた女、揄久利 噛子は、勢いよく鳴らし歩いていたヒールを止めた。
目の前にあるのは大衆食堂、という表現が一番しっくりくるだろうか。
狭めな店内は中年サラリーマンのランチで賑わっている。
「今日のターゲットはこの店よ!」
腰に手を当て、噛子は不敵な笑みを浮かべた。
この店に、全身ハイブランドシャネル女、噛子は迷わず、カツカツとヒールを鳴らし中へ。
「いらっしゃいませ!」
中へ入ると愛想のいい店員さんが出迎えてくれる。
店内は基本相席。
噛子は案内された席に座り、スマホしか入らないのでは?というような小さいシャネルのバッグと大きなシャネルの紙袋を足元に置いた。
狭くて置き場所がないとはいえ、床に何の躊躇いもなくシャネルのバッグを置くとは、見た目に反してガサツさが窺える。
噛子は店内をじっとり見回した後、メニューを見た。
「な、なんてこと!!」
衝撃とばかりに噛子は口元を手で覆った。
「はっ!」
いけない、私としたことが!声を出しちゃったわ!
だってしょうがないわ、どれも1000円以下なんて、あり得ないでしょ!
このご時世でこの立地で、このお店、おかしいわ!従業員の給料を払ってないか、よほど料理をケチっているのか。
いいわ、私が見極めようじゃないの!
そう、この女 揄久利 噛子 は毎日のように外食してはそこのお店の手厚いサービスに何か裏があると見て食事をし、いつか暴いて店を捻じ伏せて弱みを握り、永久無料にしてもらう欲に駆られまくっている血迷った人間であった。
この噛子の勘違い妄想で捻じ伏せられた店はもちろんゼロ。
今日も噛子の茶番ランチ、曰く、傲慢ランチのゴングが鳴る。
「う~~~ん、、」
メニューを見てからの噛子の表情がずっと険しく、眉間とおでこに皺が寄る。噛子はメニューを見ながらおでこの皺を伸ばそうと人差し指で皮膚を引っ張る。引っ張りながらメニューとにらめっこ状態だ。
オムライスにカレーにトンカツに、、、、。
何なの、これ。全部食べたいに決まってるじゃない!
こんなメニューを提案して私を困らすなんていい度胸してるわこの店!
どうしたらいいて言うの、究極にまよ、、、、!
噛子の瞳に一筋の光が宿った。
これよ!これこそこの世の全てよ!
噛子はシュバっと手を挙げ、店員さんを呼ぶ。
「すみません、これでお願いします」
「かしこまりましたー!」
偉そうに注文するかと思いきや、店員さんには下から姿勢だ。
どんなものが来るか楽しみね。
さぞかし貧相な料理なんでしょうけど。
腕を組み、足を組み。
見た目だけは上から目線スタイルで噛子は料理を待った。
「お待たせしましたー!」
「っ!」
待ってないわ、早すぎる!なんてこと、さぞかし手抜きな料理を、、
「!!!」
手が!抜かれてない、、なんて!!!
目の前に置かれたオムカツカレーを凝視する噛子。
結局どれも食べたくて、ちょうどよく全て合わさったメニューを頼んだ。
これが、1000以下?!そんなことって、、。
眉間とおでこに皺を寄せ、噛子は無意識にスプーンを持つ。
ついでにおでこの皺も伸ばす。
一口、ぱくっ。
ではなくて。
ガツガツガツっ!!!
マンガではこういう効果音が書かれているだろうという程、
噛子は品無く一心不乱に食べ始めた。
回りの中年サラリーマンが引いている。
どういうこと?!
どういうことなのよ!!
なんで、なんでこんな美味しいのよ!!!!
あり得ないわ、このコストパフォーマンスでこの量と味!
何よ、何なのよこの真っ黒なカレーは!癖がないのにスパイシーよ!
オムライスなんてしっかり焼かれた薄い卵に中はドライカレーで炒めたライス!カレーを邪魔しないなんて!
、、、っ見つけたわ!
噛子の口端が吊り上がる。
このトンカツ。薄いわ!そう、薄い!これがケチった安さの秘密ね!!
正体見破ったり!
勝った!とばかりに噛子はトンカツとカレーオムライスを一緒に口に運んだ。
その瞬間、噛子は目を見開き、雷に打たれたような衝撃が走った。
な、なんてこと、、!!!
このカツ、まさか、、、合う!この薄さがベストマッチよ!!!!
ボリューム満点のオムカツカレー。
オムライスにカレー、そして分厚いトンカツだと、せっかく三種を一緒に食べれても口の中はカツを噛むので手一杯。いや口一杯。
しかし、敢えてカツを薄くすることで口の中は三種の味をしっかりと解き解すことができる。
これは正に、
計算!!!
ここにきて、この超お得ランチに計算隠をしていたなんて!!!!
この間も噛子のスプーンを持つ手は止まらない。
完敗よ。
私の負けよ。
認めるわ。
この超お得ランチに嘘偽りはないと。
あっという間に空になった皿を置き、味噌汁を片手にズズッと啜る。
ガツガツと豪快に食べていただけに、口回りが汚れている。
噛子は地べたに置いてあったシャネルの紙袋からハンカチを出した。
グイっと口回りをそのハンカチで拭う。
ハンカチはぶりぶりざえもんだった。
噛子は立ち上がり、お会計に向かう。
「980円になります」
完敗よ。
何も裏なんてなかったわ。
ご馳走様。
噛子の心の声が視線で訴える。
店員さんがその視線に気づき口を開いた。
「あのー、980円です」
「あ、すみませんすみません!980円ですね、すぐ出します!」
言葉にしなければ伝わるはずもなく。
噛子はシャネルの紙袋からパンパンに太った長財布を取り出す。
グチャグチャのレシートで太った財布だった。
お会計を済ませ、またシャネルの紙袋に戻す、というより落とす。
どんっ。
鈍い音ともに噛子は店を出た。
「悪くなかったわ!また来てあげてもいいけど、、ゲッっぷ」
カツカツカツッ!
ヒールの音を鳴らし、少し出っ張ったお腹をさすりながら、揄久利 噛子は町に消えていったーーーーーーーではなく、駅を目指し、電車に乗ったのだった。
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