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「ビールはインスタ映えさえすれば買う」な若者はビールを理解しているのか

タイトルを見た瞬間に直感で購入した本。
原田曜平著、「それ、なんで流行ってるの?隠れたニーズを見つけるインサイト思考」

「ブラック企業」「爆買い」といった言葉も「流行っているから」で終わらせず、「なぜ流行り、社会に定着することができたのか」を分析・言語化している。またそういったワードについても「ひらめいたから」ではなくその言葉が生まれるまでにどのようなリサーチを積んできたのかまで記されている。

私が言いたかったの、ずっと思ってたの、その言葉! という言葉が生まれ世に広まるまでの過程は丁寧に本の中で説明されているが、その中でも現代の若者のSNS利用を活かしたマーケティングの重要性についてビールを例にした説明にため息が出るほど納得した。

ビールが嫌いでも映えるならお金を払う若者

最近の若者のビール離れが叫ばれ、企業はのどごしや飲み会での一杯目に飲む爽快さがどうすれば伝わるかと悩んでいる。
しかし著者は問題はそこではないと言う。

若者の中にはビールが苦手が人が増えています。理由のひとつは、単純に「苦い」から。… 彼らが求めているのはズバリ、「インスタ映え」するビールの写真。ビールフェスで提供される見た目に派手でオシャレなジョッキ、リア充を気取れる非日常な雰囲気は、「ビールは苦いから苦手」を楽に乗り越えるのです。

原田曜平「それ、なんで流行ってるの?隠れたニーズを見つけるインサイト思考」

若者がビールを買うには、映えなければいけないのだ。
究極、映えれば美味しくなくても若者は買うのだと。

煌びやかな生活を写真や動画に切り取ってSNSに掲載する。そこに反応をもらうことで手っ取り早く承認欲求を満たすことができる。

そこで私はふと2つの点を考えた。
「映え」を中心とした生活をすることで、

①商品やサービスの「本質」に興味がない人が増えていくのではないか
②それとも見た目の話題性からその物へ興味関心を持ち、深掘りするきっかけとなるハードルは下がってきているのだろうか

①商品やサービスの「本質」に興味がない人が増えていくのではないか


「本質」は辞書で「そのものとして欠くことができない、最も大事な根本の性質・要素。」と定義されている。本質の対義語は「現象」であり、「事物の表面に現れた感覚で捉えることのできる外観的な側面」だそう。

ビールに当てはめると
本質:味、発酵技術、原材料など
現象:泡が出ている様子、色、グラス、ビールが提供される場所の雰囲気など

ビールの製造方法に応じた種類や味について語りたい人は話題性だけを意識した見た目重視のビールを追いかける人のことをどう感じているのだろう。

見た目を重視する人は「現象」を重視する人であると言い換えることができ、それは「本質」を大切にしている人とは相反することになる。

面白い形のグラス、欧米のラベルが貼られたビン、高級感溢れる落ち着いた雰囲気の店内... どれもがビールの本質を決めるわけではなく、「ビールを飲んでいる自分」を思い通りに演出してくれる舞台セットなのだ。

「本質」を追い求める人は、「現象」を大事にする若者について話題性に敏感で情報を常にチェックする意欲に関心しつつもどこかで「あの人はビールのことを何も知らない」と思っていたりするのだろうか。

②それとも見た目の話題性からその物へ興味関心を持ち、深掘りするきっかけとなるハードルは下がってきているのだろうか

「ビールは苦いから」と店頭で商品を見ることも注文して飲むこともなかった人からすると、味目的ではなくても「見た目の良いビールをSNSにあげて注目を得たい欲求」によって「手にとってみる」ハードルは格段に下がる。そこからビールとの付き合い方は枝分かれしていく気がする。

例えば
1)より「映える」ビールを追い求める人
2)ビールの歴史の興味を持つ人
3)製造方法やその過程で起こる化学変化に興味を持つ人
4)ビール産業/業界に興味を持つ人

ビールの苦味に抵抗を覚えるが映える写真を撮りたい若者は多くが(1)へ流れるかもしれないが、(2)や(3)、(4)へと興味が出てくる人も一定数いるではないだろうか。

しかしそのスイッチがどこで誰にいつ入るのかはわからない。

・学生時代のカンボジアのボランティア体験がきっかけで貧困について興味を持つ人
・ある日本屋で手にとった本の著者に影響を受けてその人の会社へ入社する人
・陶芸体験で作ったお茶碗がきっかけで自分の作品を販売し始める人


ターニングポイントとなる出来事は振り返るとわかるのであって、そこを目指して真っ直ぐに生きていくことは難しいなあと今まで生きてきて感じる。

「ビールを映えさせる」というマーケティングは若者がビールを手にとるきっかけに大きく貢献している。それは同じビールでもラベルや提供方法を変える前後の売り上げを比べるとわかるが、では「映えるビール」をきっかけにしてビールの本質へ興味を持ち行動を起こした若者はどれくらいいるのかも気になる。

これはビールに関してだけではなく、パンやコーヒーといった飲食物から後継者不足で悩む伝統産業など色々なものについても当てはまるだろう。

映えたものへ魅了された人が向かう先、まずは私も苦いビールを飲むことから始めよう。

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