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「魔法の青いグラス」

グラスを見ると思い出す
おばあちゃんとの思い出がある。


私の祖母は今年で97歳になる。
100近いではないか。すごい。
今は離れて暮らしているが、私が実家を出るまでは
ずっと一緒に住んでいた。

私はおばあちゃん子。
おばあちゃんには色んなことをしてもらった。

そんなおばあちゃん、現在はいわゆる認知症。
私のことは今はまだ忘れていないが、直に忘れる日がくるだろう。
離れて暮らしている分、特にそれはしょうがいないことだと思っている。
でもおばあちゃんが幸せなら、何でもいいのだ。

私のおばあちゃん。
すごく世話好きだった。
その世話好きなおばあちゃんとの思い出の一つが
「青いグラス」

もう随分前のこと。十年近く経つだろうか。
私は実家に帰るため、新幹線に乗っていた。
季節は夏。
外の気温はものすごいことになっていたが
新幹線なので、まぁ快適ってやつです。
新幹線を下りてから家路まではまだまだ大分距離がある。
その日は新幹線の駅まで、母が車で迎えに来てくれることになっていた。

新幹線を下りると、少し遠めの階段の方から
母がこちらに向かって手を振っている。
「あぁ、本当に帰ってきたんだなぁ。」
それを見て既に安心している自分がいる。
そして落ち合うと、その安心はさらに私の心を満たしていく。

その少し後に、もっと満たされることになるわけなのだが。


駐車場へと向かうと、車の中に人影があった。
「あっ、おばあちゃんがいるっ。」
車のドアを開けるとおばあちゃんがにっこりしていた。
「よく帰ってきたなぁ~」
ぺたぺたと顔を撫でて、私という存在を確認している。
そしておばあちゃんの隣に乗り込むと
暑かっただろうにと、何やらごそごそしだした。

「ほれ。」
突然、よく冷えたペットボトルのお茶を出した。
喉が渇いていたので、ありがとうと言って飲もうとすると
ほい、と言ってさらに渡してきたのは
「青いグラス」だった。

「え?」
よく見るとそれは、実家で使っているいつものグラス。
私は「何でこれを?」と不思議だった。
ペットボトルに口を付ければ、飲むのに特に問題はない。
けれどおばあちゃんはよく冷えた青いグラスをくれた。
「これに入れて飲めば美味しいよ~」
私はその差し出された青いグラスにトクトクとお茶をつぎ
ゴクゴクと飲んだ。それはもう一気に飲んだ。

「あぁ~美味しいっ。」
ちょっとばかし叫んだ。
嘘ではなく、本当に本当に
美味しかったから。

夏の暑い日とはいえ、新幹線は冷房が効いている。
だから汗なんか全然かいていない。
喉は渇いているが、それも少しだけ。
こんな状況で、なぜあんなに叫ぶほどお茶が美味しかったのか。

それはおばあちゃんが用意してくれた
「青いグラス」が、そうしてくれたのだと思う。

そ。これは「魔法の青いグラス」だ。

冷えたグラスで冷た~いお茶を飲む。
私にも魔法がかかり、ゴクゴクと美味しくいただく。
私を見てにっこり微笑むおばあちゃん。
もぅ。可愛いんだから…。

おばあちゃんは、私が暑い暑いと言って帰ってくると思った。
そこで冷やしたグラスを持って行き
車の中で涼しくしてあげようと思ったわけだ。
しかもペットボトルで直接飲むんじゃなくて
冷たいグラスに注いで飲ませてあげようと考えてくれた。
その方が美味しいのではないかと、おばあちゃんなりに考え
私を気遣ってくれた。
そしてそれを、直接自分で渡したかったのだろう。
いつもなら家で待っているはずのおばあちゃん。
それを渡す為に、わざわざ二時間近くもかけ一緒に乗ってきてくれた。
すごいな、気合。
さすがです。おばあちゃん。

お茶は、駅の近くで母が直前に冷たいのを買ってくれたみたいです。
ペットボトルでそのまま飲むことを想定。そりゃそうです。
けどおばあちゃんは、家からグラスを持参。
しかもグラスを冷やす為に保冷剤も自分で用意。
母も全く知らなかったらしい。
そのグラスは、自分のハンカチに包んで持って来てくれた。
お陰でおばちゃんのハンカチは着くころにはびしょ濡れ。
それをものともしないおばあちゃん。
私が、この方が美味しく飲めると思ったんだって。

私のことを色々と考えてくれたことが
本当に本当に嬉しかった。

これがほんとの
優しさってやつかぁ。


あの冷えた青いグラスが
今でも
忘れられない。



ではまた。





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