奈月

都内でOLをしたりSMの女王様をやったりしてます

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最近の記事

チーズ

フランスに住んでいる時は毎日悪夢を見ていた。夢日記をつけていたが、沈没船に閉じ込められる夢とか、子供が1人ずつ燃やされる夢とか、オーソドックスにゾンビに追いかけられる夢とか、とにかく散々だった。 内なるストレスの露呈だったのかもしれないが、私としては、これはチーズのせいじゃないかと睨んでいる。 フランスに行く少し前に、なんかのチーズの食べ過ぎが悪夢を誘発するという眉唾物の記事を読んだのだ。アメリカではその情報を逆手にとって悪夢を見れるチーズバーガーなんてのを売っていたらしい

    • 勇者も魔王も、村人も

      後楽園に行くといつも号泣した日のことを思い出す。ずごご…という凄まじいジェットコースターの音が常に響くスパラクーアへ、12歳からの友人3人で行った日のこと。 カップル利用が多いスパゾーンで3人でガハハと笑いながらアイスを食べたり、色んな種類の温泉にちょっとずつ浸かったり、サウナの我慢大会をしたり。恋愛や仕事の話をかしましくし続け、みんなで逞しく稼ぎましょうとか、幸せになりまくろうなとか言い合って、本当に楽しい日だった。 学生時代の話もした。中高一貫校で、あらゆる黒歴史を共

      • 自分とデート!

        昔から予定を詰めすぎる。 人からの誘いを基本的に断らないし、仕事も隙があればねじ込むし、予定をテトリスしまくるため自分で自分を忙しくさせてしまう。その結果へろへろになっているのでちょこっと愚かかもしれない。 今日は本当に久しぶりに「予定のない金曜の夜」だった。朝起きて、それに気付き、ウキウキ。そうだ、今日は自分とデートをしよう、と身支度をしながら思いつき、更にウキウキ。 自分は気に入っているけど人と会う時は似合わないかもと思った服とか、普段使わないピンクのアイシャドウとか、

        • ゆるゆるし

          「許し」という概念がまったくない家で育ったので、この歳まで人のことをどう許していいのか分からないまま生きてきてしまったという自覚がある。 基本的に私の実家では罪の先にあるものは「報復」だった。親と対立すると、今最も大事にしているものは何か?と聞かれ、答えるとそれを目の前で破壊するという儀式がしばしば行われていた。 旅行先で買った小さなオカリナ、初めて好きになったゲームのソフト、大事に育てたたまごっち、一緒に寝ていた犬のぬいぐるみ……完膚なきまでに壊し終わった頃に、ようやく私は

          感動という傷

          初対面の人に何が好きなの?と聞かれる。映画鑑賞や読書ですね、と退屈極まりない返答をすると、おすすめの作品は?とか、心に残った作品は?とかまた聞かれる。お決まりの会話セットだ。その時に答える作品名はまちまちで、基本的には相手がある程度興味を持ちそうなものを選んで答える。無邪気に自分が本当に好きな作品を答えることは滅多にない。 色々なジャンルの創作物を見てきたが、感動した作品というのは実は少ないように思う。「感動」というと何となく手放しに称揚できるもののことを指すイメージがある

          感動という傷

          Yさんのこと

          この世で最も信頼できるタイプの人間を私は既に確信している。これは、「自分が他者から大きく傷つけられたことがあるのに他者を助けられる人」だ。間違いない。これは絶対絶対絶対である。 人生で一番落ち込んでいた時にお世話になったカウンセラーさんがいる。Yさんはお母さんと呼ぶには私に近く、お姉さんと呼ぶには私から遠い、絶妙な距離感で接してくれる人だった。毎週1時間の面談で、簡単に体調について尋ねた後は、私のバイト先での話や恋人との話に付き合って相槌を打ってくれる。私の出すどの話題に対

          Yさんのこと

          最悪の恋人

          先生への淡い恋心を捨てきれなかったこともあってか、東京にきてからできた恋人もやはり同性だった。年下のやたら気の強い子で、何度目かのデートの別れ際に「好きなの分かりますよね?なんで付き合おうって言ってくれないんですか!」と怒られたことに面食らい、付き合うことになった。 記憶の中の彼女は割と私に対してキレている。なんでもっと構ってくれないの、とか、もっとちゃんと話聞いてよとか。今となってはもう本当に彼女の言う通りで、私の態度はかなり不誠実だったように思う。言い訳にもならないが、

          最悪の恋人

          実家とハシビロコウ

          一年ぶりに実家に帰ったら、両親が何故かハシビロコウに夢中になっていた。有害な陰謀論や思想に夢中になるよりはよっぽど良いが、私としてはいまいちその良さが分からない。 リビングにはハシビロコウのフィギュアやグッズ、雑誌が飾られており、テレビを見ようとすると必ず仏頂面のデカい鳥に睨まれる仕様になっていた。 「ハシビロコウは日本に12羽しかいないんだよ」 「違う、10羽だろ。日本にはハシビロコウは10羽しかいなくて」 「違う違う、12羽。なっちゃんハシビロコウの雑誌取って、そこに

          実家とハシビロコウ

          図書館って妙に寝やすい

          図書館という場所がいつも好きだった。夥しい数の本を眺めていると単純に心が躍るし、無料で利用させてもらえることに感謝しかない施設。 大学生になって一番感動したのは、大学図書館の蔵書数の多さだった。視聴覚室もあり、無料で古い映画を観ることができるのが嬉しくて空きコマに足繁く通っていた。 特に好きだったのは地下書庫。入室の手続きをして長い階段をぐるぐると降りた先にある書庫はまるでトルコの地下宮殿のように広く静謐とした空気に満ちている。沈黙を割らないように足を忍ばせて、私の背丈の倍

          図書館って妙に寝やすい

          やたら魅力的なサンドイッチ

          ありえないくらい面白くない映画を映画館で見た時のことのほうが案外覚えていたりする。映画の内容というよりは、その上映中に何が起きたのか。 某映画館にて、ニコールキッドマンが出てるからという理由で見始めたその作品は結論から言うと絶望的につまらなかった。 映画が始まって1時間ほど経ち、もうここから面白くなることはないだろう…と思い始めた頃、斜め前に座っていたおじさんがおもむろに巨大なサンドイッチを紙袋から取り出して人目も気にせずむしゃむしゃと食べ始めた。ついでに、壁際のコンセント

          やたら魅力的なサンドイッチ

          ソファで車窓の夢を見る

          寝心地が悪いところで寝るのが好きなんですよ、と言うと大体は「は?」と返される。もちろん寝心地は良い方がいいに決まっているのだが、硬い床や座席のような、ベッド以外の場所で寝るのが私にとってはほとんど苦にならない。 実際、今は小さなソファに薄い敷布団を敷いて簡易な寝床としているが精神的に全く問題はない。身体的には流石にかなり負荷がかかっているのを感じるが、それはそれで悪くないと思っている。(女王様をやっているけど、自分自身に対するマゾヒズムをしばしば感じる。) 申し訳程度のク

          ソファで車窓の夢を見る

          あきらめ

          もう時効なので書くが、上京してから最初に好きになった人は同性だった。大学の文化人類学の講義で登壇していたその教授は淡々と「動物として、女性の出産適齢期は今のあなた方ほどの年齢かと思います。子供を持つことを少しでも考えるなら、16〜18歳のうちに出産をし、その後大学や社会に参画できるような社会が理想と私は考えます。今すぐ子作りを始めるべきと、皆さんに対しては思っています」と、新一年生たちを見もせずに言い放った。高校を卒業したばかりの小娘らは突然出産の話を突きつけられてざわついて

          あきらめ

          心にいるミミズ

          虫は苦手だがなぜか昔からミミズにだけは触れる。普通にビジュアルは気持ち悪いなとは思うのだが、真夏にアスファルトの上をのたうち回っている様子を見ると哀れで仕方なくなってしまいつまみ上げて土の方へと戻してやることもしばしばある。 嫌悪感が他の虫に比べて少ないのは、益虫としての側面が強いことを知っているからかもしれない。土壌改良の一環として農地でミミズが利用されることを小学生の芋掘り体験の時に教えてもらってから、何となく良いものというイメージがある。羽がないのも良いと思う。羽があ

          心にいるミミズ

          本をもらう

          最近は本をよく人からもらう。私が本の虫であることを知っている人がこれはおすすめですよ、と私の好きそうなものを贈ってくれたり、私自身が本を寄越せとねだったり経緯はさまざまである。 贈り物の類は何でも心から嬉しいものだが、私は一際本のプレゼントには愛情めいたものを感じる。 自室の本棚に並ぶ本たち、これらは自分の内臓のようなものなのであまり他人と共有したいとは思えないのだが、本を贈ってくれる人々は私の誰にも見せない部分に柔らかく切り込んで自然に寄り添うかたちでそこに居座る。その慎

          本をもらう

          日記−(8/27〜29)

          2023年8月27日 雨が降り出しそうで降らない、穏やかで薄暗く涼しい一日だった。祭りの残骸を見物しに夜な夜な街を歩く。酒を飲んで開放的になった人たちが肩を組んで笑い合っていた。昼の喧騒に揉まれるよりも、夜に名残を感じるくらいが今年の気持ちには合っているのかもしれない。 たこ焼き居酒屋に入ると、もう祭りで全部売れちゃってたこ焼きしか出せるものないんですと言われる。たこ焼きしか食べたくなかったので好都合だった。飲むつもりはなかったけど、一杯だけ生ビールを頼んでしまった。病み

          日記−(8/27〜29)

          日記(8/21〜26)

          2023年8月21日 盆休み明け。久々の仕事。情緒の死。 知り合いの赤ちゃんの動画が送られてきた。以前はあ〜とかう〜とかママ〜くらいしか言っていなかった子だが、今日の動画内でははっきりと「はずかちい!」と意思を言語化していて驚いた。確かに振り返ると、恥ずかしいという感情は大分人生の初期からあるもののような気もする。アダムとイブが林檎を食べて羞恥を知ることで楽園を追放されたという聖書の一節にもある通り、この「はずかちい」は自我の興り、人間のはじまりと言っても過言ではない大事な

          日記(8/21〜26)