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ソファで車窓の夢を見る

寝心地が悪いところで寝るのが好きなんですよ、と言うと大体は「は?」と返される。もちろん寝心地は良い方がいいに決まっているのだが、硬い床や座席のような、ベッド以外の場所で寝るのが私にとってはほとんど苦にならない。

実際、今は小さなソファに薄い敷布団を敷いて簡易な寝床としているが精神的に全く問題はない。身体的には流石にかなり負荷がかかっているのを感じるが、それはそれで悪くないと思っている。(女王様をやっているけど、自分自身に対するマゾヒズムをしばしば感じる。)

申し訳程度のクッションの中で身体を小さく折り曲げて、雑に置いた枕の上で首の骨が軋むのを聞く。安眠のためのベストポジションを求めて何度も身体を伸ばす、折り畳む、を繰り返してみて、ようやく丁度いいところが見つかる頃、眠気に身を任せる用意も出来ている。

寝心地の悪さは私にいつも旅を思い出させてくれるから好きだ。お金がない学生だった頃、旅行はできる限り安価な陸路を選んでいた。夜行電車のボックス席で他の客の足を踏まないように縮こまってみたり、悪路を進むバスの中で吐き気を堪えたり、いつも眠ることもままならずただぼんやりと車窓を眺めていると見たことがない景色が、たまにトンネルに断絶されながら、夢のように映っては変わっていく。全身の痛みと不眠と引き換えに長く座席で過ごした時間は何故かきらめいている。

やっぱりそういう変態なのかも、と自分で思う一方で、バカみたいに硬い寝床で見た夢を見ていたいと今は思っているだけで、ふかふかの美しいベッドが嫌いだという訳ではない、という確信もある。自分が起きているのか、眠っているのかも分からないくらいの苦しみはまだまだ得たくて、移り変わる車窓の景色に憧れ続けることも多分しばらくやめられない。

でもさ、やっぱベッドで寝た方がいいよ、体に悪いし。と言われてしまえば、本当にその通りなのだ。現に今も、首を何度も回しながらこの文を書いている。強めに横に捻ってみると、べキリ、と即死のような音がする……。

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