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最悪の恋人

先生への淡い恋心を捨てきれなかったこともあってか、東京にきてからできた恋人もやはり同性だった。年下のやたら気の強い子で、何度目かのデートの別れ際に「好きなの分かりますよね?なんで付き合おうって言ってくれないんですか!」と怒られたことに面食らい、付き合うことになった。

記憶の中の彼女は割と私に対してキレている。なんでもっと構ってくれないの、とか、もっとちゃんと話聞いてよとか。今となってはもう本当に彼女の言う通りで、私の態度はかなり不誠実だったように思う。言い訳にもならないが、当時私はサークルを2つ、バイトを3つ掛け持ちする鉄人大学生をやっており、そこに恋愛を挟み込む余裕は正直ほとんどなかった。それでも私なりに彼女が好きだったので、睡眠時間を削って数時間を捻出したり、泊まりに来たらと誘ったりしてみたのだが「泊まりデートしかないなんてひどい、身体しか好きじゃないんでしょ」と拗ねられる等、とにかく失敗続きだった。今考えるとそりゃそうだという感じだし、タイムマシンがあるなら自分を思い切りぶん殴りに行きたい。

「私結構モテるんですよ。今日も大学で同じサークルの男の子にご飯誘われちゃったんです」
私の部屋であてつけのようにそういうことを言い出す彼女に、「そうなんだ。行ってくれば?」という最悪のコマンドを選んでしまう。有罪だ。
その瞬間彼女が堰を切ったように泣き始め、私はうっ!と息を呑んだ。ごめん、行かないでと平謝りしていると、顔を洗ってくると言って洗面所に行ったきりしばらく彼女は戻ってこなかった。流石に心配になって洗面所を覗き込むと、なぜか彼女はシャワーを浴びながらユニットバスの中でまた泣きくれていた。

ユニットバスに無理やりお湯を張って、LUSHのキラキラのバスボムを溶かして一緒に入ったの楽しかったなぁ。ということを思い出し、まったくそんな権利はないのに私も少し泣いてしまった。私のことで怒ったり泣いたりして傷ついているのが本当に可愛くて好きだなんて最低の最悪すぎて口が裂けても言えなくて、こんなのは愛でもなんでもないと分かっていながらも服を濡らしながら彼女を白々しく抱きしめることしかできなかった。

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