ハイネス国とほむふわん国の国境に近づくと、あたり一面が荒れ地のような干ばつ地帯が広がっていた。 走り続けて15時間が経過しようとしていたところで、皇女はぼやく。 「や~、さすがに食事をとりたいわ」 「そんなこと言われても、この辺なんにもないし、追われてるんでどこにもいけませんよ」 「ていうか!私だって赤子ではないのですから、歩けます!」 「え~?でもいきなり追手が来たら逃げ切れます?俺置いてっちゃいますよ?」 「なんでよ!」 「だってそういうことでしょ」 「そんなわけない
「ウルフ・フルハーネス様、お話したことがありましたので、本日はお呼びいたしました」 幽閉から2週間が経とうとしたとき、フジ・ミナミが俺を呼び出した。 何故か今回は椅子に座れていて、懇切丁寧な感じに妙な緊張感が立ち込める。 もしや、神の声を聞いたか? しかしながらやたらと気まずい空気が流れる。 なんでこういう時に話をするのがうまくないんだ俺は! こういう時にこそ、小粋なジョークの一つや二つ言って彼女を笑わせてやれっての! まだまだ女としゃべるって苦手だ。 もうなんでもいいか
雨が上がっていた。 地面には大きな水たまりがいくつかできていて、たくさん降ったんだなあと伺える。 それと同時に、夕暮れが雲の隙間からこちらを赤く照らしていた。 あの国王陛下、話し長すぎるだろ…。 話をまとめると、こうだ。 この世界の伝説、1000年に一度の両国王妃の同時単独懐妊、同時出産。 それを片割れ双子と呼び、生まれてきた子供は神の子供として祀られる。 成人の儀の際に双子が集結する時、神の声を賜ることが出来る。 …が、人身族に獣人が、獣人族に人身が誕生してしまった。
王妃の単独懐妊から早12年。 単独懐妊が噂になってから、子供が生まれるのを国民は今か今かと待ち望んでいた。 それが意味するのは、平和であり、平穏であり、そして不況のおわり、神の導きだ。 片割れ双子は神の声を聞き、世界に届ける。 それが生涯きっての役目なのだ。 しかし、出産後、国は生まれてきた片割れ双子を世に公開することはなかった。 それは紛れもなく、生まれてきた俺が獣人型の忌子だったからだ。 この国では代々突然変異として生まれてきた獣人型の子供は、忌子であるとして不遇な
「あんたね、最近モサリドさんのとこに来た少年ってのは」 「あ、はい…そう…です」 「あたしは嬉しいよ、あの家族はまた幸せをつかみ始めてるってね」 市場にお使いに行った時、野菜を売っているおばちゃんがモサリドさんとミサミルちゃんのことを教えてくれた。 ミサミルちゃんは結婚してすぐ、子供を産んだが、産んだ子供が突然変異で獣人型の個体だった。 当時の旦那は世間体を考えた結果、産んだ翌日にその子供を野山に捨ててきた。 それがきっかけで離婚し、実家の漁業を手伝っているというわけだ。
森を抜けると、街が見えた。 夜だったから暗く、酒場だけに灯りがともっている。 走っても走っても疲れないこの身体にだんだん愛着がわいてきた。 そして何より、知らない世界をどこまでもどこまでも走っていけるこの快感! ライフイズビューティホ~! なんて清々しいんだ! だが、ここからが問題だ。 宿をどうするか。 シンプルにどこで寝るかだ。 こんな金も持っていない子供を宿に泊めてくれることなどないだろう。 仕方ない、野宿でもするか。 でもまだまだ疲れない! どうなっているんだこ
生まれたときから不思議に思っていたことがいくつかあった。 まず、俺には耳が四つある。 人間の普通の位置に耳が二つあり、猫耳のようにピンと立った耳が二つある。 それに毎日顔を合わせるおばちゃんは俺をドワーフちゃんと呼ぶ。 そして、ウルフ・フルハーネスという名だが、違和感があった。 俺はついに気づいてしまう。 転生しているということに…! 気が付いたのは6歳になるころだった。 ボールで一人遊びをしているときに、ふと、前世の記憶を思い出したのだ。 ウルフとしての人生から6
連日連夜の夜勤に、北沢は悩んでいた。 最初は右も左もわからない状態、どころか、手違いで配属された報道部。 そもそも、テレビ業界がブラックなのは常識だけども、いつのまにかそんな激務が普通になっていくものだと思っていたのに、そんなことはなかった。 美味しいものはいつ食べても美味しいように、しんどい時はどう考えてもしんどいのだ。 しかも北沢はあわせて体力も比較的ない方だった。 中高はパソコン部。 部員と一緒に動画サイトを漁り、手描きMADなどをマイリスト登録するなどして学生時
北沢は夜が苦手である。 理由は特にない。 なぜそんなに苦手なのか、とんと見当がつかぬ。 夜遅くなる仕事というだけでテンションが下がる。 今回はそんな仕事だ。 アッタカ市、ホカホカ明太市長の任期満了に伴い行われる市長選挙。 本日投票、今晩開票である。 それを撮りに行く。 立候補 ・無所属 武井 ホルモン(初) ・海原党 若芽 敏行(現職) 上記メンバーの候補者で争われる市長選。 昼間に北沢は、インド料理やでカレーを食べていた。 普段なら局で仕事、あるいは取材に出
いつも外部に出て仕事をすることが多いが、たまには局内で仕事をすることだってある。 そんな局内仕事のお話を2つ。 北沢の今日の仕事は、「物撮り」だ。 物撮りは体力とは関係なしに空調のきいた部屋で作業できるところが魅力である。 しかし、欠点がある。 それは、「超むずい」ということである。 北沢は何度説明されても、何度講習を受けても、その技術をものにすることは叶わない。 先輩社員の堀江は「やっているうちに慣れる」というが、使用するライトの状態によっても完成の質が作用される
スポーツのルールが分からなくとも、スポーツ観戦はできるし、点が入れば盛り上がる。 そんなことに最近気づいた北沢は、田舎のとあるスタジアムに取材しに来ていた。 取材内容は、ラグビー日本代表決定戦準々決勝。 野球の時のようなBカメ席ではなく、屋上に近いようなところからカメラを向ける。 自分の2周りも3周りも身体の大きいラガーマンが、上から見ると非常に小さく見えた。 ラグビーボールを持っている人間がきれいに整列し、後ろへ後ろへと均等にパスを回していく。 信頼感や肉感がここまで
ファンの熱気高まるカタコリドームに初めてやってきたのは、入社する3年程前のことであった。 北沢は当時付き合っていた彼女の母が野球のチケットをもらったからと、野球観戦に行ったのだ。 にわかにも関わらず、3塁に近い指定席だった。 地元の弱小野球チーム、中枢ミソゴンズVS大阪の狂犬チーム、阪々ワンワンズの試合だ。 阪々ワンワンズはその当時、良い外国人選手をトレードしたとのことで、人気絶頂。 中枢ミソゴンズの本拠地で試合を観戦するも、3塁側というのは相手チームの観客が多く、非常に
何年かに一回行われる祭典を、楽しみにするものだろうか。 機材室のみんなは、楽しみにしていないようだ。 イベントものはとにかくたくさん歩くし、疲れるとのこと。 今回の取材は、4年に1度行われる国内最大級のアートの祭典「ハレハレアートフェス」 祭典の賑わいや、注目作品、芸術祭とともに賛否のある不可思議展も出展予定だ。 どうやら不可思議展の出展に関して、区長と市長が揉めているらしい。 それを撮りに行く。 「ハレハレアートフェス」は1週間にわたり行われる、町おこしのようなもの
ライトマン3大やりたくない仕事 ・送検 ・選挙 ・火災 これらの仕事に共通していることがある。 それは、「超しんどい」ということだ。 今回の取材は「送検」だ。 送検とは、検察官送致を意味する。 逮捕された容疑者を検察官に引き継ぐのだ。 すると、どうなるかというと、いわゆる犯人の顔が一瞬お目見えするということである。 よくある、怖い顔の容疑者が後車座席に乗っていたり、下りてくるところをニュースで取り上げられている、アレだ。 それを撮りに行く。 送検の朝は早い。 ど
空港での勤務は、非常にのんびりしたものである。 何か特別なことがなければ、しばらく空港機材室で待機だ。 今回の取材は、ざっくり言えば「台風」 中落牛たん空港では台風の時どのように対応しているかなどを撮っては局に映像を電波で送り、撮っては送りを繰り返して、定時になったら帰る。 そんな仕事だ。 空港や警察署、はたまた市役所には、情報をできるだけ素早く局に伝達できるように記者が一人は在中している。 新人の記者は大抵警察署の担当になり、交通事故やなにか事件があった際に記事を作
初仕事は北区で「認知症徘徊予行訓練」だった。 入社してからカメラアシスタントとして、「熱さ」を撮ったり、「大雨」を撮ったり、天候ものの取材ばかりを担当してきた北沢だったが、ついに、マイク&ミキサーを使用したがっつり取材に出向くことになったのである。 北沢は、ライトマンの仕事を舐めていた。 前述した、「熱さ」というのは、本当に街で暑そうにしている人たちを撮るし、なんだったら地平線の陽炎を撮る。 三脚をもってカメラマンの後ろをついていくだけの仕事なのだ。 ディスクも1時間以上