走れ!ライトマン#4
ライトマン3大やりたくない仕事
・送検
・選挙
・火災
これらの仕事に共通していることがある。
それは、「超しんどい」ということだ。
今回の取材は「送検」だ。
送検とは、検察官送致を意味する。
逮捕された容疑者を検察官に引き継ぐのだ。
すると、どうなるかというと、いわゆる犯人の顔が一瞬お目見えするということである。
よくある、怖い顔の容疑者が後車座席に乗っていたり、下りてくるところをニュースで取り上げられている、アレだ。
それを撮りに行く。
送検の朝は早い。
どのくらいだと思う?逆に問う。
始発?朝10:00?
否、朝5時集合!6時局発!
始発前にタクシーに乗ってまで来いと呼び出される、それが送検である。
ということは、電車で一時間かかるところに家がある北沢はだいたい4時起きだ!
送検の当日、カメラマン、ライトマン、そのすべてがピリピリしている。
その理由は簡単。眠たいから、そして、撮れ高が確実にないといけないからなのだ。
他の仕事でもそうだが、より一層ミスは許されない。
しかも、送検にはいくつかルールが存在する。
①警察署から送検は行われるが、警察署敷地内に入ってはいけない
②警察官に羽交い絞めにされたとき、絶対に抵抗してはいけない(公務執行妨害になるため)
③カメラマンは容疑者の手錠を映してはならない(ショッキングなので)
このルールを守り、容疑者の顔をばっちり撮る。
それが、送検である。
今日のカメラマンは横尾カメラマンだ。
毎度のことながらこの人も不機嫌そう。
しかも小言が多い。
5時ピッタリに到着した北沢は、挨拶をしそのまま準備に着手しようとしたその時、
「もうそれ、終わってるから。お前、来んのおせえ。手間かけんな」
「はい。すみません」
送検は心を病む。
到着時刻は6時、一番乗りだ。
一番乗りの特権、それは、陣取りができることである。
しかしながら、それからというものの、送検の車らしいものが動きを見せたら一気に動くだけで、あとは本当にひたすら待つ。
その日の朝は幸い雨は降っていなかったものの、冷えていた。
地面に座り、隙間から見える情報をできるだけ見、メモに書き留める。
何もないから、何かを書き留めるのだ。
尻が冷えるのが速い。
「おい、北沢。カメラの受け渡しをしたことはあるか」
「ないです」
「特訓しよう」
「はぇ?」
「このカメラ、業務用の高機能カメラだ。いくらすると思う?」
「うーん、…100万くらいですかね」
「いや、高級車が1台買える」
「ヒ!」
「特訓だ!」
こうして、横尾さんとの特訓が始まった。
送検の時の三脚は基本的に高足のものを使用する。
最大まで伸ばすと3メートルくらいにもなるため、非常に危険だ。
そこで、カメラの受け渡しの作業が重要になるのである。
まず、北沢がカメラを持ち(上からつかむ)、横尾さんに渡す。
横尾さんが「貰います」と発声した後、北沢は「離します」と発声する。
次に、しっかりとカメラを受け取ったら横尾さんが「貰いました」と発声する。
その繰り返しである。
「よし!その調子だ!」
「はい!」
しばらくこの特訓を繰り返すこと1時間。
つやつやの上着を羽織った、記者がやってきた。
「すみませぇ~んおくれまして~、ガハ、ガハハ、寝坊だ寝坊」
彼は県警一年目の新人記者星野くん。
送検の日に寝坊してきていた。
地味に、イラつく。
「まだ出てこないのか」
「多分そろそろ出てきますよ~、ばっちり撮ってくださいね!」
その言葉を聞いた他の局も動揺し、臨戦態勢になった!
さあこい、さあこい!
そうおもっているうちにはこない、それが送検だ。
しかし、ついにその時がきた!
警察署内にワゴン車が一台入ってきたのだ!
他局同様目がギラギラしている横尾さんは、その身を構えた。
後部座席の中心に座る男!
抜群の取れ高だ!
署内に入り、車から出てくる容疑者の撮影にも成功した。
「おい、北沢!渡すぞ!」
「はい!もらいます!」
「ファインプレーだぜ!」
「はい!」
すっかり陽が昇っていた。
帰局すると、みんなお昼ご飯を食べていた。
榛名が言う。
「お前、送検にあたるなんてついてないなあ~」
「食いながらしゃべるな」
「北沢くん、これ星野記者から!」
「堀江さん、お疲れ様です。なんだろ」
渡された袋には、「遅れてスマン!」のメモと、コンビニ弁当が入っていた。
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