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転生狼と人型皇女#7

ハイネス国とほむふわん国の国境に近づくと、あたり一面が荒れ地のような干ばつ地帯が広がっていた。

走り続けて15時間が経過しようとしていたところで、皇女はぼやく。

「や~、さすがに食事をとりたいわ」
「そんなこと言われても、この辺なんにもないし、追われてるんでどこにもいけませんよ」
「ていうか!私だって赤子ではないのですから、歩けます!」
「え~?でもいきなり追手が来たら逃げ切れます?俺置いてっちゃいますよ?」
「なんでよ!」
「だってそういうことでしょ」
「そんなわけないじゃないの!」

すると、皇女の腹が鳴った。

「はあ…、こんなにご飯を食べないなんて、前世でも経験がないわ」

ずっと走り続けていた間、皇女と過ごしていて、いくつか思うことがある。
それは、この子は、前世でも今生でも、幸せ者だってことだ。

苦労を知らず、わがままで、自由奔放。

そんな彼女を、少し羨ましく思っていた。

「しょうがないなア…、どこか探しますか?」
「やった~!」
「やったーって…子供かよ」
「まだ12よ、子供でしょ」
「この世界では成人です!ご自覚を!」
「ていうか、もうタメ語でいいよ、タメでしょ?」
「え?急にめっちゃギャル…。確かに、同い年ではあるのか…」
「あと、もうウルフ様って長いから他に名前ない?」
「!」
「私のことはフジって呼んで!気に入ってるから!」
「じゃあ俺は、タクローって」
「タクロー!?めちゃくちゃセパタクローみたいじゃん!」
「いやセパタクローではない!つーか、みたいっていうより、名前が一部に入ってるだけだろ!」
「解説乙!」
「やかましい!」

そんな会話をして、顔を見合わせて笑った。
意外とうまが合うのかもしれない。
というか、片割れ双子なのだから必然的にタメではあるのだがな…。

「絶対、タクローは呼ばないわ!」
「は?」
「他にないの?」
「ん~、タクロー以外だとないな」
「じゃあタクローで!」
「なんだよ!」
「消去法?」
「使い方間違ってる気がする」

皇女を下ろして、しばらくゆっくりと歩いた。

歩いても歩いても終わることのない地平線になんだか視界がぼやける。
もうどのくらいの時間がたっただろうか。皇女を担いで走っているときは、アドレナリンがドパドパなので、こんなこと一切ないのに…。
本当に自分は歩いているのかもわからないほどだ。

これは、夢か?現実か?

一人ふかふかしていると、皇女が叫んだ!

「人よ!」
「おお…本当だ」
「何か食べさせてもらえないか聞いてみるわ!」
「おい乞食!」
「しょうがないでしょ!しょうがないんだもの!」
「すごい理由だが最もだ!」

ひょいと皇女を担ぎ、見える人間のもとに駆け寄ると、獣人の女性が一人、ハラハラと泣いていた。

「あら、ほむふわんから来たの?」
「立てますか?」
泣き続ける女性に何もできず、二人あたふたする。
白髪でうさ耳がしおれた色白の女性はこちらに気づいた瞬間、ピョピョーンと飛び上がった。

「っとととと、とんだ御無礼、すすすすみません」
「いいのよ、でもどうして泣いているのか教えてほしいの」
「そそそ、そんな、話すような、こと、でも、な、いです…」
どもりながらしゃくりながら話し切ると、また泣き出した。

皇女はそんな彼女と目を合わせて言った。
「『訳を言ってごらんなさい』」
「はうぅ!…わ、わたし、突然変異型人身族です…、両親に捨てられて孤児院で育ちました…」
「そう、ご苦労なされたのね」
「でも、孤児院も時機に出ていかなくちゃいけなくて、それで、就職先、ちゃんと、みつけた、けど」
「うまく行かなかったんですね」
「ほえ、あなたも獣人?」
「ま、まあ、そんなところですかね」
「私たち双子なのよ」
「えええ!うそ!」
「うそよ」
「ええええ、うそなのォ!?や、まって、もしかして、片割れ双子?」
「え!そうです!なぜわかるのですか」
「わあ!だって、有名なお話ですよ!それに、こんなにも高貴なお召し物ですもの。皇族の方に違いないです!王女様ご懐妊のニュースは今でも覚えています!」

いつのまにか泣き止んだ彼女をみて、安堵した。
ちょっとムチムチで大きめの人が泣いているところは正直見ていられない気もしたのだ。

「じゃあ、そちらのけもけもの方が、ほむふわん国の皇太子さまですか?」
「あ、いや」
「あああ!本当に御無礼を!!お初にお目にかかります!皇女さま!!」
「私が、ほむふわん国唯一の皇女、でこちらがハイネス国の皇太子よ」
「ほえ?お二人とも突然変異…ですか?」
「…、かしら?」

パアっと笑顔を浮かべたウサギの女性は、続けて話す。

「なんだか、勇気出ちゃいました。私一度孤児院に戻って再就職先を探そうと思ってたんです!でも、獣人だしやっぱりダメかもって思うとへこんちゃいますね…」
「気を落とさないで」
「というと、この先に孤児院があるのですね」
「はい!人身族突然変異型獣人の子供をかくまうこの国唯一の施設です」
「せっかくだから、一緒にその孤児院と言うところに行かせていただけないかしら?」
「へ?いいですよ」
「現在地が知りたいの。私はほむふわん国への帰国を目指しているのよ」
「そうなんですか!じゃあ一緒に向かいましょう!」

たったか先頭を行くうさ耳女の背を見るなり、皇女は俺の方をギュンと振り向き、にやりと笑った。

そうか、こいつは腹が減っていたっけか…。
うまくことがはこんだようでなによりだ。

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