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転生狼と人型皇女#6

「ウルフ・フルハーネス様、お話したことがありましたので、本日はお呼びいたしました」

幽閉から2週間が経とうとしたとき、フジ・ミナミが俺を呼び出した。
何故か今回は椅子に座れていて、懇切丁寧な感じに妙な緊張感が立ち込める。

もしや、神の声を聞いたか?
しかしながらやたらと気まずい空気が流れる。
なんでこういう時に話をするのがうまくないんだ俺は!
こういう時にこそ、小粋なジョークの一つや二つ言って彼女を笑わせてやれっての!
まだまだ女としゃべるって苦手だ。
もうなんでもいいから本題に入ろう…。

「…皇女様、御用件は」
「あなたはこの世界だけが真実だと思いますか?」

は?
宗教かなんかか?

「あ、ええと」
「単刀直入に聞くわ。私の前世があると言ったら信じてくれる?」
「!」

皇女が身を乗り出し、俺の手に触れる。
多少動揺しつつ、すぐに立て直し、話を続るのだが…。
もしかして、皇女も転生者なのか…!?

不安げにこちらを見る彼女は、以前顔を見たときよりもしおらしかった。
さらには、深刻そうな面持ちであったため、話を聞いてみることにした。

「ええ、信じますとも。ちなみにどのような前世だったのですか?」
「私は勤勉な学生でした」
「学生?」
「ええ、今でいうところの、なんていったらいいのかしら…代わりになりそうな表現が見つからない…」

これは転生者の可能性がある。
そんな予感がしたので、カマをかけてみることにした。

「前世の言葉を使ってもいいですよ」
「あ、…ほんとに?えっと、高校二年生で模擬試験の勉強をしていて、そのあとの記憶がないんです。だとしたら、私は17歳でその世を去ったのかなと思っていて」

あたりだ。

「もしかして、死因が思い出せなかったりしますか?」
「え!そうなんです!なんで!なんでわかるの!?」
「皇女様、私も転生したと自覚があるのです」
「転生?」
「私も前世がございます」
「え~~~~!!!!ほんとに~~~~!!!」

不安げな表情から一転して、目をキラキラと輝かせる。え~、かわいい、困るなあ。
触れていた手をがっしりと両手で握り直して、同じ境遇のものとの遭遇に素直に喜んでいるようだった。
こういう時やたらと手汗を気にしてしまう。

「あっ…コホン。ま、転生してきたもの同士がんばりましょう」
「は、はい」
「先日ウルフ様とお会いした際に、急にloading…になってしまって、ずっと頭の中を整理していたんです。どうしてこれまで思い出せなかったのでしょう…」
「俺も転生してきたことに気づいたのは6歳の時でした。もしかしたら訳があるのかもしれませんね」
「いつか解明できればいいのだけれど…」

皇女は不安げながらそう呟くと、話を続ける。

「あと、この世界で私は特殊な能力を持っているかもしれないのです」
「といいますと?」
「私、結構誰でも言いなりにできるの」

ホホホと照れながら笑う彼女を見て、げんなりする。
俺の身体が丈夫っていう謎スキルよりもすごかったら、えーと、そうだな、泣く。

「相手の目を見て話をするでしょ、そしたらなんでも聞いてくれるんです!」
「へ~そんなことがあるんですか」
「ただ、やはり目隠しをされてしまうと厳しくて…。だからここからの脱走に難航しているんです。早くお城に帰りたいのに」
「ああ、ということは、ここまでは目隠しをされて連れてこられたのですね…おかわいそうに」
「そうなの!獣人族の皇女が人型って噂を聞きつけたなら、もっと誘拐の仕方を考えてほしかったわ!」
「ちな、どのように」
「睡眠薬の入った吹き矢」
「OH…」

いやしかし、なんかかっこいいチート能力だな…。
もしかして、この物語の主人公はこいつなのか…?
泣ける!

「そこで、ご相談です」
「はい」
「『ここから私を出してちょうだい』」

脳に直接語り掛けてくるような不思議な感覚に、眩暈がする。
すぐに彼女の瞳に吸い込まれそうになってしまう。
すると俺は考える間もなく、言った。

「もちろんです」


「よかった~!獣人さんってお優しくてうれしいわ」
「ところで、俺がここまで来るのに獣人を出せと仰ったそうですが、どうかしたのですか」
「あ、ああ!ちょっと、その、もふもふが恋しくなっちゃって…。触ってもいい?」
「ええ!?嫌ですよ!」
「『触ってもいい?』」
「はい!いくらでも!!」

最悪な女につかまってしまったものだ。
そういえば、国王陛下教頭が目を合わせるなとかなんとか言っていたような気がするが…、どうだったかは忘れたぜ!

「それでね、私思うの」

皇女は俺を寝そべらせ、頭をなでながら言う。

「ハイネス国っておかしいんじゃないのって!」
何に対しておかしいと思っているのか…。
獣人族の中で暮らしてきた彼女にとって見慣れないからだろうか。
「だって、こっちが貿易やろうって言っても全然やってくれないし、すごい大砲打ってくるし」
ああ、そっちね
「もっとさ、仲良くできるんじゃないって思うわけよ?歴史書見た感じ、結構昔は仲良かったらしいし!ねえ、そう思わない?『思うよね』」
「そう思います!」
「じゃあもう革命よ革命!全部壊してから作り直しちゃえばいいのよ!」
「ええええ、ちょっと思想強すぎじゃないですか!?」
「全然!ここは一旦、国に帰ってからうちの臣下たちと作戦会議しなくっちゃ!はやく脱走の準備を!」
「い、いまからですか!?」
「もう夜遅くなってきたんだし、丁度いいでしょ?」
「ええ~、もう俺疲れました」
「そうやって決行を先延ばしにしてもよくないわ!思い立ったが吉日!そういま!いま出るのよ!」
「わかりました、わかりましたってば!出りゃいいんでしょ!どうなっても知りませんからね!」
「やった!」
「で、策は?」
「え?」
「脱走の作戦ですよ!無計画でどうにか逃げるつもりですか?」
「…えへへ」
「笑ってる場合ですか!そんなことできませんよ!一人で逃げるんだったらこの窓突き破って走って逃げますけど!」
「え!そこまでしなくてもいいわよ」
「ッハ!そんな弱腰で何が革命ですか!もう俺はね!なんかわかんないけど、あんたの能力のせいかわかんないけど、やる気満々ですよ。思い立ったが吉日。なんですよね?俺の幽閉されている部屋には窓一つないんで、いや~本当にラッキーですよ」
「でもこれ開くタイプの窓じゃないんじゃないかしら…ってきゃあ!」

もうどうにでもなれという勢いとノリで皇女を掛け布団でぐるぐるに巻き、肩に担いだ。
「ちょっと!やめてよ!なにしてるの!!」
「いきますよ~~~、ハ~~~~ットウ!」

俺は勢いよく助走をつけて窓を突き破って、窓から落ちた。
5階建ての建物からの落下。
頬の肉が空気抵抗を受ける。
皇女が叫び、俺は華麗に着地したあと、一気に走り出した!
最近全然走ってなかったから超爽快だぜ!

深夜、城や屋敷の明かりが一瞬でともる。
これは確実に追われることだろう。
6歳の頃、初めて逃亡してかんじた外の空気や、風のにおいを思い出す。
俺はこんなにも自由なんだと感じた。
何か走るとやたらとハイになってる気がする。これがほんとのランナーズハイってか!?

走っている途中で、皇女が布団からひょっこりと顔を出す。
「ちょっと!どうなってるのよ!」
「俺、体力だけには自信あるんですーー!!」

そのまま走る速度が落ちることはない。
実は脱走の話が出た段階で、この方法は一番に考えていた。
しかし難関も待ち構えていることも一緒に思い出していたのだ。

そう、城壁と、門!
あれは以前はウサギの穴から抜け出すことが出来たが、今回はどうするか!

「ねえ!ゲートよ!減速して!」

俺は黙って皇女を布団に押し込めて丸めた。
そう、俺は、減速はしねえ。
減速したら、男じゃねえ!

スピードをより一層上げて門に頭から突っ込んだ。

走った速度と圧力に負けて門が吹っ飛んだ!
大成功だ!

しかし、…しかし!
もはやいま止まり方が分からない!

「うおわああああああ」

叫びながら坂を下り、漁師町ラノールルとは違う方向に走りゆくのだった。

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