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転生狼と人型皇女#5

雨が上がっていた。
地面には大きな水たまりがいくつかできていて、たくさん降ったんだなあと伺える。
それと同時に、夕暮れが雲の隙間からこちらを赤く照らしていた。

あの国王陛下、話し長すぎるだろ…。

話をまとめると、こうだ。

この世界の伝説、1000年に一度の両国王妃の同時単独懐妊、同時出産。
それを片割れ双子と呼び、生まれてきた子供は神の子供として祀られる。
成人の儀の際に双子が集結する時、神の声を賜ることが出来る。
…が、人身族に獣人が、獣人族に人身が誕生してしまった。

獣人を差別してきた人身族ハイネス国にとって、獣人である俺の即位は割に合わない。
そのため、皇女を誘拐して、そのまま即位させようという魂胆だ。
で、俺は普通に幽閉される…。

しかし、そう簡単にもいかないようで、誘拐してきた皇女が手に負えないらしく、俺にすべてを託してきたようにうかがえた。
しかも皇女は「獣人を呼べ」と言ってきかないらしい。

俺が獣人だということを思い出したし、片割れ双子だしで、なんとなく都合がよかったのだろう。

で、結局俺は何をしたらいいんだ…。
そんなことを振り返りつつ、衛兵に皇女の部屋へと案内される。

ふと、中学生時代のことを思い出す。
だいたい地域の小学校に通い終えたら、その近くの中学校にいくものだが、そのころに引っ越したため、知らない土地で中学生活を送ることになった。

図書委員で一緒になった、柳井さん。
彼女は眼鏡をかけて、毎日みつあみをしてくるおとなしい女子だった。
そんな彼女が、ある日ポニーテールにしてきたのだ!
男子の中ではいつもと雰囲気の違う彼女にドキドキしつつ、俺は、俺は伝えたくなってしまった。
かわいいと…!
でも、こんな俺なんかがそんなこと言ったら気持ちがられるだろうか。どうだろうか。
普段は気さくに話をしてくれる柳井さんのことだし、そんなことはないと思う。そう思う。
そう思って!

思い切って言ってみた。
放課後、図書委員会終わりがけ。
「柳井さん、今日、髪型、かわ、かわいいね」
そういうと、彼女は、俺を見るなり、泣き出した。
「きもちわるい」と。

何がいけなかったのかわからない。
本当にわからない。

それからというもの、少しずつ、柳井さんのことが好きな俺、そして振られた俺っていう噂がたち、めちゃくちゃいじめられた。
変に噂になったのが災いしたのか、先に柳井さんが不登校になった。

なんか憂鬱になってきた。
なんで俺はこんな時に、くだらないことを思い出して鬱々としているのだろうか。
自分でも自分が理解不能だぜ。
最大の懸念点はひとつだけ。
俺、同い年の子と、普通に喋れるのかな…。

コンコンと衛兵がノックをすると、「来ないで」と声が聞こえる。
鍵は内側からかけられていて、開かない。

「獣人をお連れいたしました」

衛兵がそういうと、ドアの鍵からカチャンカチャンと鳴る。

「入って」

ドアの向こうから聞こえる凛とした声に、動悸が隠せない。
一体、皇女サマってどんな感じのお方なのか!
今生では学校にも行ってなくて友達もいないからなあ、仲良くなれるといいけどなあ~…。
俺のイメージでは、白や桃色のドレスをあしらった淡く美しい風貌でかつ可憐で華奢で、かわいくて、で、こう言う!
「お待ちしておりました」とか「わたくし、庶民の文化はわかりかねますの」とか、「いろいろ教えてくださいまし」とか!
「そんなこと…できませんわ…」「タクローさま、わたくし、こんな気持ちになるの初めてなんです(頬を赤らめながら)」とか!!

さっきまでの憂鬱が吹っ飛んでしまうくらいには妄想がはかどるぜ!

もしかしたら、状況によっては、腹違いだし、このまま結婚とかもあるのか!?
すごい!すごいぜ今生の俺!
前世では体験しえなかったすべてを獲得できるってやつなのか!?
ここだけくりぬいて考えると、転生って最高じゃないか!?
いやいやそんなこと言って、死ぬほど飯食う皇女だったらどうする?
食費は王家から出たりするのかな。
いやいや全然食べたいものたくさん食べられるように努力しますけどね、もちろん。
もしかしたら俺のお嫁さん候補だったりするかもしれないし!

なんか最近の流行りでは養ってほしいだのなんだの言うけど、俺はずっと『俺の嫁』を探しているなあと年甲斐にも思うわけで、って現状12歳の俺が何ができるっつー話だが…。
いやまて、この世界では成人してるからオールオッケーか!

そっと扉に手を掛け、入室した。
衛兵は、皇女の向きに会釈をした。ドアの前で待つようだ。

「し、失礼しま~す」
そろりと入ると、なんとそこには…、

「く、黒ギャル!?」

「な、なによ」


着物を着て、花の髪飾りを付けた青い瞳の黒ギャルがいた…。
皇女のイメージのすべてが覆される。

もっとこう、金髪で、美少女で、スズランがそよぐような可憐な感じで…。
いやいや、幻想も大概にして、とにかく、挨拶だ。

「コホン、皇女様、御無礼を申し訳ございません」
「いいよ」
「ウルフ・フルハーネスと申します」
「フジ・ミナミよ。よろしく」

彼女は裾をひらりとさせて、手を差し出す。
こてこてになっているジェルネイルが気になる。

「なに、握手もしたくないわけ?」
「あ、いや、ネイルが」
「かわいいでしょ、お気に入りなの。さ、早く」
「……」

手を握った瞬間。
フジ・ミナミに異変が起こった。

「あ、え?」
「どうかされましたか?」
「私、…うう」
「大丈夫ですか?皇女様、皇女様!」

彼女はその場で座り込んでしまった。
どうしたらいいかわからず、衛兵に侍女を呼んでもらって手当をしてもらう。

一体何が起きたのか、わからなかった。
彼女には神の声が聞こえたような気がしたというのだろうか。
また後日、確認しよう…。


フジ・ミナミが倒れてから一週間がたった。

その頃の俺はと言うと、普通に幽閉されていた。
まあ風呂も飯もあるからいいけど…。
でもインターネットもないし暇だ。基本暇。

忙しい毎日を送っていたのだから、このくらいの休息はありがたいものだ~とか言いたいが、前世はニートだったので、そんなこともない。
前世も今生も引きこもりなんだなあとしか…。
状況は全然ちがうけど。

寝たり起きたりする中で、あの時のことを何度か考えていた。
皇女はなぜ俺と握手したその瞬間に倒れてしまったのか。

特に悪いこともしてないはずなんだがな…。
やはり俺特有の気持ち悪さがゆえなのか?
冗談だと言ってくれ、神よ…。

神、神と言えば、この世界の人々は異様なほどに神に執着しているなあと感じる。
そんな本も読んだが、身になるような話でもない。

創造主である神は海を描き、陸を作り、街をつくったと言われている。
神が最初に想像したのは、なぜか魔法使いなんだそうだ。
というか、この世界に魔法とかあるんだ、誰も使ってる人いないけど…。
絶滅でもしたのかな。

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