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転生狼と人型皇女#4

王妃の単独懐妊から早12年。

単独懐妊が噂になってから、子供が生まれるのを国民は今か今かと待ち望んでいた。
それが意味するのは、平和であり、平穏であり、そして不況のおわり、神の導きだ。
片割れ双子は神の声を聞き、世界に届ける。
それが生涯きっての役目なのだ。

しかし、出産後、国は生まれてきた片割れ双子を世に公開することはなかった。
それは紛れもなく、生まれてきた俺が獣人型の忌子だったからだ。

この国では代々突然変異として生まれてきた獣人型の子供は、忌子であるとして不遇な扱いを受ける。
その為、国外逃亡し獣人族の国で過ごす者も少なくない。

王家から、忌子が誕生した…。
国はその事実を隠し通したかった。


馬車は揺れながら、街を一つ抜けた。
少しずつ厚い雲が空を覆い始め、次第に雨が降り始めた。
屋根にあたる雨粒の音がだんだん激しくなる。

兵士が淡々と国の伝説と歴史を語る。
せっかく転生してきた先でも、うまくいくことなんて何もない、そう感じた。
かつて過ごした前世の平穏さが懐かしいほどだ。

差別の対象として生まれてきた自分を憎らしく思った。
もし獣人の姿で生まれなかったら、この物語は全く別ものになっていたのではないか。

たらればが頭を反芻し、でも、結局、俺は…。

「つまり、俺は…」
「器だ。我々が神と交信するための器。そんな大きな耳の獣人なんて誰も王妃様のご子息だなんて思っていない」
「……」
「王妃様の身体をくぐってきただけの忌子なんだよ」
「……」

だから生まれてからの6年間幽閉されていたというわけか…。

雨が止んだころ、屋敷に到着し馬車が止まった。
ここはかつて脱走した屋敷に違いなかった。
大きな門と城壁。
あの時は暗かったから色までは覚えていないが、形とこの空気感を不思議とおぼえているものだ。

足のロープはほどかれ、腕は後ろに縛られたまま歩かされる。
まるで罪人だ。
門をくぐり、しばらく歩くと、屋敷と城が見えた。
俺が暮らしたところは城とは異なる、別棟と言ったところか。


「国王陛下、お連れいたしました」
「入るがよい」

大きな扉を開けてすぐに、兵士が俺の肩をつかみ、押す。立ち膝をさせられた。

「久しいな、ウルフよ」
「え!?」

少し顔を上げると、めちゃくちゃ教頭先生みたいな感じのお爺さんが玉座に座っていた。
禿げてバーコードみたいになった頭で、分厚い眼鏡をかけている。
国王陛下って、こんなに教頭先生みたいな感じなんだ…!
なんだか妙にテンションが上がってしまう。

高貴な衣服を着ているものと思っていたが、この国の正装は現代と似ていて、スーツのように見受けられる。
ネクタイの渋い柄といい、グレーのパリッとしたスーツといい、なんだかとっても教頭先生みたいな感じだ…。
国王陛下って、王冠とかかぶったりしないのね…、意外だ…。

ふと、小学生時代のことを思い出す。
学力不振すぎた俺は、教頭先生と校長先生、そして担任と母親の五者面談に参加させられたのだ。
「もしかしたら、支援学級に移った方がいいかもしれません…」
その担任の言葉に、母親はあっけらかんとして、「ゆうて大丈夫です」なんて言っていた。
教頭先生と校長先生の、険しい顔。
普段あんまり接点はなかったけど、怖い顔のおじさんたちなんだなと思った。
どうして校長には毛があるのに、教頭には毛がないのか不思議だとか考えながら、時間をつぶした。

帰りの車の中で、母から「あんたはまだ本気を出してないもんね」と、ハンドルを抱いて泣きながら言われたのを覚えている。

母さん、馬鹿でごめんよ。
高校は絶対に出て、就職するから。

その時はそんなことを思ったりしていた。

「おい、聞いておるのか!」
「ええ!?え、ええ!」

そんなことを思い出していたら、全然話を聞いていなかった。
めちゃくちゃ悪い癖だ…。
シンプルに社不ですみません…。

思い出してしまうと止まらなくなって人の話を聞けなくなる時がある。
これってあるあるだよね?そうだよね?俺だけじゃないよね?

「つまり、なんでしたっけ」
「貴様ァッ!……よい」

情緒こわ…。


「お前は隣国ほむふわんに追放する予定じゃった…」
「は、はあ」

じゃあもうそれでいいから、そうしてくれ。
俺の教頭先生っぽいというのは近からずも遠からずと言ったところで、とにかく話が長く、簡潔でない…。
同じ話を2、3度繰り返し、話がたまに脱線して…、とにかく話が長すぎる。
ついている膝が割れそうだ。
誰かこいつを止めてくれ!!

「しかしな、神の声を聞かねばならぬ。その条件が今、整っているというわけだ」

なんだか確信めいたところに話が突入していったぞ。
聞くに、先月から俺の捜索は始まり、やっとのことで見つけて誘拐に成功。
条件というのは、神の声を聞くために片割れ双子両方が必要だからということか。

「隣国の皇女は今この城に軟禁しておる。二人仲良くして、神の声を聴けるようになったら教えてくれんか」

めちゃくちゃ嫌だ。

「その皇女は獣人族にして『人型』じゃ」
「人型?」
「この単独懐妊はな、神が種を間違えられた。民衆の言うところの突然変異とは別物じゃ」
「ちなみにですが、神の声を聞き終えたら、自分はどうなるのですか」
「普通に幽閉する」
「ゆっ…」
「それで、皇女を人身族として即位させる。ホホ、我が国の名誉は守られるというわけじゃ」
「……そうですか」

なんかもう長話から解放されたいすぎて、適当な相槌しかうてん。
だけど、こういう人に限って、そんなに相槌なんて聞いてないし、集中力ももうないし、しょうがないことにしたい、そうしたい。

「というわけで、皇女に挨拶してくるのじゃ」
「はあ」
「ただ、皇女を侮るでない。不思議な力を持っておる」
「は~い」
「では行くのじゃ、健闘を祈る!」
「はい」

解放!

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