ジャンドゥイオット(Gianduiotto)/ ジャンドゥーヤ(Gianduja):ヘーゼルナッツをたっぷり使ったイタリア名物チョコレート
1. ジャンドゥーヤ(Gianduja)とは?
1-1. ジャンドゥーヤの定義
ジャンドゥーヤ(Gianduja)と聞いて、どんな味かイメージできる方はどれくらいいるであろうか。
ジャンドゥーヤとは、ヘーゼルナッツのペーストとチョコレートを混ぜて作られたもの、つまりヘーゼルナッツベースのチョコレートペーストのことである。
その作り方は、まずローストしたヘーゼルナッツを細かいパウダーにする。
次に、チョコレートを滑らかなペースト状に溶かし、そこにヘーゼルナッツパウダーを混ぜる。
この時、少なくとも30パーセントの割合で、ヘーゼルナッツを使うことが暗黙のルールとなっている。
このようにチョコレートに香ばしいヘーゼルナッツのペーストが加わることで、ダークチョコレートよりは軽く、ミルクチョコレートよりは深みのある味に仕上がり、口当たりはとても滑らかなものとなる。
このnoteでは、そのジャンドゥーヤを使ったイタリア名物のチョコレート・ジャンドゥイオット(Gianduiotto)について紹介していきたい。
(今回紹介するジャンドゥイオットはこんな形)
因みに、イタリアのスーパーでは、ノッチョーラ(Nocciola;イタリア語でヘーゼルナッツの意味)と書かれている、ヘーゼルナッツそのものがゴロゴロ入っているチョコレートも見かけることが多い。
ヘーゼルナッツは、ピスタチオと双璧をなすほど、イタリアのジェラート屋さんで人気のフレーバーであるが、それはジャンドゥーヤ(Gianduja)というよりも、ノッチョーラ(Nocciola)とメニュー表にあることが多い。
今回ピックアップするのは、ヘーゼルナッツベースのチョコレートペースト、ジャンドゥーヤであるが、これらのヘーゼルナッツを使ったお菓子も、イタリアらしいお土産として是非お勧めしたい。
それではいつ、どこでジャンドゥーヤは登場したのであろうか。
次の章では、ジャンドゥーヤの歴史を見ていこう。
1-2.ジャンドゥーヤの歴史
もともとジャンドゥーヤ(gianduja)とは、とあるイタリアの喜劇の登場人物につけられていた名前であった。
劇中のジャンドゥーヤは、三角帽子に赤と茶色のボーダーのジャケットを身につけたピエモンテの正直な農民という設定。
今日では、トリノのカーニバルのマスクにもなっているキャラクターでもある。
そんなジャンドゥーヤは、いつ、どのようにして今のようなチョコレートの名前となったのであろうか。
筆者が幾つかのサイトを読んでみたところ、1806年にジャンドゥーヤが誕生したという説と1861年に誕生したという説に分かれた。
まず1806年説から紹介。
1806年、当時、その勢力圏を広げるためヨーロッパ中を巻き込んで戦争を行っていたナポレオン・ボナパルト(Napoleon Bonaparte;1769- 1821)は、敵対していた大英帝国及びその植民地からのカカオの輸入を禁止した。
そのために、イタリア半島に流通するカカオの量は激減し、価格は高騰した。
1806年、トリノの菓子屋は、地元で採れたヘーゼルナッツを混ぜることで、カカオを節約しつつ、香ばしい風味を持つチョコレートペーストを生み出したのであった。
次に1861年説を紹介。
1860年代、フランス第二帝政の皇帝として国外への影響力をナポレオン3世(Napoléon III;1808-1873)。
因みにこのナポレオン3世は、先ほど言及した有名なナポレオン・ボナパルトの甥である。
ナポレオン3世が起こした戦争によってヨーロッパ経済が混迷を極めていた中で、カカオの流通は制限されていた。
その上、資金不足に陥っていたイタリア政府は、カカオを含む幾つかの商品に対する輸入税を釣り上げた。
このためにイタリアの菓子店は、チョコレートを生産するのが困難な状況に陥っていた。
1861年、イタリアの菓子メーカー・カファレル(Caffarel)の創業者であるピエル・ポール・カファレル(Pier Paul Caffarel)は、ピエモンテのヘーゼルナッツをはじめとするイタリア産の原料 を使ってチョコレートを作ろうとした。
こうして出来上がったヘーゼルナッツ入りのチョコレートペーストは、ピエモンテゆかりのキャラクター、「ジャンドゥーヤ」(gianduja)と名付けられたのであった
さらにカファレルは、ジャンドゥーヤを使って、三角屋根のような形のチョコレートを「ジャンドゥイオット」(gianduiotto)として売り出した。
滑らかな舌触りのこのチョコレートは、今でもカファレルを代表する商品となっている。
因みに、イタリアのパスティチェリアでは、ジャンドゥイオットと言うと三角型の金紙に包まれたチョコレート、ジャンドゥーヤと言うとジャンドゥーヤを使った何らかのお菓子とされているが、カファレル公式サイト日本版では、イタリアでジャンドゥイオットにあたるものがジャンドゥーヤとして紹介されている。
このため、三角型のチョコレートを求めて日本のように「ジャンドゥーヤ」と言うと、店員さんに「ジャンドゥイオットのこと?」と聞き返されることがあるが、商品を指差しながら言えばきちんと伝わるので、心配は無用である。
以上、2つの説を比べてみると、ナポレオン・ボナパルト(19世紀初頭)かその甥のナポレオン3世(19世紀後半)かということ以外は全く同じような流れの話である。
筆者の大雑把な推測に過ぎないが、おそらく「ナポレオンの影響でカカオが不足した」という情報だけが一人歩きして、それがボナパルトか、その甥のナポレオン3世かということが確かめられないままに説が伝えられたのではないかと思っている。
いずれにせよ、16世紀以降、政治的なイニシアチブを失っていたイタリア半島は、ハプスブルク帝国やフランス王政・共和制・帝政の影響を受ける存在であったのであった。
1-3. 忘れてはいけないヌテラの話
カカオの流通の制限・価格の高騰の影響を受けて誕生した商品として、忘れてはいけないイタリアの商品がある。
それはイタリアの国民食と言っても過言ではないヌテラである。
ヌテラを開発したのは、1946年にピエモンテで創業したフェレロ社(ferrero)。
第二次世界大戦後、敗戦国イタリアでは、カカオのみならずあらゆる物資が不足していた。
そのためにフェレロ社は、ピエモンテ産のヘーゼルナッツを使ったチョコレートペースト「ジャンドゥーヤ」を生産した。
1950年代、現在のヌテラの前身となる「スーパークレマ(SuperCrema)」がフェレロ社によって発売されると、パンに塗りやすいスプレッドとして徐々に人気が高まっていった。
(クレープ機の前に並ぶヌテラ)
1960年代になると、フェレロ社のジャンドゥーヤは、「ヌテラ」(Nutella)として販売されるようになり、イタリアのみならず、世界中にファンを増やしていくことになる。
(筆者はそこまでヌテラが好きなわけではないのに、デザイン瓶欲しさにヌテラを購入することがある)
ヌテラにしろ、ジャンドゥーヤにしろ、戦争による物資不足が引き金となって、国内で生産されたヘーゼルナッツがカカオの代わりに用いられたことで誕生している。
そのために、イタリアの食品パッケージにプリントされたコロンとした形のヘーゼルナッツを目にするたびに、イタリアの人々の食卓のピンチを支えてきた英雄のように見えてきてしまう。
ピンチはチャンスと誰かが言った気がするが、ヌテラに関しては、イタリア発の食品が世界に受け入れられたために、大成功を収めていると言えるであろう。
(ちなみにヌテラに使用されるヘーゼルナッツは、トルコの黒海地方とイタリアのピエモンテ州、ラツィオ州、カンパーニア州において収穫したものを使っているということで、全てがMade in Italyなわけではないらしい。)
2. ミラノのパスティチェリアで購入できるジャンドゥーヤ
ここでミラノのパスティチェリアで購入できるジャンドゥイオットを紹介。
左上から右下へ、
1. コヴァ(Cova)
3. ザイニ(Zaini)
4. クッキ(Cucchi)
続いて右上から順に、
最後にこちらも右上から、
それぞれのお店の情報については以下のリンクを参照されたい:
※「ミラノの老舗カフェ・バール10選: クラシカルな雰囲気、美味しいコーヒー、王道のケーキ」(2019年6月12日付note)
※「ミラノのパスティチェリア12選 vol.3:イタリアのお菓子を食べるならここ、朝食からランチ、アペリティーボまで」(2019年11月6日付note)
※「ミラノでオススメのチョコレート屋さん15選:お土産、プレゼント、自分用に」(2019年10月19日付note)
我ながらよくこんなに集めたなと思うが、イタリアのパスティチェリアでは一粒からショーケースに並ぶジャンドゥイオットを頼むことができる。
値段は、最も安かったもので一粒0.5ユーロ。
最も高かったのはマルケージのもので確か2ユーロ近くした。
筆者はそれぞれのお店のジャンドゥイオットの味を分析するほどの繊細な舌を持ち合わせてはいないので、評価することはできない。
ただ街のパスティチェリアで作られたジャンドゥイオットは、あまり添加物が入っておらず長期保存向けではないため、購入したら早めに食べることをお勧めしたい。
筆者は、1ユーロくらいのエスプレッソのお供にこのジャンドゥイオットたちを食べたが、キュッと苦いエスプレッソとなめらかで甘いジャンドゥイオットの組み合わせは最高である(そのためにこれらの写真はバールのカウンターで撮ったものも多い)。
もちろんお店によっては箱の詰め合わせもあるので、店員さんに聞いてみるのが良いであろう。
3. イタリアの大手メーカーのジャンドゥーヤ
ここから紹介するものは、ミラノ以外の都市で生産され市販されているものである。
右上から順に、
3. リンツ(Lindt)
4. ヴェンキ(Venchi)
6. ドモリ(Domori)
ペルジーナについては以下を参照:
※「ペルージャ生まれのチョコレート:イタリア土産の定番ペルジーナ(Perugina)製バーチ(Baci)」(2019年5月6日付note)
他、スーパーなどでも手頃な値段で売っているジャンドゥーヤもある。
(スーパーで1袋 1.5ユーロほどで購入したライカ(Laica)というメーカーのもの)
繰り返し書くが、筆者はそれぞれのメーカーのジャンドゥーヤを食べ比べることができるほど、敏感な味覚を持っているわけではない。
しかしながら一つ言うことができることがあるとすれば、ミラノのパスティチェリアで購入したジャンドゥーヤに比べて、これらの大手メーカーのジャンドゥーヤは固いということである。
おそらく各地に輸出すべく工場で大量生産されたものは、長期保存向けなのであろう。
これら大手メーカーのジャンドゥーヤは、百貨店リナシェンテ最上階のフードコーナーや、ミラノ各地にある菓子店OD ストアで一粒から購入することができる。
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以上、ジャンドゥーヤ・ジャンドゥイオットの歴史と、ミラノで購入することができる様々なジャンドゥイオットを紹介した。
ちょっと手の込んだお土産を渡したい時には、パスティチェリアで箱入りのものを、気軽に友人にたくさん配りたい時には、スーパーなどで袋入りのものを購入すればようであろう。
値段が高いものはやはり美味しいが、スーパーで売っているものもそれなりに美味しいと筆者は思うため、イタリア土産の候補におすすめである。
参考:
・"The Story of Gianduja", EATALY(2020年1月21日閲覧)
・Luciana Squadrilli, "Gianduia: Turin’s world-famous chocolate and hazelnut paste", Great Italian Chefs(2018年11月12日付記事)
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