川井

かわいです。日々の記録、考えたことなど

川井

かわいです。日々の記録、考えたことなど

最近の記事

長月を振り返る

 中秋の名月。ひと月ほど前にこの日だと知ってから昨晩まで覚えていたのに、いざ目の前に立つときれいだなあと思うのみに留まっていた。月の写真を撮っている人に声をかけてもらえたおかげで、今日もひとつ季節を味わう。  友人ふたりは、それぞれ食べ物の好みが異なる。その中間に立つわたしは、二人と会うと普段口にしないものを食べる機会が得られるからラッキーである。今月は外でお茶を飲む機会が多かった。この前の日曜は、お茶の時間には遅めの夕暮れ時に甘味処に吸い寄せられて、ひとまず一服。たしか某

    • 猫になりきれない日々

       このところは、お粥やそれに近いものを食べて生活している。旅先で、地元の醸造所やその商品の取扱いがあるちょっとしたお店に立ち寄り、詳しいことはよくわからないけれどもおいしそうに見える味噌を選んで買うささやかな楽しみを得てから、それ以前よりもお味噌汁に関心が湧くようになった。何度か購入してみて、お店によって違いはあることはわかってきたが、成分や作り方の細かな違いは、まだよくわからない。だから、これは前回のものより甘い、こっちはなんとなく辛みがあるなどと味覚を頼りに考えごとを進め

      • 通り抜けていく夏

         通りの寺社で、百日紅の花と目が合う。  自宅の庭木はこの気候で葉が焼けてしまったものがいくつかあるなかで、百日紅だけは昨年とも一昨年とも変わらない姿に見えているが、同じように弱っているのだろうか。今までは園芸に手を出さず、ただ庭園を眺めてまわることを楽しんでいたけれど、この際土に触ってみようかと思う。幸い自宅に趣味の園芸が何冊かあり、手にとってみたところ、案外面白くてやる気を出すための導入にはちょうど良かった。  一日中陽に照らされる植物には同情するが、周りで暑い暑いとぼ

        • 流行り病に臥す

           一週間ほど前、熱が出た。  前回の発熱は夏風邪で済んだが、今回はあっさりコロナに感染した。とりあえず職場へ連絡し、それから通院の予約をキャンセルした。大粒の処方薬を決められた時間どおりに飲み、体を休めながら過ごす。熱はそれなりに収まって、咳もほとんど出なくなったから、明日は久しぶりに外へ出ようと思う。そろそろ仕事に戻らなくては。  読書をするにも映画を観るにも、対象に意識を集中させて楽しみたいと思っているから、こんなふうにぼんやりとやり過ごすだけの日々は時計の針が進まない

        長月を振り返る

          城下町から

           5月に訪れたときと同じように、水堀に映る城址公園の木々が爽やかで気持ちがいい。気温は37℃。屋外の散歩はほどほどに、城から離れて郊外のカフェへ。ほどよい甘さでもっちりした食感のフレンチトーストに舌鼓を打つ。店内にはドライフラワーがいくつか飾ってあり、そういえば祖母が作ったばらのドライフラワーはどうなっただろうとふと思った。あとで聞いてみたら、以前いただいた可愛らしい梅酒の瓶に保管してあるとのこと。瓶の中で止まった時を過ごしているのだろうか。  似たようなドライフラワーを、

          城下町から

          特急列車の車窓から

           8月初頭の一週間を夏季休暇に充て、朝早くから電車に揺られて県下の城下町へ。始点ではほとんど貸切状態で、中間地点でようやくぽつぽつと乗客が増えてきた。それでも平日の朝は空いている。うっかり寝てしまうことのないように、お気に入りの文庫本一冊を携えてきたが、内容に引き込まれているうちに電車旅もあと十数分というところまで来ており、あまり真剣に読むのも考えものではある。  山間地にかかり、あの大雨のせいか倒木の姿があちこちで見られた。木の幹が裂けて、内側から痛々しいほど彩度の高い色

          特急列車の車窓から

          ドライブには暑い日

           母と美術館へ。車で片道約2時間、田園風景を眺めながら、他愛ないおしゃべりをして過ごすうちに、いつのまにか目的地が近付いていた。手元のチョコレートが輪郭を失うほど融けていて、慌てて食べる。  閑散とした展示室をのんびり歩く。賑わう人々の様子を描いた作品を、落ち着いて眺めるのも面白い。それなりに有名な作品もあるというのに、こんなに空いていていいものだろうかと心配にはなるが。人が少ないのをいいことに、撮影可能スペースでは沢山写真を撮ることができた。混み合った場所だと、周りの人が

          ドライブには暑い日

          気がつく音、見えるもの

           カラスの声がうるさいね、と声をかけられるまで、わたしの耳には自身の手元から発する音しか聞こえていなかった。言われてみれば、近くはないけれど確かに何羽かの鳴き声がする。考えごとに耽る中で、閉め切った窓の向こうに耳を澄ますのは、なかなか難しい。数日前に、玄関を出てすぐ蝉の声に気がついたのは、ほかに何も気を取られるものがなかったからだろう。蝉というと蒸し暑い空気が記憶に紐づけられているが、そのときは日没の時刻を過ぎて暫く経っており、少し肌寒いくらいの風が漂っていた。  カラスに

          気がつく音、見えるもの

          生活の一部を記録する

           クリーニングから、冬物の衣類が戻ってきた。祖父から譲り受けたカシミアのセーターが、畳まれることを拒むようにとろけて、肌にまとわりついた部分が暑い。ぬるくなった水出し紅茶が、汗ばんだ体に沁みる。茶葉のストックも、残りが少なくなってきた。  壁掛け時計の電池が切れていた。生活の拠点を置く部屋でこういったことが起こると、朝目が覚めたとき、スマホで時間を確認する習慣がない身としては、時間がずれたまま過ごすことになる。午後にしか予定を入れていなかったから、特に影響を及ぼすこともなく

          生活の一部を記録する

          余暇の過ごしかた

           知人Bと美術館へ。いつもさりげなく展示品に合わせた服装で現れるところが微笑ましい。三連休の中日だからか、ここ何回か訪れた中では、観客が一番多かったと思う。おしゃべりどうぞのお時間に入場したから、にぎやかなご婦人がいて、小さい人もいて、和やかな空間だった。展示品も、わたしにとっては心躍るものたちで、鑑賞できてよかった。  少し早めの誕生日プレゼントをもらった。華奢な指輪で、手によく馴染む。偶然だが、鑑賞したばかりの企画展と共通点があるモチーフで可愛らしい。先日は母からも素敵

          余暇の過ごしかた

          昼休みにしたいこと

           思い出せないほど前から、虫に対して苦手意識がある。小説の中ですら、虫の描写には抵抗がある。しかし、夜に虫の音が聴こえてくると、季節感があっていいなあなんて考えてしまうから、これもまた単純で、都合の良い感性だ。この雨模様では、なかなかそんな楽しみも見出せないが。  昼休みに、読書と散歩以外で何か楽しめることがないかを、ここしばらくの間考えていた。それで今日、ふと思い立って変体仮名を書く練習に至り、なかなか楽しい時間を過ごすことができた。くずし字の中には、今となっては、もはや

          昼休みにしたいこと

          タコとともに眠る

           通り道に面した駐車場の金網フェンスが、風をはらんだ帆のように膨らんでいる。車がぶつかったのか、それとも人が寄りかかりやすい位置なのか。こんなありきたりな思考回路からは生まれないような、別の何かの力によって作られた形なら面白い。  書店の特設コーナーに並ぶ本が、知らぬ間に入れ替わるのは仕方がない。少し前まで注目していた本たちが揃って姿を消したとしても、それに対して不満は言えない。棚の中身が変わっても、足を運ぶたびにそれなりの出会いがある。ロジェ・カイヨワ氏の著作を迎え入れる

          タコとともに眠る

          日曜日のひととき

           自宅用コーヒー豆のストックが減ってきたので買い出しへ。どの豆にするか悩んでいる間中、お店の奥から焙煎中のいい香りが流れ込んできて、あれもこれも買いたくなる。もう少し胃が強ければ、ともやつく思いを頭の片隅へ追いやり、いつも通り二種類の豆を焙煎してもらった。  ソファの周りに、新聞や本を溜め込むことが癖になっている。何か読むときは大体ソファだ。長らく使い込んでいるから、スプリングが弱っている部分があり、そこが一番落ち着く。ソファの背もたれに沈み込んで、本を読む。山積みになった

          日曜日のひととき

          違うところにいる

           もう何年も聴いていなかった音楽と、久しぶりに向き合った。苦しかった時期の記憶を起こしてしまうことが怖かったから、ずっと封じ込めていたけれど、もう何とも思わなくなっていた。意識の水面下にある何か、自己防衛のような機能のおかげで、ようやく平気になれたのかもしれない。それでも、この曲を好きだと思うその感性は変わっていなかったから、わたし自身がいつのまにか少し強くなったらしい。  定期の診察を終えて、書店へ。軟膏の山で膨れ上がったビニール袋に、あちこちで裂け目ができていた。いろい

          違うところにいる

          いつもどおりの生活に

           このところ残業続きであるにも関わらず、職場を出るときの空がまだ明るい。なんだか、1日に使える時間がたくさん残っているような気がして、つい寄り道をしたくなる。眠りに就く時間帯も少し遅くなってしまい、しかし寝るために出かける時間を遅らせることは難しいからとにかく出勤。時差ボケもなかなか直らず、ぼんやり過ごしているうちに定時を迎えて、また残業。そろそろこの生活リズムに終止符を打ちたい。  傘の柄からわたしの手へ伝わる微動にも、雨を感じる。  ホチキスで書類を綴じていたら、少し

          いつもどおりの生活に

          友人Aと湯治へ

           初めて温泉に入った。恥ずかしさ云々を通り越して、とにかく自然の力はすごいという感想に尽きる。あの水面の揺らめき、大浴場に立ち込める湯気の濃さ。顎下まですっかり湯船に浸かってしまうと、ぼうっとして何も考えられなくなる。眼前に広がる山並みを眺めていたら、日頃何となく気にしていたことが、何もかもちっぽけに思えた。何か考えようとしてみても、絶えず流れ込む源流の音がすべてかき消してしまう。だいたい、こんな丸腰の状態で知らない人と一緒にいることは、普段の生活ではまずないだろう。そういう

          友人Aと湯治へ