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違うところにいる

 もう何年も聴いていなかった音楽と、久しぶりに向き合った。苦しかった時期の記憶を起こしてしまうことが怖かったから、ずっと封じ込めていたけれど、もう何とも思わなくなっていた。意識の水面下にある何か、自己防衛のような機能のおかげで、ようやく平気になれたのかもしれない。それでも、この曲を好きだと思うその感性は変わっていなかったから、わたし自身がいつのまにか少し強くなったらしい。

 定期の診察を終えて、書店へ。軟膏の山で膨れ上がったビニール袋に、あちこちで裂け目ができていた。いろいろな事情があることは汲み取れるが、こんなに薄くなってしまうと、何だか気の毒だ。とにかく帰宅するまでは持ち堪えてほしいと、心の中で激励する。

 大型書店に併設された文房具売り場で、小さなゴム印を集めた棚があった。「重要」、「親展」、「回覧」等々よく見るもののコーナーから外れると、違う箱に迷い込んでいるはんこがいくつかあったので、ひとつずつ確認する。上下逆さまに入ったもの、隣の箱と入れ間違えたもの、共通の漢字がある全く別の用語のものがあり、何となく間違えやすいパターンが見つけられておもしろい。とりあえず正しい位置へ。次来たときにはまた元に戻っているかもしれないが、職場と違って、毎日のように足繁く通う訳にもいかない。言うまでもなく、これが人の手によるものではなくて、ゴム印同士の交流によって違う箱にいるのなら、一向に構わないけれど。

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