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いつもどおりの生活に

 このところ残業続きであるにも関わらず、職場を出るときの空がまだ明るい。なんだか、1日に使える時間がたくさん残っているような気がして、つい寄り道をしたくなる。眠りに就く時間帯も少し遅くなってしまい、しかし寝るために出かける時間を遅らせることは難しいからとにかく出勤。時差ボケもなかなか直らず、ぼんやり過ごしているうちに定時を迎えて、また残業。そろそろこの生活リズムに終止符を打ちたい。

 傘の柄からわたしの手へ伝わる微動にも、雨を感じる。

 ホチキスで書類を綴じていたら、少しだけ手応えが軽くなる瞬間があり、蓋を開けてみると先程の針が最後だった。綴じようと思ったら針がない、ということはよくあるけれど、針を使い切ったときの感触が普段と違うことには、今まで気がつかなかったみたいだ。また新しいことを見つけられて、嬉しい。針を充填するときの小さな金属音も、緊張感が和らいで落ち着く。小瓶の中にある使い終わった針たちは、量が増えるにつれて、知らないうちにひとつのかたまりになっており、瓶そのものを揺らしてみてもあまり動かなくなった。さらさらと音が鳴るのは、集めはじめたときだけのようだ。どうやってあんな風に針が絡みあうのだろう。ガチャックは個々の留め金が独立しているというのに。

 人間がたくさんいる空間で過ごしていると、どうしても疲れてしまうから、小ぶりな事務用品の仕分けをして、心を落ち着けたくなる。大きさ別に分類されたダブルクリップたちがかわいい。満足したから、今日は帰ることにした。どうせ一週間後には、またぐちゃぐちゃの状態に戻っているだろう。そうしたらまた仕分けをする。そしてまた満足して帰る。

 同じことばかり繰り返して過ごすこの生活が、単調なようでいてわたしには心地よい。


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