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城下町から

 5月に訪れたときと同じように、水堀に映る城址公園の木々が爽やかで気持ちがいい。気温は37℃。屋外の散歩はほどほどに、城から離れて郊外のカフェへ。ほどよい甘さでもっちりした食感のフレンチトーストに舌鼓を打つ。店内にはドライフラワーがいくつか飾ってあり、そういえば祖母が作ったばらのドライフラワーはどうなっただろうとふと思った。あとで聞いてみたら、以前いただいた可愛らしい梅酒の瓶に保管してあるとのこと。瓶の中で止まった時を過ごしているのだろうか。

 似たようなドライフラワーを、次の移動先でも見つけた。西陽が差し始めたあたりで、ずっと行ってみたかった明治期の香りを残す洋館へ。辺りを埋め尽くすような蝉の鳴き声から、館内で微かに流れる亡き王女のためのパヴァーヌの音を拾い、過去に思いを馳せる。次回はもう少し肌寒くなってから訪れたい。

 少し日を置いて、地元の花火大会へ。わたしが浴衣を身に纏うのは7年ぶりだったが、半世紀の時を越えた布地は身体によく馴染む。知人Bとお寿司を食べて、打ち上げ会場へ向かった。風情のかけらもなく歩きながら雑談に興ずるわたしたちを横目に、開放感あふれる人々が花火を観賞している。アナウンスに耳を傾けていると、馴染みのある企業がいくつも花火をあげており、なぜか温かい気持ちになった。

 史実を鵜呑みにすれば、観賞目的で花火が始まってから今年で290年となる。浴衣を縫ってくれた曾祖母は大正生まれ、先般の洋館は明治期の建築物、城跡と打ち上げ花火は江戸時代と、何かと歴史に縁のある小旅行となった。

 出かける予定のない日には、正午を迎える少し前にようやく身体を起こして昼下がりの入浴を楽しみ、なかなかゆったりした休暇をとることができた。湯船に浸かり、窓から差し込む日光をぼんやり眺めること、また湯上がりにぼんやりすることを、記憶にあるだけの自分史では、夏の楽しみとして長年記している。

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