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タコとともに眠る

 通り道に面した駐車場の金網フェンスが、風をはらんだ帆のように膨らんでいる。車がぶつかったのか、それとも人が寄りかかりやすい位置なのか。こんなありきたりな思考回路からは生まれないような、別の何かの力によって作られた形なら面白い。

 書店の特設コーナーに並ぶ本が、知らぬ間に入れ替わるのは仕方がない。少し前まで注目していた本たちが揃って姿を消したとしても、それに対して不満は言えない。棚の中身が変わっても、足を運ぶたびにそれなりの出会いがある。ロジェ・カイヨワ氏の著作を迎え入れるのは2回目だ。先般、最果タヒさんの紹介で知った本に感銘を受けてから、図書館や書店で、その著者名がありそうな棚に目を配っていたけれど、なかなか見つけられずにいた。嬉しく思う反面、やはり難解な内容が伴うので、読むペースは落ちてくる。それもいつもどおりではある。

 事実がニュースの記事で見たとおりなら、タコもわたしも同じように悪夢を見ているのだろうか。最近は眠りが浅くて困る、などと海の底で思っているかもしれない。水槽か食卓かの二択でしか、わたしとタコが顔を合わせることはなかったのに、意外な共通点を持ち合わせているかもしれない。しかし、もしもタコが本当に夢を見ているとしても、その夢を解析するために必要な共通の言葉を持たないわたしにとっては、別段意味のあることではないような気もする。気晴らしに向かった水族館で、眠っている様子を観察する程度で十分だ。万が一、不眠症のタコがいたら、さすがに仲間意識を持たざるを得ないから、同情心を込めて見守りたい。

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