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友人Aと湯治へ

 初めて温泉に入った。恥ずかしさ云々を通り越して、とにかく自然の力はすごいという感想に尽きる。あの水面の揺らめき、大浴場に立ち込める湯気の濃さ。顎下まですっかり湯船に浸かってしまうと、ぼうっとして何も考えられなくなる。眼前に広がる山並みを眺めていたら、日頃何となく気にしていたことが、何もかもちっぽけに思えた。何か考えようとしてみても、絶えず流れ込む源流の音がすべてかき消してしまう。だいたい、こんな丸腰の状態で知らない人と一緒にいることは、普段の生活ではまずないだろう。そういう面でも、原始に還るようで自然を感じたのかもしれない。とにかくすごかった。露天風呂も、とにかくすごかった。

 夜、周辺の森を散歩した。暗闇に目が慣れてくると、真っ黒に見える木々と、その上に広がる空との境界線が見える。数え切れないくらいの星が見えて、月の光が眩しいくらいだった。たしかに自分の足で歩いているのに、足元が見えないからか浮遊感があって、空の中を歩いているみたいで楽しい。友人Aの腕に掴まりながらよろよろと歩いたこと、それも楽しかった。

 朝6時頃、また大浴場へ。寝起きでまだぼんやりとした体には、42℃の湯はなかなか熱くてすぐのぼせてしまった。露天風呂へ向かう友人Aと分かれて、湯上がりに水分補給をと思い脱衣所を出ると、数種類のお茶が置かれている。青みがかった重たいガラス瓶が素敵で、手にとるとテプラが貼られていた。「ルイボステー」。思わず笑ってしまった。和んだ上に味もおいしい。

 友人Aのおかげで、楽しい休日だった。温泉とのファーストコンタクトも上々だ。


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