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30秒で読める小説 / 古今東西の「愛してる」

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古今東西の「愛してる」シリーズをまとめています。
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#30秒小説

古今東西の「愛してる」:灰色

古今東西の「愛してる」:灰色

愛は国境を超える、と誰かが言った。
でも、それは恵まれた人のセリフだと思う。

高さ10mはあるこの固い灰色は、川下にあるダムのように、私たちの想いを堰き止める。

看守の目を盗んで投げ込まれる、
「愛してる」
の走り書き。

声しか知らないあの人に、応えられる日は来るのだろうか。

===後記===

日本という島国に生まれたためリアリティが無いが、海外に行くと「国境」の存在を感じる。
古くはベ

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古今東西の愛してる:出会い方

古今東西の愛してる:出会い方

たとえば。

朝、曲がり角でぶつかった人。
本を取ろうとして、偶然手が触れた人。
交通事故から間一髪、助けてくれた人。

運命の出会いはいつも突然だ。
誰しもが、そんな宝くじに当たるような奇跡を
期待しながら生きてるはず。

それならば、マッチングアプリで会ったこの人が言ってる

「愛してる」

は、一体?

古今東西の愛してる:馴れ初め

古今東西の愛してる:馴れ初め

日曜日の昼下がり。

「お母さん」

「なに?」

「なんでお父さんと結婚したの?」

「なによ突然」

「いや、なんか気になって」

「なんだったかしら。忘れちゃった」

「え、忘れちゃうの?」

「大事なのは今なのよ」

「またはぐらかす」

「でも愛してるから」

窓からは、柔らかい陽の光が差し込んでいる。

===後記===

大切なのは、過去ではなく、今であり、これからであり、未来。

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古今東西の「愛してる」:レジ

古今東西の「愛してる」:レジ

こんなことある?

この春、私は生活を変えた。

新しい職場、新しい家に、胸が勝手に踊っている。

そして今、最寄りのコンビニに行ったら、レジに元カレが立っていた。

私だけが気付いている、一方通行の戸惑い。

「愛してる」

と言ってくれた時の、朱く染まる波の音と、

私の晩ご飯を読み取る音が交錯する。

===後記===

人と人は、いつどこで会うかがわからない。

いい出会いもあれば、思いが

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古今東西の「愛してる」:流れてくる前か後

古今東西の「愛してる」:流れてくる前か後

昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。

おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯にいきました。

二人は日が暮れるまで働き、夜は仲良く鍋を囲みます。

「ばあさんや」
「なんですか」
「愛してる」
「もうおじいさんたら 知ってますよそんなこと」

めでたしめでたし。

===後記===

時代は違えど、愛は不変。

みんなが知っているあの物語、描かれていなかったとしても、きっ

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古今東西の愛してる:とある真夜中、とある家にて

古今東西の愛してる:とある真夜中、とある家にて

時計の針が0時を過ぎた頃、真っ暗な家へと帰宅する。

リビングの明かりを点け、寝室の扉を静かに開けると、そこには妻と小さな娘が。

すやすやと気持ちよさそうにしている二人を見ると、明日も頑張ろうと思えるから不思議だ。

「愛してる」

聞こえてないと思うけど、聞こえなくても俺は満足だ。

===後記===

「子供の顔を見ると、一日の疲れが吹っ飛ぶよ」とは良く言われることですが、愛の力は、どこまで

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古今東西の「愛してる」:下手

古今東西の「愛してる」:下手

恋に上手いも下手も無いと思うが、私の彼氏は、恋愛下手だ。

お店だって予約してくれないし、約束や時間にだってルーズ。

自分勝手でワガママで。

でも毎晩寝る前に「愛してる」って言ってくれるだけで、モヤモヤしていた昼間の感情もアイスキャンディーのように溶けていく。

私も、下手なのかもなぁ。
===後記===
何事にも、上手いとか下手とか、そういう判断軸は使われる。

それがどんなジャンルであろう

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古今東西の「愛してる」:脅威

古今東西の「愛してる」:脅威

その日、世界は衝撃を受けた。

日本を襲った未曾有の大災害。

自然の脅威に為す術のない人々の様子が、電波に乗って数億人の元へ届けられる。

崩れたビルの傍らで、泣き叫ぶ少女と、瓦礫に埋もれ動けない父。

「愛してる。」

諦めと愛情が入り混じったその表情と言葉は、国境と時代を越えていく。

===後記===

私たち人間は、生まれた瞬間から自然災害の脅威に襲われる可能性をはらんでいる。

特に日

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古今東西の「愛してる」:ヒーローインタビュー

古今東西の「愛してる」:ヒーローインタビュー

「それはもちろん、ファンの皆さんのおかげです」

試合後のスタジアムは異様なムードだ。

「それでは、ファンの方々へ一言」

こんな緊張は初めてする。

「愛してる」

「え?」

「あ、いや、ファンの皆さんに向けてです」

「なんだか愛の告白みたいですね」

「いえ...」

公共の電波、キミのために使ってみた。

===後記===

がんばれ、日本代表!

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