シェア
八潮七瀬
2018年1月15日 17:49
冬空のしたでフォーレのヴァイオリンソナタ2番2楽章を聴いていると、中学2年生の冬のことを思い出す。とてもとても大好きな人がいて、でもその人にはもう半年も会っていなくて、連絡先も知らなければ、彼は私が自分を好いているということさえも知らなかった。何一つとして伝達手段を持たなかった私ができたことは、夜空を見上げ、彼への気持ちを星に託すことだけだった。彼と私はセックスなんてしなかった。身体を使
2017年6月18日 12:00
夏至が近づくにつれ、肌は湿り気を帯びる。心の泉に湛えられた水が少しずつ表面に滲み出るのだ。身に纏う布が一枚一枚と減ってゆき、世界と心の境界線があと1枚と少し、となった時。やはり、その境界線は美しいものでなければならない。だって、境界線を飛び越えるのには勇気と高揚感が必要だから。 恋人と初めて出会った夜に着ていたワンピースは、その数日前に池袋のデパートで手に入れたものだった。早速階上のサロ
2017年6月16日 21:05
男は海が七つあることを知らなかった。それなのにこれ程に海に愛されている。「君の故郷のトーキョーには、海はあるのかい」と彼は尋ねた。目の前には、彼の生まれ育った小さな街をずっと見守り続けてきた海が、日の名残りを受けて僅かに朱く染まっている。大航海時代、貿易港として栄えた街だ。旧市街の赤みのかかった煉瓦で作られた古い建物は、海に面して所狭しとひしめき合っている。「あるわよ」と答えながら、東京の